第1話 転生者の覚醒
俺は気づいたらベッドの中にいた。
そうそれは突然にやってきたのだ。たしかその一瞬前は俺の仕事場まで歩いていた最中だった。なんかの事件に巻き込まれたのかな?俺って結構いろんな奴に恨まれたり妬まれたりしてるからなぁ。
いや現実逃避をするのはよそう。「ベッドの中にいた」という説明では実は不十分で、俺が今逃避しようとしてた現実は…
「あーあー」
ダメだ!現実と向き合っても喋れない!てか俺の手足はこんな短くないし体がこんなに小さいはずがない!!
そう俺はどうやら赤ちゃんに戻ってしまったらしい。そんな俺の顔を覗き込む少女が一人。
「vdfgvdgmhjgjbdvdcscdgfjj、dvsfsgtgjfgsfsg!」
うん、聞いたことのない言葉。しかも俺の知る限りではあまりお目にかかれない髪と瞳の色の少女。こりゃ確実に異世界転生だな。
あまりの事態に頭がパンクしたのか、いっそ開き直ることができて冷静に考えれているのか自分でも判断に困るところだが。まぁパニックにならない理由はこんな異世界転生の物語が一部で流行ってたりしてたからだろう。俺としては異世界召喚系のほうが好きなんだけどな。
ちなみに彼の少女は近くにいた垂れ目な女性に走り寄って行った。
多分、彼の少女は俺のお姉さんで垂れ目な女性は俺の母親だろう。あらかた俺の様子を見ようと覗きこんだら俺が声を出したことで姉は興奮して母を呼びに行った、というところだろう。
それにしてもあの母親と思われる垂れ目の女性を眺める。顔、足、ウエスト、鎖骨の下の双丘…じゅるり。これはもう食事の時間が待ち遠しくて堪りませんな!
そんな実に男らしい感想を持ちつつ部屋を見渡す。この家の調度品は品のあるものが多い。どうやらこの家はある程度裕福なようだ。よかったよかった。転生してすぐ奴隷とか勘弁だもんな。もしかしたらこの家は貴族なんじゃないだろうか?
それにしても父親はいないのか?あっ、慌てて部屋に入ってきた大男がいるな。冒険者が持っていそうなバッグを掛けているということは、冒険者だろうか?
よし、これだけ裕福なんだ。もう少し稼いだらそこの淑女を残してダンジョンの深部へ旅立っておくれ。淑女と少女は俺に任せてくれれば万事OKだよ。ぐへへ。
息子がそんなことを考えているとも露知らず父親は俺に頬ずりをする。いや、髭が痛えよ。俺はお母様に頬ずりされたい訳よ。ノット野獣モア美女な気分なわけよ?そこんとこわかってくれないかな?
まぁ言葉が通じる(そもそも喋れてもいない)訳もないので、俺は為す術なく父親に頬ジョリされ続けた。
そんな目覚めから1週間。この世界の言葉に慣れてきたのか相手が何を喋っているのかわかるようになっていた。これは異世界補正なのか子供の学習能力の高さなのか俺の類まれな記憶力の高さに依るものなのか。まぁ俺は喋れてる訳でも無いし理由は何でもいいんだけど。
それよりも俺はこの世界がファンタジーな世界であると痛感してしまい非常に不機嫌である。
ファンタジーな世界でなぜ不機嫌なのかというと、「魔道具が発展しすぎ」なのである。これだけでもまだ「?」な人が多いだろう。…あ、丁度いいタイミングのようだ。
「あーあー」
「あら、もう食事の時間ね。じゃあごはんにしましょうねー」
……
「ゔ―!」
さて、察しのいい方はお分かりいただけただろうか?無茶言うな?まぁまぁそういきり立ちなさんな。仕方ないから答えを出しましょう。そう、この世界では魔道具が発展し過ぎているせいか母親から直接栄養をもらう機会がほとんどないのである! …つまり母親との裸のおつきあいがその分無いわけで。
うおー俺の希望が絶望に変わっていく!バラ色の人生が灰色に塗りつぶされていく!
しかもこの母親、よく父親と一緒に出かける。はっ!もしかして両親そろって冒険者なのか?そういえば、出かけるときにあの母親は「しっかりしないと勝てない」とか「仲間の信頼に応えてあげないと!チームでしょ!」とか激励をしていたではないか。
まさか夫婦揃って共働きだったとは。あぁどんどんお母様からの愛が遠ざかっていく。
そんな中、俺の世話をするのはもっぱら姉の役割のようだ。今日も甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれている。
まぁあの母の娘なのだ、きっと将来も期待できるだろう。話を聞いていると彼女はどうも12歳だそうだ。つまり俺がまだ甘やかしてもらえるだろう5歳のころには彼女は17歳…うむうむ5年後が楽しみだ。
そんな期待を胸に5年間を過ごしたのだが…
「こらー!起きなさいー!!」
彼女は見事な弟煩悩に進化を遂げた。
なかなか両親が家に帰って来ないこともあり、この5年間で二人での生活が長かったというのもあるだろう。
あとどうやら母親と父親は違う職業に就いていたらしく、父親は現在俺たちがいる国とは違う国で活躍しているらしい。だが、母親よりも父親の顔を見る機会が多い。これは父親が暇なんじゃなく母親がとても忙しいのが理由だったする。
「ぼーっとしてないで早く着替えなさい!」
物思いにふけっていると姉からそんな指示が飛んでくる。
姉はどうやら父親に似たらしく、顔は切れ長吊り目で目鼻がくっきりとしていて、髪はストレートに胸の下まで伸びて、スタイルはきゅっと締まったウエスト、170cm位はあるであろう身長、すらっと伸びた足と何ともモデルの様な女性へと変貌を遂げた。…が、母親に似たところもあるようだ。母親同様凶悪な胸部装甲が装着されている。もはや食事はできないが、子供の可愛さでイチコロにし抱き付かれればきっと昇天できるんじゃないかと僕ぁ思う訳ですよ。
「ほら着替えたらさっさとご飯を食べる!…あー、もうすぐこぼしちゃって!ほら拭いてあげるからおとなしくしてなさい!」
「ありがとー、お姉ちゃん」
そう微笑みかけてあげるとこの姉は…
「私はお姉ちゃんなんだから当たり前じゃない」
素っ気なく言っているつもりなんだろうが、顔がこれでもかというくらい蕩けててすごくわかりやすいよ、お姉ちゃん。吊り目のはずの目は実は垂れ目の間違いなんじゃないかってくらい目尻が下がってもはや別人に見えるよ。まぁこの顔すら美人に見えるのだ。わが姉ながら相当なハイスペックである。
「あ゛、やばい。早くしないと遅刻しちゃうじゃない!」
俺の笑顔に見とれすぎているからだよ。
「ほら、早くしないとお迎えきちゃうじゃない!恭介、早く食べきりなさい!」
と目の前の黒髪美少女な姉である「火神優希」が俺を急かす。
むぅ。5年日本で暮らしてきたが、この名前は慣れないなぁ。
やはり転生前の名前である「エルフレイア=ディアナトリナ=スヴァローグ」や「エルフレイア7世」のほうがしっくりくる。なんたって俺はディアナトリナ公国の国王だったからな。こんぐらい威厳のある名前じゃなくちゃ。「火神恭介」じゃあなんか平凡だよな。まあこの家は裕福なくせに平民だから名前が平凡なのは当たり前かもしれないけれど。
おっとそんなどうでもいいこと考えていると優希姉の顔が目がどんどんと吊り上がっていくぞ。
さて烈火のごとく怒られる前に早く朝食を済ませてしまおうか。
まさかの異世界⇒地球転生パターン…しかし、ここから再度異世界の世界に首を突っ込んじゃったりします!
2,3話はプロローグが続きますのでご容赦を!!