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魔法の訓練

「さて、では早速訓練を始めるとしよう」


「はい。よろしくお願いします」


 いつの間にやら体育会系のノリになったが、そういうノリも嫌いではない。

 何しろ魔法が使えるかもしれないのだ。ワクワクするというものだろう。


「さて、まずは魔力を感じ取らねば話にならん。手っ取り早く教えたいが、構わんか?」


「何をするんですか?」


 俺の質問に、ロウセイはなぜかニマリと笑う。


「まずわしがお前を殴る」


「え!?」


 なんで!?


「でもってわしが魔法で治す」


「なんで!?」


 思わず口に出てしまった。


「それが一番手っ取り早いからじゃな」


「いや、え?」


 助けを求めるようにフィナリアの方を向くと、彼女は形のいい顎に手を当てて何か考えている。


「フィナリア…何を考えているの?」


「いえ。とても効率的な方法だと思いまして」


 マジで!?

 綺麗な顔して考えていることは目の前のマッチョなオッサンと同レベルなの!?


「当然回復すればきれいに治る程度の怪我しかさせぬさ。

 本題はお前が魔力という物がどういうものかを理解することじゃからな」


「……その方法で本当に魔力がどんなものかわかるんですか?」


 俺の疑問に、ロウセイは頷く。


「魔力とは我々の魂に呼応して顕現する。

 ゆえに、身に付けるには魂に刻み付けるのが最も手っ取り早いのだ」


「……その方法が、俺を殴ることだと?」


「うむ。怪我をした場所を癒そうとするエネルギーが魔力だと思えばいい。

 まあ一度でわからなくとも何度かやれば分かるものじゃよ」


「何度もやりたくありませんよ!!」


 魂に刻み付けるほどに殴られるなんて想像もしたくない!


「なら一発でできるように頑張れ」


 などと無責任なことを言って、ロウセイは腰を落として拳を構えた。


「ちょっと!」


「いいか、お前の体を癒す魔力を感じるように心掛けるのだぞ」


 と言ってロウセイはその拳を振り抜いた。







「いやはや、思ったより早く魔力の使い方を身に付けおったのう」


「ほんとうですね。

 半日で魔法が使えるようになるなんて、クウヤさんすごいです」


 その日の昼。

 ロウセイとフィナリアの二人は半日で白魔法を習得した俺を褒めちぎっていた。


「………………………」


 一方俺はというと返事をする余裕もなく自分の体に白魔法をかけ続けている。

 はたから見れば仰向けに転がった俺が体のあちこちを触っているように見えるだろう。


「まさか半日で白魔法が使えるようになるとは、よほどこの修行を早く終わらせたかったんじゃな」


「ロウセイ様はどのくらいかかると思われていたんですか?」


「普通ド素人が白魔法を身に付けられる段階になるまでは1週間くらいかかるものなんじゃが、そう考えるとクウヤの奴には魔法に対する予備知識があったのかもしれんな」


 呑気に話をしている二人を尻目に俺はひたすら白魔法をかけ続ける。

 ロウセイ師匠が白魔法を使えば一発で完全回復するのだが、曰く『魔法は使えば使うほどに強力になっていく』らしいので俺が白魔法を使えるようになってから使ってくれなくなった。


 魔力も筋トレと同じく、使っていると使いこなせるようになる。

 その『こなし方』をどれだけ身に着けているかが重要なんだってさ。


 ちなみに白魔法が出来るようになるまでの訓練内容はこんな感じだ。


1. ロウセイに殴り飛ばされる。

2. 白魔法で治療されながら、魔力の流れを感じ取る。

3. 8割方治療が終わったら魔力の流れを模倣してみる。

4. 3が上手くいかなかったら1に戻る。


 ということを半日ほど繰り返したというわけだ。

 何度ループしたかは……途中から数える余裕がなくなった。


 とにかく昼に差し掛かったあたりで俺が魔力の流れをほんの少しだけ真似できたと喜んだところ、実にいい笑顔を浮かべながらロウセイが俺をぶっとばし、今度は一から全部治療してみろと言い出したのだ。


 というわけで俺は目下全力で治療中である。

 確かにロウセイ師匠の言うとおり魔法の使い方が少しずつ体になじんでいくような感じはする。


 しかし俺の白魔法での治癒はロウセイ師匠の10倍どころでは済まない長時間が必要になってしまう。


 加えてロウセイ師匠の白魔法だとわずかばかりに体力も回復していた気がするが、単なる熟練度の問題なのか、自分にかけた場合体力が回復しないのか定かではない。


「時にフィナリア。お主もクウヤに白魔法をかけてみたらどうだ?」


「私が、ですか? ですが私は白魔法を使ったことがありませんよ?」


 黙々と自己治癒を行う俺を余所に、フィナリアと師匠がそんな会話を繰り広げていた。

 ……もしかしてこの流れって。


「お主は元々風魔法を高いレベルで習熟しておる。でもってさっきまで白魔法を散々見てきたのだ。出来なくはないと思うぞ。こういうのはやりながら身に付けるのが最も効率がいい」


「……そうですね。クウヤさん試してみてもいいですか?」


 フィナリアが寝転がる俺を覗き込みながら、フィナリアがそんな提案をしてきた。

 内心で『ウヒョー!』と叫びたい俺だったが、仕事をしてくれたジェントルマン精神が邪念を追い払った。

 

 断じて体中あちこちが痛い上に魔力行使に集中しなければならないためではない。ないったらない。


 ……まあそれはともかくとして。

 フィナリアの提案はいろんな意味でありがたい上に美味しい状況なので、俺は満身創痍の体に鞭打って首を縦に動かす。


「では、失礼します」


 そう言いながら、フィナリアは俺の隣に座りこんで俺の胸あたりに手を当てた。


 それからしばらくの間。

 下心から俺の白魔法の効力が落ちてしまい、妙に長い間しんどいんだか幸せなんだがよく分からない時間が続いた。

 ……ヘイヘイ。俺の精神力なんてそんなもんですよ~だ。


 ちなみにフィナリアはさすがなもので、初め数分の試行錯誤で白魔法が使えるようになっていた。


 たっぷり1時間ほど時間をかけて俺の治療が終わったころ、師匠はよっこらせと立ち上がった。


「さて、わしは午後から仕事があるが、お主らもどうだ?」


「仕事って、昨日やってたようなあれですか?」


「そう。急患でも入らない限り、わしは午後のみ怪我人の治療を行っている。

 お主らの修行にももってこいじゃと思うが、どうだ?」


 なるほど。魔法というのは使えば使うほどその練度が上がっていくものらしい。

 ならそういう場は絶好の訓練所というわけだ。


「でも、俺はロウセイさんほど魔法が使えませんよ?」


「私も白魔法となるとそこまでは」


「問題あるまい。金をとろうというわけではないんだ。

 特に老人などは気が長いからお主らも気長にやればいい」


「……そういうものですか」


 そう言われて俺とフィナリアも師匠と共に治療に当たることになった。


 白魔法というのは便利なもので、切り傷、打撲、骨折に始まり腹痛、腰痛、頭痛と言ったものから解毒まで可能という代物だった。

 

「ありがとうね」


「いえいえどういたしまして」


 およそ10分ほどかけて一人の獣人のおばあさんの治療を終える。

 俺の目の前でロウセイさんがほんの10秒くらいで農夫らしき獣人の治療を終えていたので、俺との練度の差は60倍ということになりそうだ。

 

 いやまあ、腰痛と切り傷ではいろいろ条件が違ってきそうだが。


 ちなみに俺の方には獣人のおばあさんあたりがよくやってくる。

 師匠が、俺とフィナリアは新米なので時間がかかるかもしれないが、それでもよければという人たちを優先的に回した結果そうなったのだ。

 

 ……フィナリアの方には男の獣人連中が長蛇の列を作っている。

 おかげでロウセイの手が空いてしまったので、列の中から治療が必要なさそうな奴らをつまみ出していた。

 どうやら獣人でも人の美醜は似たり寄ったりらしい。


「どんな具合ですか?」


「ああ、はい。よくなってきました」


 今治療しているおばあさんは頭痛がすると言っていたが、どうやらましになってきたらしい。

 実際にこうやって人の治療をするのは気持ちがいい。

 何よりも終わったらみんながありがとうと言ってくれるのがなおうれしい。


「さて、次の方」


「アタシは、膝が悪いんですが」


 ……老人の依頼は持病系が多いのな。

 今回のおばあさんの治療には30分ほど時間がかかった。

 なんでだろう。根を詰めすぎたせいか、少し集中力が落ちてきたようだ。


「どうでしょうか?」


「はい。おかげさまでとても楽になりました。ありがとうございます」


 そう言っておばあさんは喜んで歩いていった。

 そのおばあさんと入れ違いに、ロウセイがこちらにやってきた。


「おいクウヤ。お前少し休憩して来い」


「え? なんでですか?」


「魔力と集中力が切れかかって疲れがたまっている。

 そんな状態でやっても効率は落ちる一方だ。少し休んで回復して来い」


「えっと、さっきのおばあさんに時間がかかったのは、魔力切れだからですか?」


 俺の質問に、ロウセイは首を縦に振った。


「魔法を使うということは体を動かすのと似たようなものでな、魔力が少なくなった状態でそれを振り絞ろうとすると、全快時に比べて集中しなければならなくなる。

 結果、同じ魔法を行使しようとしても効率が悪くなるのでな」


「ああ、そういうことですか」


 勉強に根を詰めすぎると効率が悪くなったりするのと同じことが魔法にも言えるから休んで来いということね。


「分かりました。少し失礼します」


 そう言って俺は一休みするつもりで軽く横になったのだが、そのまま夜まで寝込んでしまった。

 予想以上に疲労がたまっていたらしい。






「いやいや。今日覚えたにしては二人とも見事なものだったぞ」


「そうですか?」


 俺は老人を数人治療したかと思ったら泥のように寝込んでしまった。

 フィナリアは数十人。

 ロウセイ師匠は数百人単位で治療を施しているので、はっきり言って超ショボイとしか思えない。


 しかしそんなことを考える俺に対し師匠は。 


「今日白魔法を覚えたにしては上出来だろう。

 フィナリアの場合は元々風魔法を高いレベルで習得していたのだからな。

 お主とは魔力量が違いすぎる」


 とのコメントを残してくれた。


「魔力量というのは、使っていれば伸びるものでしたっけ?」


「うむ。帝国では魔力は生まれ持った資質次第ということになっておるが、わしに言わせれば魔力を使えばそれだけ容量が増えるものだと断言できる。ただし、日々ある程度使い込まなければならんがな」


「……なるほど。そのための慈善事業ですか」


 確かに攻撃魔法とかを使って魔力をスッカラカンにするのはある程度魔力量が多くなってくると環境破壊につながりかねない。

 そういう意味では白魔法での慈善事業は持ってこいと言えなくもない。


「師匠は毎日こんなことを?」


「うむ。とはいえ今日は急患がなかったからな、別段疲労を覚えるようなものでもなかったぞ」


「……マジですか」


 数時間でダウンした俺とは比べ物にならない魔力量ということか。

 

「クウヤさん。あまり気になさらない方がいいですよ。

 比較対象が悪すぎます」


「……そうする」


「しかしお主も大概じゃよ。

 持病の治療はかなり難易度が高いはずじゃったんじゃがな」


「へ?」


 ロウセイのカミングアウトに思わず目を点にする。

 気になって問いただしてみると。


「打ち身や切り傷の場合その部分だけに魔力を送ればいいのに対して持病の類は患部そのものが病んでいるため必要な魔力量が多い」とか。

「年寄りは若者に比べて生命力が活発ではないので白魔法の効きが悪い」とかいう寝耳に水な情報が出るわ出るわ。


「つまり俺はノッケからかなり難しいことをやらされていたと?」


「そういうことだな。

 半日で魔法を習得したことと言い、今回の事と言い、お主は白魔法に関して言えばなかなかに規格外じゃよ」


 ガハハと笑いながら太鼓判を押すロウセイに、俺はクレームの全てを封殺されてしまった。


「でもクウヤさん。魔法を使う際には注意してくださいね」


 そんなとき、突然フィナリアがそんな忠告をしてきた。


「? どういうこと?」


「魔法を使うと、体にも相応の負担がかかります。

 ですから全力で魔法を使い続けると頭痛やめまいが起きたりすることがあるんです」


「うむ。魔法というものは無理に使いすぎると当然悪影響もあるということだ。

 そのことをよく覚えておけ。今のうちは無理することなく魔法の使い方を身に付けろ」


「…分かりました」


 二人に釘を刺され、俺は晩飯を咀嚼しながら頷いた。


魂に刻み込まれるほど殴られる………。

それってトラウマっていうんじゃないかと思う今日この頃。



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