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異世界屈指の不動産業者《リーアルター》  作者: ゆーくんまん
第1業務 南向きよりアナタ向き
6/6

4:競売(パダーニャ)

 

 空錠ノルマが桜塚エステートに入った丁度そのとき――空錠不動産の事務所では招かねざる顧客が押し寄せていた。キッチリした高級な撚糸で織られた紺色のスーツの男が数にして3人、皆ジャケット内に気品に満ちたベストを着込んでいる為見た目は大手企業の重役社員に見えるが、姿勢、表情、人相がチンピラを思わせるためイマイチ気品に賭ける男達であった。

 その男達が入ってきたのを確認してから、空錠ミリカは弟や幼馴染に見せる姿とは、全く違う口調で話しだす。


「まだ諦めてなかったんですか……しつこい方々ですね」


 小さな背丈と愛らしい容姿を持つ彼女からは考えられないような冷たい口調が放たれた先、3名のチンピラの内の2人がそれに身を乗り出して応える。


「社長さんよぉ! ええかげん首を縦に振ってもらわなぁ困るんよぉ。タ・チ・ノ・キ! 考えてくれたかのぉ!?」


「校門前に事務所構えて300年! もう店畳んでもええころあいちゃうんけ? あぁ!?」


 そんな脅しに全く引く様子を見せないミリカ。チンピラ達を気にもとめず頭と思われる帽子の男に向かって口を開いた。


「アタナ達が教会……全日本不動産協会ゼンホレンの差金だという事は解っています。大方、今度校門前に建築予定の新校舎にウチの事務所が邪魔なのでしょう。だからこんな強引な立ち退きを迫っている……違いますか?」


「……あぁ? な、何言っとんのや」


「は、話逸らすんやないで! このアマぁ!」


 どうやら帽子の男の手下らしい2名はミリカの一言にあからさまに動揺を示したが、後方の男は余裕の表情を浮かべ、シルクハットのつばを指で弾く。


「クフフ、ミリカさん……貴方は勘違いしている。この事務所の立ち退きは学園前駅全体の活性化の為行う都市計画改正案です。ブリジッド魔法学園新校舎が建築されれば学生の人口が大幅に増える……後々は学園前商店街全ての業者の懐が潤うでしょう」


「ブローカーさん……その為に空錠不動産は人身御供となれと。そういう事ですか?」


 ミリカは表情一つ使えず、調律者ブローカーと呼ばれる男に冷静に言葉を発した。


 都市計画法――用途地域内で建てる事の許される全ての建物には用途制限が付く。

建ぺい率と容積率というものが存在するのだ。この国では大型の建物を建造する際、前面道路を最低でも4メートル以上開けなければならないという事と、隣接する建物(この場合空錠不動産)が存在する場合、建築される建物の高さが7メートルを超えるか、3階以上(地階を除く)の場合、日影規制(日照権)の適用を受ける。

 

「クフフッ流石ミリカさんです話が早くて助かります。新校舎を建築するにあたってこの場合、道路は確保できますがこの事務所が存在すると、学園側は3階以内の建物しか建築することは出来ません」

 

「そうですね。学園側がセットバックするか、ウチを潰して無理やり建築申請を通すかの2つに1つですか」


「セットバック(建物を削って後ろにズラす)はあり得ませんからねぇ……それに潰すと迄は言ってませんよ。あくまでコチラがお金を払いますから貴方達姉弟は此処から出て行って下さいとお願いしているだけです」


「……同じ事ですよね」


 ミリカがどこまでも冷静に男を見つめる。まるで道端の石ころと話すように冷静に。その凛とした表情にブローカーと呼ばれる男は身を震わせる。――恐怖ではなく歓喜の感情を募らせて。


「クッフッフッ良いですねぇ、実に良い……」

「あ、兄貴?」

「大丈夫ですかい!?」


 ブルーカ―が自らを抱きしめブルブルと震えだした為、手下2人が駆け寄るが。


「弟さん……元気になったようですねぇ。良かった。実に良かった。クッフッフ」


「ーーっ!」


「ミリカさんが首を縦に振らないのなら貴方の愚弟……空錠ノルマ君に聞いて見ましょうかぁ? クッフッフッあの子なら失禁しながら承諾してくれそうだぁ」


 キッ! 

ミリカは幼さの残る童顔を鋭く歪ませ帽子の男を睨みつけた。その右手の刻印からは黄金の光が漏れている。


「な、こんな所でヤり合うつもりかこのアマ!」


 手下がミリカの主任者証テスタメントの輝きに動揺するが、ブローカーは「おぉ怖い怖い」言いながら、あいも変わらず人を喰ったような態度でニヤニヤと笑っていた。


「やはりやはり弟の事になると激情家だぁ……クフフッ此処で”競売(パダーニャ)”を開始するのもやぶさかではありませんがぁ……いかんせん貴方と私では業種・・が違う。これでは解決にはなりません。……ので、では今日の所は帰らせてもらいますよ」


 ブローカーは手下2名に合図して踵を返した。男達の背中に向かってミリカは言った。叫ぶように。


「ノルマ君に手を出したら絶対に――」

審判者ジャッジメントは貴方がたに随分と甘いようですがワタシは違いますよ?」


 言葉を遮られるミリカ。

調律者ブローカーは背中越しに気にせず続ける。


「貴女の”地上魔剣グランドスパーダ”は強力だぁ……ランク3では他に類を見ない最強の力でしょうねぇ」


 しかし、だ。ブローカーは顔だけミリカに向き直り。


「既に解っているとは思いますが……貴方ではワタシに勝てませんから」


 男の輝く右手甲――白銀に輝く主任者証テスタメント。――ランク4。全世界不動産連盟ゼンホレンにその身を置き、業者リーアルターを取り仕切る不動産断罪者ブローカーの証。ーーミリカは黙って見送るしかなかった。



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