第七話 心の再起動
だいぶ日にちが空いた希ガス....。で、でも、諦めませんから......orz
空を見上げながら俺は思った。脳が夢を作るとき、記憶にある情景を片っ端からデタラメにつなぎ合わせてるというのは、本当のことなんだ、と。なぜ太陽が満ち欠けしてるのかは、考えても無駄だな...。夢の内容に突っ込みだしたらキリが無いだろうし。
話を戻すが、やっぱり近くに人の気配は無い。スポーン地点が悪かったようだ。出直す、なんてことは、さすがに出来ないよな────。いや、出来るかもだけど、成功率が悪そうだからやめておこう...。一度目を覚まして、また同じ夢を見れば良いだけの話だけど、たぶんしくじる。しくじったら最後、この素晴らしい世界には二度と戻ってこれないかもしれない。それはいやだし。
仕方が無い。とは言っても、やることも見つからない。人を探してうろつくのは無謀だと今分かったところだ。かといって、このまま目を覚ますつもりもない。
俺はしばらく、その場に座り込んで景色を眺めることにした。
俺の視界にはテンプレなファンタジーの世界が広がっている。ハイスペックpcが映し出す、MMORPGのなかにVRヘッドセットを使って入り込んだ感じ。いや、そんなんとは比べものにならないほど高画質。だって、夢とはいえ今俺は本当に異世界にいるのだから───。
こうやって景色を眺めたまま10時間耐久するぐらい余裕な気がする。けど残念ながら、異世界は美しいばかりではないということを俺はよく知っている。脳内に蓄積された、ほぼ無尽蔵の資本(妄想することによって編み出した、八百万のストーリー展開)が教えてくれた。俺は夜が好きだ。でも、夜は俺を好いてくれないかもしれない。完全に日が落ちきってしまう前に、何かしら行動を起こさないと。さすがに魔物が跋扈しているところを、一晩中逃げ惑うのは御免だ。
唐突に不自然な眠気が襲ってきた。このまま眠ってしまうわけにはいかないし、全然眠れる気もしないのだが、興奮している心体とは無関係に思考力が落ちていっている。一段階ずつ、カクン、カクンと、脳がクロックを落としているのが分かる。なんかデジャブっているような気がするんだが───。 そうだった。これは夢。そう、夢だったな。長かった夢が、ようやく覚めようとしているに違いない。少し悲しいが、醒めてしまうものは仕方が無い。俺は早々に意識を手放した。
空調の風が顔にを撫でる。地下鉄を使い始めた頃は臭いと思っていたこの風も、もうすっかり臭わなくなってしまった。鼻ってすごいな。すごい──馬鹿なんだな...。
目を開けた。これぞ現実!という景色が映る。さっきの異世界が嘘のようだ。あの世界(夢だよな)に行ってから、4時間ぐらいは経っていそうなのに、俺がここで居眠りを初めてから1分も経っていない。ホームの時計も、俺のケータイの時刻表示もついさっきまで止まっていたかのようだ。
地下鉄に乗りながら、俺は久々に気持ちの昂ぶりを感じていた。思えば小学校の高学年の頃以来、こんなにドキドキとした───、希望?のようなものを感じたことはなかったような気がする。限りなく無気力で、ここしばらくずっ入出力ゼロだった俺の心には少々刺激が大きかったようで、心拍数の上昇に少し気分が悪くなるほどだった。
家に着くと、そそくさと食事などを済ます。何を食べたか、洋食だったか和食だったかすらわからない。就寝用意を終え、いつも通り親にお休みを言うことなくベッドに寝っ転がる。いつもはこれから朝まで画面とにらめっこするけど、今日は寝る。そう、寝るんだ。もしかしたらもう一度───。 それにしても、寝るってなんて健康的な響きなんだろう...。寝る。ねる。うむ。
いつ頃寝たのかははっきり分からない。しばらく寝る寝るぼやいてたのは覚えてるけど。閉じたまぶたごしに、眩しい光を感じた。俺は期待に胸を踊らせ、そっと目を開ける。
そこには、とても美しくかつ雄大な景色が広がっていた。日の光を受けて輝く草原。後ろには未知の植物で構成された森林。空には三日月のように欠けた太陽。遥か遠くには少し雲がかかった山。───どこもさっきとまったく変わっていない。1mmたりとてずれずにリスポーンしてしまった。
「あー....。」
これはもしや、どこに行くにも自分の足で行かないといけないって事なのカナ。あたり一面壮大な自然が広がっているばかりで、どっちに進もうなんて見当も付かない。スポーンする場所がバグってんだよ...。まったく。それか、脳が思い浮かべる理想が上手く夢に反映できてないだけなのかも。いつまでもここに突っ立ってても、悠久の時が過ぎていくだけだろうし、歩いてみよう....かな。
俺は歩き始めた。方角なんて決めずに、ただ唐突に一歩踏み出していった。
いつまでも変わらない風景。進んでる気がしない。なにせフィールドが広すぎる。理論上、夢の中なら頭で思っていることがなんでもできると聞く。ならばいっそ空でも飛んでみようか。どんな想像すれば飛べるんだろか────。
む~~.....。
飛べそうにない。
ならば走ってみよう。走るという動作なら、日常的にやっていたことだから、空を飛ぶことよりはるかに想像しやすそう。理想の速度は─────。高速道路走ってる車ぐらい?かな?よし、実践あるのみだ。
ちょうどまた一歩足を踏み出そうとしていた。ふいにその足を意識する。わずかに踏み込むテンポを遅らせ───。
ドッ!
もしも今の俺を三人称視点で見ている人がいたなら、その人には俺が一瞬かすんで見えるんじゃないか。いや、さすがに言いすぎかもな。踏み出した足が数cm地面にめり込んだ。足にかかる反作用を最大限に利用。瞬速の第一歩をきる。いきなりものすごい空気抵抗がかかった。贔屓目に見ても、現実世界での全力疾走より1.5倍は速いんじゃないか。調子に乗ってしばらく全力疾走してみる。うん、やっぱり少し速い。さすがに高速道路の車には及ばないけど、この速度ならオリンピック選手にも勝てる。たぶん100m走なら7秒くらいで走れそう。
次は耐久力の確認。どれだけ速く走れても、すぐにバテるようでは意味が無い。またしばらく全力疾走を続けてみる。
走り初めてから少なくとも5分ほどは経過した。驚くことに、疲れを忘れてしまったかのようだ。このままどこまでも走って行けそうな気分だった。横を見てみると、遠くの景色がすこしずつ後ろに流れていっている。決して速くないけど、確実に進んでいってる。このまま、人を見つけるまで走り続けてみようか。
俺は何かが吹っ切れたように走り続けた。
頬が緩んだ感覚は、気のせいということにしておいた。
それから1時間ほど経ったときだった。ふいに日が落ち始めていることに気づく。やばいかもしれない。まるでゾンビゲーなどで最初の夜を過ごすときみたいな緊張感。こころなしか、少し息があがっているような....。まあ、さすがに1時間も走り続けていると、こうなるのも仕方が無いだろうな。瞬速の足に無尽蔵の体力、なんてステータスは少し贅沢過ぎるだろう。
立ち止まって腰を下ろす。なんにせよ、このまま走り続けていようといまいと、どのみち今日中に村とか集落とかにはたどり着けそうにない。結局は魔物が跋扈するフィールドを彷徨うことになるわけで。だとしたらちょっと休憩しておくべきだと思う。
三日月みたいな太陽はもう地平線に近い。黄昏時だ。文字通りに黄昏れてみる。────やっぱり、心が洗われるような綺麗な風景。リアルの夕日とは違って、もっと.....なんていうか。
壮大。雄大。そんな言葉がぴったりな景色だった。CGなんか比じゃない。
だんだん、暗くなってきた。先ほど日が沈み、あたりに闇が立ちこめてきた。空の色は藍に染まり、つい先ほど、遠くから不吉な遠吠えが聞こえてきた。そろそろ夜行性の連中が元気になりだす時間だな。武器になりそうな物はないし、これといった技も魔法も持ち合わせちゃいない。どうやり過ごそうか.....。
俺はゆっくりと立ち上がる。この世界では少し速めに走ることしかできない。素手でモンスターとタイマンなんて自殺行為、したくない。絶対に。こうなったら、全力疾走で夜通し魔物を振り切り続けるしか────。それしか、今の俺にはできないんだし、呆れるほど愚策だとは思うけど仕方ない。軽く足首をストレッチし、全力疾走の準備にはいる。───はぁ、運動の中で1番嫌いなのが長距離走だっていうのに。
そろそろ走り始めないとな。目の利くモンスにタゲられる前に走っておかないと手遅れになる。下手すればグロい死に方するかもだけど、そんなに恐くはない。現実よりはずっと楽しい世界だ。夜行性なのは俺とて同じこと。俺だって、元気になるのはここからだ。
─────さあ。
─────命がけの駆けっこ、しようぜ...。
最後までカッコつかないなぁ───。
頑張ってまた1話、書ききりました。
いやぁ、この時期は忙しくなりますね。読書の秋、実りの秋、スポーツの秋。
私?私にとっては、イベントの秋ですかねぇ...。秋からクリスマス、正月にかけて、どこのゲームでもイベントの嵐です。それでもとあるゲーム内でのスタミナが切れたり、とあるゲームがメンテナンス中だったり、またとあるゲームでは女の子の入渠中だったりした時に、時間を見つけてコツコツと筆を進めております。
私のような忙しい方でなければ、Hate For Save、読んでみてください。暇つぶしになるかもしれないし、他にやりたいことが見つかるかもしれません。それでは、気長に更新をお待ちください。<(_ _)>