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序:2 ブラック不動産勤務野村昭一は祈る

 

 モノポリー、いただきストリート、桃太郎電鉄、これらのゲームをやったことのない人間はいるだろうか? 有名なボードゲームだと俺は思うのだが。

 まぁこのいずれのゲームもサイコロを振って、止まったマスの物件や条件を購入、もしくはクリアしていくわけなのだが、不動産屋の仕事はボードゲームに似ている。


 お客様の要望に合った物件を紹介して気に入ってもらったら契約するだけ、簡単だろ? ただ問題なのはボードのマス、”物件”を契約するのは俺一人ではないということだ。――マスは他のプレイヤー、ライバル店によって同じく契約され、無くなっていく。

 契約しやすい良い物件は空いてない(空室がない)、契約出来ない時の方が多いのだ。――ならばどうするか? 答えは簡単だ、だから営業マンがいるんだよ。


「野村ぁ……お前また売上ランキングはいってるやんけ。月ナンボほど稼いでんのや?」


「いや……ボチボチっす先輩」


「相変わらず暗いやっちゃなぁ声もちっちゃいし。何でお前みたいなのが売れるんかさっぱり解らんわ」


 喋り過ぎなんだよアンタ……。

 そんな事を言っていた40代の先輩は3か月後に事務所から消えた。これが1年以内の離職率が5割を超える賃貸不動産屋の日常であり、自分は他の営業マンより優れている、稼いでいる、魅力的である、と思い続けなければやってられない世界なのだ。喋り過ぎる奴ほど成績が悪い、相手に喋らせるのが鉄則だ、相手の表情と口調から真意を読み解き契約にもっていくのがこの仕事なのだから。

 俺は学校でも社会に出てからも人の顔色ばかり伺いまくって生きてきた。”アイドル声系中二病オタク”である自分を隠し通して目立たないように気配を消して生きてきたんだ。その甲斐あってか他人のサインには敏感でありこの仕事では思いのほか好成績を残している。そうさ、根暗で愚痴っぽい自分は隠して客あたりの良い聞き上手の馬鹿を演じたら良い。


 要するに営業とは自分を売る仕事なのだ……が、売り続けると自分は無くなっていく。


 俺は疲れていた。

 だからお願いしたんだ近所にある春日神社に……賽銭箱に五百円も放り込んでな。でも思い出せばこの春日神社のご神体様は俺の願いを聞き届けてくれた試しがねぇよな。中学1年の時頼んだ「國府田マリ子と結婚する」って願いは未だ聞き入れて貰ってねぇし、高2のクリスマスに独りで願った「椎名へきるみたいな姉が欲しい」って願いもだ――確か当時やってたパソゲの影響だったかな……あの時も五百円入れたんじゃなかっただろうか。


 だから今回は確実に叶うように現実的な願いにしたんだ。


「この世界から不動産屋が無くなりますように」


 叶えば明日出社しないで済む……誰もいない小さなワンルームで、ずっと溜め込んでいたアニメを鑑賞できる。HDの容量1テラ越えてた気がするが一週間ぶっ続けで流し続ければカンスト出来るだろうなウンウン。


(無理ならせめて神様……有給取らせてくれませんか)


 そんなモノがあると知ったのは最近だ。正確には有給の取れる空気を創りだしてくれませんかね? が正しい。

 何て神々しい響きなんだ”有給”……そういや昔、悠久幻想曲ってギャルゲったな、誰が解るか知らんがエタメロは最高! である。

 あの時代は良かったなぁ……夢とかサターンとかネオジオCDとかがあってさ、あれ読み込みクソ遅かったよな。


(戻りてぇなぁ……10代に)


 誰だって一度は思うはずだろ?



 翌日我が勤めしブラック不動産は紅蓮の炎に焼かれた。

 やったぜこれで明日から失業保険で半年はアニメ見て暮らせるぜ!……思う暇なんて無かった。

 

 俺も炎に焼かれたからさ。

 あぁ熱いなぁホント、でもまぁ良いか……國府田マリ子も椎名へきるも阿澄佳奈も結婚しちまったし、なんか疲れたし。


 俺は目を閉じて炎に身を任せた。

 死への恐怖も痛みもない、只々アツい妙な気分と共に。

 


 次に眼を覚ました俺が見た景色は、病院でも満開に咲き乱れるお花畑でもなく――日本じゃあまり見ないレンガ作りの壁、古風なワンルームの天井だった。



 そういえば冒頭のモノポリーだの桃鉄だのって話だが……俺、一回も勝った事がないんだよね。あれどうやったら勝てんの?



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