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異世界屈指の不動産業者《リーアルター》  作者: ゆーくんまん
第1業務 南向きよりアナタ向き
4/6

2:鉄筋婚約者造姉階建で御座います。

【登場人物】

・野村昭一(空錠ノルマ)

本作の主人公にして元大阪の不動産屋賃貸部門の営業主任28歳。本社炎上と共に異世界モノポールにいる引き篭もりの学生、空錠ノルマ15歳として生まれ変わる。自称)絶対声優音感の持ち主。銀髪、中肉中是、三白眼の少年。

【所持資格】(転生前)

宅地建物取引士

声優能力検定4級

【ステータスパラメータ】

耐久力50

攻撃力50

防御力50

営業力8000以上

資産力0ゴルド(働き初めのため)

※異世界人類の平均ステータス値を100とする。


所属登録屋号:空錠不動産

契約精霊:ケルベロス&八咫烏


「本当に良かった~ノルマ君が無事で~」


「は、はい心配かけました……姉さん」


「アンタなんて一生起きなかったら良かったのに……フン!」


「蘇ってすいませんでしたイニシアさん」


「こんな事言ってるけどイニシアちゃんね? 階段から落ちて動かなくなったノルマ君見て大泣きしたんだよ? にゃはは♪」


「な、泣いてませんよっ! 変なこと言わないで下さいミリカさん!」


「そうなんですか?」


「ノルマ! アンタは黙ってなさい! もう一回ぶん殴られたいのっ」


「申し訳ございませんでした!」


 薄紫のツインテール娘イニシアさん(声は加藤英美里っぽい)の鋭い眼光を浴びて瞬時に土下座する男”空錠ノルマ”――これが生まれ変わった俺の名前のようだ。そして人体急所をぶん殴られ倒れている間になされた会話から、ある程度情報を得ることが出来、俺もようやく状況を把握した所である。そう、此処は元居た日本ではなくモノポールという異世界らしい。そして今いる俺の目覚めた部屋はグランドメゾン空錠というレンガが生える北欧風のワンルームの1室だ。


「何も聞こえなかったでしょ? そうよねノルマ」


「ハイ聞こえませんゴメンナサイ」


 どうやら幼馴染であり婚約者でもあるというツインテールの女の子は”秋桜塚アキサクラヅカイニシア”、そして着ているパジャマがはち切れんばかりの悩ましげなGカップ、今いる3人の中で一番小さな女の子”空錠ミリカ”(声は日高里菜っぽい)この金髪ショートヘアのロリっ子は俺の姉らしい。


「あれ? ノルマ泣かないんだ。アタシが睨んだらいつも泣きべそかいて失禁するのに」


 どんな奴だったんだ俺。


いさぎよい土下座だったねぇ死んだお父さん思い出したちゃったよぉ」


 素行が卑しい人間だったのか父は。


 まぁ多少の不安はあるが、何はともあれブラック不動産本社ビルと共に火事で焼け死んだ俺は、空錠ノルマとして生まれ変わったようだ。会話から推測するに、階段から転がり落ちた哀れな失禁男――過去の空錠ノルマは落ちた拍子に頭を打って死亡したのだろう。俺こと野村昭一は空錠ノルマの肉体と魂に入れ替わるようにして転生を果たしたという訳だ。


(普通こういう人生やり直し系異世界ものって赤ん坊からやり直すんとちゃうの? 前の自分とか人間関係とか全然解らんもんやからイチイチ会話から推測しなあかんやん)


 この手のライトノベルやらアニメやらを熟読していた俺は思いのほか簡単に現実を受け止める事に成功していた。


(まぁオッパイ吸いながら何年も動かれへんのも実際なったら疲れるやろし……まぁええか)


 贅沢は言うまい。なにせ人生28年間で全く無かったモテ期が来たのだ。Gカップのお姉ちゃんと貧乳……は趣味ではないが、ツルペタツインテの婚約者が目の前に現れたのだから。


「いい!? ノルマ!」

「は、はいなんでしょうイニシアさん」


 ちょっと半ニヤケになっていた顔を瞬時に直し、土下座体勢から顔だけを上げた。


「婚約者……なんて! 親同士が勝手に決めた口約束アタシは認めてないんだから! アンタの事なんて全然なんとも思ってないんから勘違いしないでよっ!?」


 な、なんやて!? 全身から血の気が引いていく。モテ期来てなかった! なんてこった……生まれ変わっても俺はモテないのか。

 あからさまに表情に出ていたのかイニシアさんはちょっと困った顔をして一歩引いていた。


「イニシアちゃんそんなこと言ってぇ――」

「ミリカさんは黙ってて下さいっ!」


 そんな女同士の掛け合いなど俺には全く聞こえていなかった。今のこの気持ちがわかりますか? 28年ずっとなかった”女っけ”が、気配だけ残して崩れ去ったこの絶望感が――例えるならこんな感じだ。やっと出来た彼女と桜並木を歩いてお弁当を食べる。他愛のないおしゃべりと恥じらいながら繋ぐ手と手……あぁなんて幸せなんだ。こんな幸せがずっと続けばいいのに。――で、目覚めたら隣におっさんが寝てた。こんな感じだ。ちなみに先月スパワールドサウナで見た夢である。


「ミリカさんもミリカさんですっ! 良い年して弟と一緒に寝るなんてっ」


「にゃはは看病してたら眠くなっちゃって……ね?」


「ね? じゃ無いですよっいい加減弟離れして下さい! だからノルマがいつ迄経っても自立しないんですっ」


「だってノルマ君可愛いんだも~ん」


 なんやて!? 

 火曜サスペンスに出てくるような断崖絶壁から飛び降りようかという絶望的気分であっても、俺のスキル――絶対声優音感を兼ね揃えた素敵耳ポジティブイヤーは、しかと姉の一言を聞き取っていた。


(い、今俺……可愛い言われんかったか?)


 ポジティブな単語だけを。

 そんな言葉があったとは……28年間生きて初めて言われました。丁度部屋にあった鏡で生まれ変わった自分の顔を確認する。銀髪、中肉中背、社会を舐めているかのような三白眼――可愛いか自分コイツ? 疑問はあったが。


「ノルマ君がイニシアちゃんに捨てられてもお姉ちゃんが一生養ってあげるからね?」


「ちょ! ちょっとミリカさんっ」


 ニッコリ俺に微笑み掛ける姉さん……なんて可愛いんだ。奈落まで落ちていたテンションが制空権まで登っていく――大丈夫だ俺! 婚約者は諦めて姉さんでイこう! それでええの? 疑問はあったが正気を取り戻すことに成功する。


「あ、もうこんな時間……」


 イニシアさんが俺の部屋? にオシャレに吊るされている壁掛け時計を見てつぶやいた。


「ホントだ~事務所開けなきゃねぇ。イニシアちゃんは今日もオジさんのお手伝い?」


「えっとそうなんです、電物・・が溜まってて……」


「電物か~実はウチもなのエヘヘ」


「電……物……ですと?」


 土下座姿勢のまま立ち直った途端、聞きたくもない単語が耳に入ってきた。

 ”電物デンブツ”――俺の知っている電物でないことを祈りながら。


「あの、姉さん……1階の事務所って、業種は何を……?」


 恐る恐る聞いてみることにする。


「どうしたのノルマ君? 空錠不動産に決まってるじゃない?」


「はぁ? アンタ何言ってんの? 頭打っておかしくなった?」


 美女2人に滅茶苦茶クエッションな顔を向けられてしまったがそれどころではない。


(不動産屋だと!? 電物ってやっぱあの電物かぁぁぁ……)


 頭が痛い。

 いつか祈ったあの願い――春日神社の神様は婚約者と姉が欲しいという俺の願いは叶えてくれたが、この世から不動産屋を消してくれという最後の願いだけは叶えてくれなかったらしい。よりによって異世界にまで来て不動産屋の家系に生まれ変わるなんて。それも今度は社員じゃなくて経営者側とは。


「あ、そうだノルマ、ウチの電物手伝いなさいよ。後でバインダー持ってくるから」


資料一覧バインダー……と、いうことはイニシアさんの所も不動産業を営まれているの……で?」


「はぁ? アンタ本当に大丈夫? アタシんちはお向かいの桜塚エステートじゃない」


「あぁいや……聞いてみただけです……はい」


 ナンチャッテ婚約者様も不動産一家とは。


「アンタの引き篭もりグセを直す良い機会かもしれないしね。いつまでもミリカ姉さんにばかり働かせてないで手伝いなさいっ!……まぁ言うだけ無駄かも――」


「わかりました」


 引き篭もり? ニートだったのか? 全く、空錠ノルマってのはどんな人間だったんだ。だがまぁ仕方がない。俺の知る不動産業の仕事と同じなら、姉さん1人に任せるわけにはいかん。あんなヤクザな仕事をオットリ小さ可愛い姉さんが個人で経営できているとは到底思えんし。

 ん? どうしたんだ、姉さんとイニシアさんが俺を見て固まっているが。


「ミリカさん……ノ、ノルマが今……解ったって言いましたよね? 働くと……」


「わぁ~♪ ノルマ君お店手伝ってくれるの? お姉ちゃん嬉しいぃ~」


 イニシアさんは信じられないと言った風に顔面を蒼白に染め、ミリカ姉さんに至っては涙目だった。え? そんなに? ホントどんな奴なのノルマ君って。


「まぁ……電物くらいなら新人でも出来る仕事ですし任せて下さい。あとの仕事は見て覚えます」


 異世界不動産事情は謎が一杯だろうしな。……この言葉の裏には姉さんにもっと好かれたいという下心が9割あるのだが。


「あのノルマが……見て覚えるとか」


 そんな事をブツブツ言っていたイニシアさんは急に部屋を駆け出してベランダへの窓を開けた。何事?


「お、お父さん、お父さーん! ノルマが仕事手伝ってくれるってーーー!」


 どうやら真向かいにあるという実家の父に向かって叫んでいるようだ。え? そっから叫んで聞こえるくらい桜塚エステートって真向かいにあるの? ……超競合店じゃん大丈夫? 


「…………だったら」

「でも……まだ……」


 声が遠くて此処までは聞こえなかったが、ベランダから父親と2、3言葉を交わしたらしいイニシアさんが窓を閉めてこっちに戻ってきた。おや? 心なしか顔が赤いように見えるがどうしたんだろうか。


「じゃ……じゃあノルマ、あ、後でバインダー……持ってくるから」


 はて? 急に俯いてしおらしい。あんな凄まじい崩拳を放てるのに、女の子らしい顔も出来るんだなぁ。ちょっとドキリとしながら凛々しい顔を作ってみた。


「はい解りました早急にやらせて貰います」


「も、貰う!? って……そ、そんな、まだアタシ達には早い……もん」


 後半が聞き取りにくかったので聞き返そうと思ったのだがイニシアさんは小走りで玄関を開けて出て行ってしまった。


「姉さん、イニシアさんはどうしたのでしょうか?」


 姉さんはニッコリ顔を微妙に困った感じに曇らせながら「んっとね~」……そう言ってから。


「な~いしょ」


 顎に指を添えてこう言った。何この生物……超カワイイ。俺の姉ちゃんがこんなに可愛いはずがない。思わず目眩を覚えた。そうさ、こんな可愛い姉さんを1人で働かせる訳にはいかない。鬱陶しいお客様や家主の魔の手から守らないといけないのだ。 


(仕方ないやるぞ!)


 経営とは違う方向にやる気を出した俺は覚悟を決める。まずは”電物デンブツ”――それは電話物調デンワブッチョウの略語であり、不動産業を営む上で基本にして最重要ワークの一つである。


(あ、そういえばこの世界って電話あるんだ)


 今更ながらそんなことを思っていたら、姉さんが仕事着に着替えようとしたのか無造作にパジャマを脱ぎだした為、ヘタレな俺はそそくさと部屋を後にした。あぁ……もったいない。 



――これが異世界に転生して初日の出来事だ。

 この日から俺は空錠不動産という事務所で働き出す事になるのだが、この後1ヶ月間は驚きの連続だった。

 家主がトカゲ人間だったり飯が不味かったり、契約時に判子の代わりに魔剣が必要だったり飯が不味かったりとほか諸々。


 ”電物デンブツ”なる謎の言葉を残して物語は1ヶ月後へと進むのだ。


つづく


 

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