第五話 胡蝶
──長い夢を見てた。夢の後の心地よい気だるさを感じる。体は心地よく揺さぶられている──電車に。時刻を確認すると、とっくに朝礼の時間は過ぎている。どうしようか。
───ま、遅刻ついでにもう少し寝ていくとするかな。俺は環状線もう一周分寝ることを選択した。
──長い夢を見てたような気がした。夢の後の心地よい気だるさを感じる。そよ風が体を優しく包みこみ、背中には柔らかな草の感触。閉じているまぶたの向こう側には日だまりの気配がしていた。まあ、居眠りしてしまうのは俺の、......俺に日々ストレスや心身共々にダメージを蓄積させている先生や親などのせい、ということにしておいて。
俺は、決してそよ風の似合うさわやか少年ではない。なのに地下鉄の中にまでわざわざそよ風さんが来て下さるだなんて。
ん?地下鉄?俺はついさっきまでここで────何をしてたんだっけか。寝過ぎたせいか、上手く頭が働いてくれない。なんだか意識が朦朧としてきた──。ゴタゴタしたことはゆっくり休んでから、また考えれば良いか。
──また夢を見ていたような気がする。しっかりと寝たはずなのに、全く疲れがとれた気がしない。よく夢を見るのは、ストレスのせいなんだよな。夢を見られるのはうれしいけどね。時刻を確認した。今は───。うん、あれから30分は寝たみたいだし。そろそろ学校に向かうとしよっかね。次に下車駅がきたら、今度は降りよう。───そう決めたつもりだったのに─────
また寝落ちした。───お、起きれねぇ...。
───ほこりくさい。目を開けたとたん、舞い散る粉塵に思わず目を細めた。目の前が粉塵でかすんでよく見えない。断続的に聞こえてくる、工事現場のような音。その中に混じって、電子メトロノームのような音が聞こえてきていた。それも結構速い。秒速15回くらいかな、知らんけど。俺は自分の両手が"何か"を持っていることに気付いた。右手ででっかい金属出てきているところを、左手は───グリップ?そこまで考えて、その"何か"が、近代的な飛び道具っぽい物であることに気付く。ということはこの周りから聞こえてくるビートは──。
よくこんな状況で眠れたものだと、我ながら思う。どうみてもここは戦場だ。もしかして、どこか怪我でもしてしまって、気を失っていたのだろうか。だがざっと確認をしてもさほど大きなダメージは見うけられない。まあ、そんなことより重要なことから先に片付けてしまおう。まずは現状把握。気絶していたせいか、それ以前の記憶が上手く掘り起こせない。周囲に警戒しながらあたりを探ってちょいと身をかがめて小走り──────。
バキッ
突如、頭に強い衝撃がはしる。
「あれ、被弾したのか──!?」
慌てて物陰に逃げ込み、あたりの様子を見る。背負っていたバックパックの中身をまさぐる。なんでこんなもん背負ってんだろ。
「一応止血の用意はしておこう。何か布くらい持ってるよな。」一応ものは考えることが出来る。感情も欠損している様子はない。体もこのとおり、動く。ならば、脳内に損傷は無いと見てもいいのだろうか。辺りに気を配りながらおそるおそる頭に手を持っていく。
───ベチャ。 とはならなかった。なにやらヘルメットのような感触がした。コイツが防弾してくれたのだろう。とりあえずこのまま物陰にいることにした。
それにしても、少しの間とはいえ、目を覚ましたところから移動はしているはず。なのにまったく人の気配がしない。まるで俺1人が逃げまどっているだけのような。無人の銃撃戦.....?まだ詳しいことはわからない。考えなしに動いても、蜂の巣になりそうな予感しかしない。近代的なフィールドなのに、時折グチャッと何かを踏むこともあって、少し移動しづらい。この粉塵の量で地面がまったく見えないこともあって、ますます走りづらい。初めは、もしやグチャグチャな死体でも踏んだかな?という、テンプレな展開を妄想したが、こうして地面に座り込んでいても、死臭はしてこない。
そんなことより、興奮状態にある身体とは裏腹に、なんだか意識がビミョーに薄れていっているような気が──。数秒ごとに、クロックが落ちてきてる感じだ。
ここは安全地帯みたいだし、いっそここで眠ってしまおうか。
思考力が低下しているせいで、今の状況に危機感を持つことが出来なくなってきていた。
「──もう、寝みぃ......。」
俺はそのまま後ろの金属塊にもたれかかる。
頭をもたれかけさせた時、コツっと音がした。
「ちょ、ちょっと、ちょっと。お前、学校は。」
なんか聞こえる。やっぱ俺の他にも人がいたのか...。
・・・あれ、なに言ってんだろ。地下鉄の中なんだから、人ぐらいいてあたりまえだろが...。
「おい。おい。お前。」
───うっせーな...。俺は今気持ちよく寝てたんだぞ...。
先公みたいな口調しやがって...。不快だ。
目を開けた。すると、目の前にはあまりそりの合わない教師が1人。
「───はい?」
「いやいや、お前、はい?じゃなくて。学校にもいかず何してんの?」
「...........。」
「寝て、ました。」
「いやだからお前、いつまで寝てんだ?って話でしょ。」
「──あー、はい。」
「お前、そうやって親御さんに迷惑かけて、お前僕に探しに来させといてその態度はないだろ。」
「───あー、...はい。」
───たのんでない。
「まあ、とりあえず、次の駅で降りるから。逆回りに乗って、学校にいくから。そうしたらちゃんと担任に謝れ。
「───あー...はい。」
親にまで連絡がいったか。めんどくさ。今日、帰りたくねーな。遅刻ぐらいで親に報告垂れ流してんじゃねーよ...。
今日は帰り、どっかに寄ろう───。
やっとハイファンタジーの兆候が見えてきましたね。え?意味分かんない?ごめんなさい何でもしますから。名前?
───まあ、いつか.....ね。
さて、俺も寝みぃ.....。この魂引っこ抜かれてくような感覚、あんまり好きじゃない....かも───
バタッ