表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/133

竜人

 竜人。

 フィナリアがそう口にしたことで俺は目の前の怪物が何者なのかを理解した。

 ローブをはぎ取った全身には鱗に覆われており、身長は俺たちよりも大きく上。

 さらに防具らしきものはどこにも装備されていない。


 つまり、フィナリアの攻撃を防いだのは、あいつが装備していた防具ではなく、あいつが纏っている竜燐によるものだ。


「フィナリアさん。さっきあいつに攻撃を防がれてましたけど」


「はい。あの竜燐に防がれました」


 俺の確認に、フィナリアは頷き肯定した。


 そう言いながらフィナリアはゆっくりと剣を構えて俺の前に出る。

 先ほどファーレンベルクに焼かれたと思った竜人は、しかしまるでダメージなどないと言わんばかりにたたずんでいた。


 元の世界の小説とかでも竜人は凄まじい身体能力と堅い竜燐を持っていたりするが、どうやらそれはこの世界でも当てはまるらしい。

 しかしフィナリアの剣閃は素人の俺では目にも止まらないほどに鋭い代物なのだが、それを真正面から防いだ上にファーレンベルクの巨漢を投げ飛ばす腕力。


 さらには単独で騎馬を引き離すほどの走力まであるときた。


「化け物か」


「はい。間違いなく難敵です」


 そんなやり取りをして俺はファーレンベルクの方を向く。

 剣が効かない以上フィナリアでは分が悪い。

 同様に足手まといを背に乗せていてはファーレンベルクでも分が悪いだろう。

 

 そう思い、俺は作戦を組み立てる。


「ファーレンベルク! 容赦はしなくていい。全力でそいつを倒せ!」


「ピュァァァアアアア!!!」


 俺の指示を受け、ファーレンベルクは大きく羽ばたき舞い上がった。


 ファーレンベルクの存在が厄介と感じたのか、竜人はこちらに向かって走り出してきた。


 その選択肢は正解だ。

 俺たちと近接戦になればファーレンベルクは全力で戦うことができない。

 あの巨体では間違いなく俺たちを撒きこんでしまうからだ。


「フィナリアさん!」


「分かっています。お任せください!」

 

 そんな返事をしてフィナリアは竜人に向かって踏み出した。

 情けない話だが、俺に戦闘能力はない。

 となれば、当然この状況ではフィナリアに頼らざるを得なくなる。


「ムウン!」


 独特な掛け声と共に竜人がその拳をフィナリアに振り下ろす。

 

「はぁ!」


 その拳をフィナリアは紙一重で回避し、逆に竜人に切り返した。


「なに!」


 今度の驚愕は竜人のものだった。

 切り付けられた脇腹も他の個所と同様に竜燐に覆われていたのだが、そこがフィナリアの一閃によって浅くではあるが切り裂かれたからである。


 それを確認したフィナリアが竜人から大きく距離を取る。


「ピュァァァアアア!!!」


 その隙をついてファーレンベルクが竜人に体当たりを仕掛ける。

 しかし十分に助走をつけたであろうファーレンベルクの体当たりを竜人は真正面から受け止め、数メートルほど地面を削りながらもファーレンベルクを抑え込んだ。


「ヌ!?」


 しかし、ファーレンベルクの体当たりを受け止めた竜人は、掴みかかったファーレンベルクを放して再び距離を取る。


 その体に若干焦げ跡のようなものが残っていた。

 どうやら、あいつはファーレンベルクの体に長時間触れていることはできないようだ。


 再び距離を取った竜人は、襲い掛かるでもなくこちらの様子をうかがっている。


「投降してください。身の安全は保障します」


 そんな竜人に対してフィナリアは降伏勧告をする。

 しかし竜人はフィナリアの方をちらりと見ただけで無表情を貫いている。


「……」


 フィナリアもやりにくいのか、剣を構えたまま様子を見ている。

 というかなんでさっき竜燐を切ることができたんだ?


「なら、全力で参ります」


 フィナリアがそう宣言すると、突然彼女の髪が少し舞い上がった。

 よく見ると彼女の周りを草が舞っている。


(あれは…風か?)


 まるでフィナリアから風が舞い上がっているように見える。

 そして、彼女の手にしている剣が薄緑色に光っているような…。


「はあぁぁ!」


 直後、フィナリアがものすごいスピードで竜人に向かって突撃した。

 駆け寄ったとか踏み込んだとかではない。

 それは文字通り砲弾のように発射されたような突撃だった。


 突然の光景に驚く竜人に、フィナリアが肉薄する。

 フィナリアの剣は先ほど竜燐を切り裂いている。

 その上あんなスピードで突撃しながら剣を振り抜けば竜人もただでは済まないだろう。


 フィナリアの突撃に、しかしあろうことか竜人はその拳を構え、フィナリアに向けて振り下ろした。


『断空閃!』


『剛龍拳!』


 二人の攻撃がぶつかり合ったと思った直後、フィナリアが大きく後方に弾き飛ばされる。


「フィナリア!」


 俺は思わずフィナリアの方に駆け寄りながら竜人の様子をうかがう。

 先ほどその拳でフィナリアの剣閃を打ち返したように見えたが、どうやら相手の方も無事ではないようで、打ち返した右手に深々と切り傷が出来ている。


「ピイィィアアア!!!」


 その竜人に向かって、ファーレンベルクがそのくちばしを大きく開けた。

 直後、ファーレンベルクの口から……火炎放射が飛び出した。


「な!」

「なにぃ!!」


 驚愕は俺と竜人どちらの物か。

 意表を突かれた竜人は、ファーレンベルクの放った火炎に飲み込まれる。


「フィナリア! 大丈夫か!」


 そんな光景を横目に俺はフィナリアに駆け寄って抱き起す。


 ああ、いやこういう時は下手に動かさない方がいいんだっけ?

 ってもう動かしちまったよ!


 と混乱する俺の前でフィナリアが目を開いた。


「大、丈、夫です」

 

 やや苦しそうにそう言いながら、フィナリアは体を起こした。

 どこまで信じていいかわからないが、とりあえず即死ということはなさそうだ。

 ……無事でよかった。


「……炎鳥様には、あんな力もあったんですね」


「俺も今初めて知りました」


 矢が刺さっても平気だったり、敵には触るだけでダメージを与えたり、火炎放射を吐いたりと本当に底しれないパートナーだ。

 呑気にそんなことを考えていた俺は、しかし直後更なる驚愕に包まれる。


「グオオオォォォォォオオオオ!!!!」


 火炎の中から恐ろしいほど大きな雄叫びが響いたのである。

 その雄叫びに俺もフィナリアもとっさに耳をふさいだ。

 その恐ろしいほどの雄叫びが収まった時、ファーレンベルクの吐いた火炎は消え去り、中から再び竜人がその姿を現した。


「……嘘だろ」


 あちこちに火傷をしているし、肩で息をしているように見えるが、竜人は健在であった。

 さっきの雄叫びには炎を掻き消す効果でもあったのか、ファーレンベルクの吐いた炎はほとんど掻き消えていた。


「……お前たち、名はなんという?」


 そんな敵に対して唖然とする俺たちに対し、竜人は初めて声をかけてきた。


「私の名はフィナリア」


「俺は九条……クウヤだ」


 九条隼也と名乗ろうとして、俺は名乗る名前を変えた。

 この世界ではクウヤと名乗ると決めたばっかりだったからな。


 こちらの名を聞いた後、俺たちの名を聞いた竜人は話を続けた。


「フィナリアにクウヤか。我が名は竜人ベヘル。

 もう一つ聞かせてもらおう。その手に構えたものはなんだ?」


 そう言って、ベヘルはフィナリアが構えた剣を指さした。


「……?」


 一瞬、なぜそんなことを問うのかが俺たちには理解できなかった。


「どうした? なぜ答えない?」


 その問いに、フィナリアが応じた。


「剣が、そんなに珍しいですか?」


「剣。剣というのか。なるほど。人間界にはそんなものがあるのだな」


 興味深そうにフィナリアの手にした剣を眺め、ベヘルはそんなことを口にし、直後、北の空を指さした。


「な!」


 ベヘルが指差した先には数多くのドラゴンが飛んでいた。

 見たところそこまで大型のものではないが、それでも軽く20匹はいる。


「悪いが目的はすでに果たした。俺は魔界に帰るとする」


「待ちなさい!」


 呼び止めるフィナリアを尻目に、ベヘルは一匹のワイバーンにまたがった。


「心配せずとも、すぐに会いまみえることになる。

 それよりいいのか?

 こいつらを放置しておけば近くの街を襲いだすぞ?」


「く!」


 そう言ってフィナリアは迫りくるドラゴンの群れに向き直る。


「クウヤ様!」

 

「分かってます。ファーレンベルク!」


「ピュアア!!」


 ファーレンベルクは即座に飛びあがり、ドラゴンの群れと対峙する。

 巨大なファーレンベルクを相手にしかしドラゴンの群れは全く怯んだ様子もなく襲い掛かっていった。


「ピュイイイ!!」


 しかしファーレンベルクも見事なもので、飛び回りながらドラゴンの群れを一匹ずつ確実に仕留めている。

 形勢不利を悟った一匹のドラゴンがこちらに向かってきた。


「クウヤ様。下がってください!」


「は、ハイ」


 そう言われて俺は思いっきり後方に下がる。

 直後、こちらに向かってきたドラゴンをフィナリアが一刀両断してのけた。


「スゲー」


「神鳥様の活躍には到底及びませんけどね」


 とそんなことを口にするフィナリア。

 先ほどベヘルに殴り飛ばされたのに元気なものだ。


「あっちも大丈夫そうかな?」


 上空の方では、ファーレンベルクがすでにドラゴンを残り一桁まで減らしていた。

 なんか火球みたいなものを吐いているように見えるけど…あんなことも出来たんだな。


「……逃げられてしまいましたね」


 ワイバーンに乗ったベヘルは東の方に飛び去っていた。


「追いかけますか?」


「止めておきましょう。

 こちらも疲弊していますし、飛んでいった方角が悪すぎます」


「?」


 よく分からないことを口にしたフィナリアだったが、こちらが疲弊しているというのは俺も同意見だ。

 ほどなくしてファーレンベルクがドラゴンを全滅させた頃、南の方から土煙が上がっていた。


「ああ、ようやく来ましたか」


「あれは?」


「お忘れですか? ベヘルを追いかけていた追跡部隊ですよ」


 あーそういえば完全に忘れていた。

 というか来るの遅すぎじゃないか?

 まあおそらくいたとしても参戦しない方が良かっただろうから問題ないが。


「フィナリア様! 遅くなって申し訳ありません!」


「構いません。もう終わりました」


 ドラゴンたちはほとんどファーレンベルクが倒しきってしまったしな。


「ところで、今まで何してたんですか?」


「件の間諜を見失ってしまって、この草原内を探索していたところでドラゴンの群れが見えたのでこちらの様子を見に来たのです」


 あーなるほど。ファーレンベルクに乗っているのと馬で走っているのでは当然視界の広さが異なる。

 とっくにベヘルの奴を見失っていたってことなんだな。


「ところで、あのドラゴンたちは?」

 

 ファーレンベルクに叩き落とされたドラゴンの群れを見て、兵士たちは顔を引き攣らせながらこちらに質問してきた。


「戦利品です。町までの運搬をお願いできますか?」


「……分かりました」


 フィナリアの指示に隊長らしき人物が敬礼して応じた。

 ドラゴンって異世界ものだと高級品だった気がするが、どうなるんだこれ?


ケモミミに続いてドラゴノイド!

やっぱ異世界=見た目からですよね!



ご意見・評価・感想・お気に入り登録してくださりありがとうございます!

非常に励みになっています! これからもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ