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異世界屈指の不動産業者《リーアルター》  作者: ゆーくんまん
第1業務 南向きよりアナタ向き
3/6

1:異世界線「魔法学園前」駅まで徒歩3分

不動産屋あるある其の①

入社1年を過ぎるとグランドラインでも通用するんじゃね? とか勘違いして不動産王を目指す様になる。

 プボォォォォォ……


 朝っぱらから船の音? ありえん、俺んち都島区だし。


 大阪環状線「京橋駅」から徒歩3分、名物グランシャトーを尻目にもうちょっと歩いた所にある1階がスナック、2階以上がワンルームという古めのマンション”京橋リベラルハイツ”そいつが俺の6帖1間のシャトー、だったはずだ。


 キッチンは今時珍しい電熱コンロ(分かる人いるかな、シャーハートアタックが康一君と間違えて爆破してた”こんなもので美味しい料理が作れるのか?”コンロなのだが)が一口、ラーメンどんぶりが2、3枚しか入らない小さなシンク(水回り)、その後ろが風呂だ。トイレと一緒になっているユニットバスというやつだな。そんで玄関横に洗濯機が置けるようになっていて、その全てが6帖に収まっているという素晴らしく掃除が楽なワンルーム物件である。ちなみにベランダはなく窓に直接掛けるレオパレス型だ。

 住み出した時はいつどんなタイミングで女の子が来客されるかわからんのでオシャレに決めていたが、今ではベットとPC以外の場所は散々な有様でありシワシワのパンツが散乱しとる――筈だった。


(何時だ……今)


 ベットから顔を出さずに手だけで携帯を探しながら思う。

 さっきの音はなんだったんだ気持よく寝ていたのに……船じゃなけりゃ蒸気機関車の汽笛のような音? ありえん、俺んち都島区だし。

 駅徒歩3分=ってことは不動産表記上1分80メートル(早歩き)換算だから、俺んちは駅から240メートルという事だ。電車の音はたまに聞こえるが汽車の音はありえんだろう。


(一階のスナックが朝から騒いでるのかね)


 我が家の真下はカラオケスナックである。基本夜がウルサイ、それをネタに家賃をマケてもらって現在家賃26000円と、都島区では破格と言って良い家賃なのだ。

 ……しっかしさっきから枕元を弄っているが携帯が見つからない、部屋に時計を置いていないので時計が解らん何処へ行かれたケータイ殿!? いつもはお隣で添い寝してくれているはずなのだが。


……ズムリん。


 何だこの感触は妙に柔らかいぞ……もしかしてオ○ホでも一緒に抱き込んで寝ちまっていたのか? 確かに絶対に裏切らない永遠の恋人ではあるが、いかに彼女が出来いない=年齢だからって遂に俺はオナホ○ル抱いて寝るレベルになっちまったのか? せめてテンガとかだったらスタイリッシュでカッコ良かったのに。何この思考超コワイ。


「ん……んぅ……っくち!」

「…………」


 オ○ホがクシャミをしたぞ? 一瞬思考が停止するが直ぐ様現実的な思慮を脳が導き出す。

 成程オナ○じゃなかったラブ○ールだったか。それも金髪ロリ巨乳の……俺は酔っ払ってこんな素晴らしいモノを購入していたのか。添い寝ドールさんの乳をワシワシ握りながら考える。そんなに昨日呑んだかな? さて、これ何処に隠そうか、噂では畳の下とか壁に塗り込んで隠すとか聞いたことがあるが――上半身だけを起こして周りを見渡したが隠せそうな場所は……無いな。


(つーか部屋……広いやんけ)


 俺の居住スペースは6帖もなかったはず……8㎡も無かったはずだが見渡した部屋は10帖を超えるワンルームだった。またオシャレな事に壁はレンガ……では無いな珪藻土か。湿気を取ってくれると言われているシャレオツな壁だと思ってくれ。天井は空色のブルーで塗装されている。玄関の方を見ればチンケだったシンクはオーブン付きのアイランドキッチン(壁に張り付いてない台所)に変わっている。


 そこまで考えてやっと気付く


「何処やねん!」


 俺はツッコンだ。


「う……ん……むにゃむにゃ」


 ラ○ドールが漫画みたいな寝息を立てている。


「誰やねん!」


 俺は叫んだ。 

 野村昭一という男はその昔、当時絶大的な人気を誇ったアイドル声優國府田マリ子と結婚したいが為声優を目指した時期がある。関西人であった彼は独りでテープレコーダにラノベの朗読とか録音しつつ、関西弁を標準語に強制した過去があり、通常は標準語なのだが激しく動揺したりすると素の関西弁が出るのだ。


(え~っと……このオッパイは本物や。本物っちゅう事は犯罪や)


 え、何で? 何で俺外人とベットインしてんのコレなんてエロゲ? あ、エロゲっちゅう事はこれは2次元や、犯罪とちゃうわ。大丈夫か俺!? 落ち着くんや。

 現実を認識してから再び現実逃避を試みた残念な脳髄を更に現実に引き戻しながら必死に思い出す。――昨日の記憶を。


(そういえば俺……火事で死んだはずじゃ……?)


 頭を抱えながら思ったその時、玄関側から誰かが入ってきた音がした。


「ミリカさ~ん、ノルマの様子どうですか~? べ、べっつに万年ニートの幼馴染の事なんてどうでも良いんだけどアタシも一応仮にもナンチャッテ婚約者としてちょっと心配で――」


 ややこしい事を言いながら現れたツインテの女と目が合った。


「ア、アンタ……何を……」


「え~っと……」


 どちら様でしょうか? このセリフが出る前に紫のツインテール娘は一足飛びで間合いを詰めてきた。は、速え!? 何てスピードだこの女!


「ノルマ……アンタ何でお姉さんのおっぱい揉みながらベットインしてんの……よ?」


 それは俺が聞きたい。

 そしてこの気の強そうな女は「……よ」に言いようのないドスを乗せて握りこぶしを作っている。何故だ!? 俺は聞きたい。が、あまりにも様々なことが起こり過ぎて俺の2ビットの脳内メモリはショート寸前。


「……うにゃ? あっ! ノルマ君が起きてる!? あ~良かったぁ、お姉ちゃん心配したんだからぁ」


「ミ、ミリカさん……パジャマはだけてますッて!」


「おはよぉ~イニシアちゃん、ノルマ君のお見舞いに来てくれたんだねぇありがとうね~」


「だからミリカさんオッパイ出てますって! ノルマもいつまで揉んでんだこの変態エロ馬鹿シスコン!――ゴミ!」


 恐らくこのまま行けば俺の鼻と口の間――人中に刳り込まれるであろう高速回転しながら迫り来る拳を見ながら、俺は2ビットの脳をフルで回転させ考えていた。

 

 どうやら俺と添い寝していたミリカというちっちゃい子は姉らしい、そしてこの凶暴なイニシアとかいうツインテ女は婚約者らしい。


 烈海王ばりの崩拳を人体急所に食らいながら俺は考えていた。


 もしそうだとすれば春日神社の神様は俺の願いを微妙に叶えてくれたのだろうか。


(何やこのネーチャン達……めっちゃかわええ声しとるやんけ)


 俺の絶対声優音感がこう言っていた。「この女達は売れるで!」――と。何を隠そう花澤香菜をあそこまで育てたのは俺である。

 俺の声優眼ヴィジョンアイがそう言っている! 来年の声優アワードはわしが育てたミリカちゃんとイニシアちゃんやで!――と。


 それ程までにドストライクな容姿と美声を持つ2人の女神が俺の前に現れる。


 プボォォォォォ……


 再び蒸気機関が圧縮した空気を吐き出す音が響いた。

 空錠ノルマが目覚めた場所は大阪市都島区にあらず――此処は王政都市カターノートの一市ブリジット「魔法学園前駅」徒歩3分、鉄筋コンクリート造4階建、築300年の物件”グランドメゾン空錠”の1室である。

1階が空錠不動産事務所になっており、2階以上が全てワンルームになっている。



 野村昭一28歳は、空錠ノルマ15歳として生まれ変わった。

 登ったはずの天国への階段ヘブンズドアの先にあったのは第二の人生。この世界の名は異世界モノポール――人々は魂に”スパーダ”という魔剣を持ち、土地に付随する精霊と契約して魔法を行使する。そしてそれを生業とするのが”業者リーアルター”という選ばれし者達。

 

 リーアルターは覇王の尖兵。

 三大都市――王政都市ビックスロープ、傭兵王国ナゴモンガ―、帝都イーストキャピタル、この全ての土地と契約し、全ての精霊を携えることに成功した者を、人は”不動産王オーバーロード”と呼ぶ。



 この物語は異世界に転生した声優オタクが、大好きなお姉ちゃんを手伝いながらお仕事する何てこと無いお話しである。




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