一、
地球の遥か上にある大気圏のその上。
人の目には見えず、何者にも邪魔されない『それ』がそこにあった。
『それ』の名前は、死神街
死神街は、そのものに街とあるが、一つの国の名前である。
「あー、ひまだわ……」
菫色の長髪を悪風になびかせているその姿は、
誰もが恐ろしく思う、死神の頂点に君臨するものだった。
「あ!そうだ」
死神――アリア・レマード――は何かを思いつき、手元のベルを鳴らす。
すると上から、黒いローブをまとった男がおりてきた。
男の名は、ロッド・クレイア。
「ロッド・クレイア、貴方にやってもらいたい事があるの」
「はっ、なんでしょうレマード様」
ロッドは、『死神、悪魔』と『神、天使』の中間に存在する仲介者である。
仲介者は常に‘『死神、悪魔』と『神、天使』の中間’に存在しなくてはならない。
「ロッド、『神と天使』の時限まで飛んで、‘この私、アリア・レマードを死神から『人』へと変えてくれ’とあちらの神に伝えてきて?」
「ほっ、本気でございますか!?そのような事をすれば貴女様はこの街の頂点ではなくなられますよ!」
「いいのよ、別に」
アリアはあわてるロッドに言い聞かせるようにいい、続ける。
「私は生まれたときから与えられた地位にすがるほど、馬鹿じゃないのよ。それに………」
アリアの言葉が止まった。
ロッドは、急き立てるように問う。
「それに………なんですか?」
「生まれたときからちやほやされて、‘苦労’って言葉を知らないのよ、私」
「……………」
一瞬、ロッドには、アリアの顔が寂しそうに見えた。
だから黙って、その場を出た。
「わかったでしょロッド、早く行ってきてって…………あら?」