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カーナイル・ノストハイム

「クウヤ殿。お食事はいかがですかな?」


「あ、はい。美味しいです」


 次から次へと運ばれてくる食事に、俺は舌鼓を打っていた。

 フィナリアに紹介してもらった後、俺は領主であるカーナイルの屋敷へ案内されたのだが、到着した時間がほぼ昼食前だったため、思いっきりもてなされているのである。


「クウヤ殿。こちらのハクト肉は旬の物なので美味しいですぞ」


「あ、はい。どうも」


「こちらは私の畑で採れたいもで作ったテロルという御菓子です。

 ぜひご賞味を」


「あ、はい。どうも」


 んでもってさっきからこんな感じでどんどん目の前に料理が運ばれてくる。

 というかカーナイルが運んできては説明しておいていく。

 おかげで俺の目の前には色鮮やかな料理がたくさん並んでいる。


「続きましては」


「ちょっと待ってください。これ以上は間違いなく食べきれません!」


 料理の品目が15を数えたあたりで俺はストップをかける。

 一つ一つのボリュームは大したことないのだが、いい加減食べきれるか怪しくなってきた。


 料理の出来は素晴らしくいいのだが、さすがに空腹というスパイスが空になればそれ以上食する気にはなれない。


「そうですか? まだまだございますが?」


「後日の楽しみにさせてください」


「かしこまりました」


 といってこちらにぺこりと頭を下げてくる初老の領主カーナイル。

 これだけを見ると領主というより執事と言った感じがする。


 ……つーか断じて領主ってキャラじゃないよな?


「しかし、西方を荒らしていた盗賊たちの捕縛に協力していただいた功労者をねぎらわないというのはこちらも申し訳ないのですが?」


「十分ねぎらわれていますって。

 衣食住を保証していただいているだけでとても助かっています」


 そう。街中でぱったりと領主様と遭遇した後、俺はフィナリアとカーナイルに連れられてお屋敷まで連れてこられ、そこに住まうことになったのだ。

 

 この世界で戸籍を持たない俺は身元不明人に等しいため、最悪獣人の村へと舞い戻って寝泊まりさせてもらおうと考えていたのだが、それをしなくても済むのだからありがたい。


 ちなみになんでカーナイルが街中にいたのかというと、それが日課なんだとか。

 曰く『治めている土地で人々がどのように生活をしているのかを知らなければ統治のしようがありません』らしい。


「それで、ファーレンベルク殿の方は何もなくて問題ないのですかな?」


「ええ、あいつは特別ですから」


 今現在、ファーレンベルクは領主館の庭にて寝転がっている。

 今では遠巻きに町の人たちが見学に来る始末だ。

 というかファーレンベルク殿って……いいネーミングセンスをしていらっしゃる。


 そんなこんなで俺は領主様の用意してくれた料理を平らげる。

 ちなみにフィナリアも隣で食事をとっている。


「では改めまして、クウヤ殿。

 村を救ってくださり誠にありがとうございました」


「いえ。たまたまですから」


「たまたまでも助かったのは事実。感謝の念に絶えません」


 そう言って、領主様は俺に平伏してくる。

 どっからどう見ても権力者って感じがしないんだよなー。


「フィナリアさんもご苦労様でした」


「いえ。厄介なことは全てクウヤ様が片付けてくださったのでこちらは何の問題ありませんでした」


「そうでしたか。

 ところでクウヤ殿は生まれと育ちが辺鄙な場所とおっしゃっておりましたが、具体的にはどのあたりなのですかな?」


「………企業秘密で」


 結局、俺の想像力ではこの返事以外思いつかなかった。

 馬鹿にするならすればいいさ!(←開き直り)


「では、どこの国家にも属していらっしゃらないと?」


「……というより国がいくつあるかも知らないんですが」


 何しろ一昨日この世界に来たばかりなのだ。

 一般教養など身に付いているはずもない。


「なんと! でしたらぜひ我が領地に住まわれては?」


「……考えておきます」


 勧誘され、俺はそう返答することにした。

 どの道拠点は必要になるのだ。

 話を受けても問題はないだろう。


 そもそもの話、俺は戸籍を持たない身元不明人なのだ。

 この話を受けなければ後々が思いやられかねない。


 のだが。


「ただ、俺は世界各地を見て回りたいので、ここを拠点にするとは約束できませんよ?」


 俺は一応この世界の滅びの因果とやらを解かなければならない立場にある。

 そのためには、恐らくこの世界を見て回らないといけなくなるだろう。

 である以上、この地を拠点にするとは断言しきれないのだ。


「であっても構いませんよ。

 我が領民を助けていただいた以上、あなたは既に我が領民の一員です」


 何とも気のいいオッサンである。

 こんなのでほんとに領主が務まってんだろうか?


「ところで」


 食事がひと段落ついたところで、俺は口を開いた。


「フィナリアさんの話だと、この領地の付近では何か厄介な問題が起きているのだとか?」


 俺の質問に、フィナリアとカーナイルが揃ってこちらを向いた。


「それをお聞きになってどうなさるおつもりですか?」


「え? いや、何か力になれるなら協力しようと思、って?」


「協力して、いただけると?」


 そんな俺の返答に、フィナリアが半立ちになって近寄ってきた。

 超のつく令嬢のような美貌が迫り、俺はあくせくしながら頷いた。


「ええ。まあ、成り行き上」


 そう。

 女神レンシアからの頼みごとに始まってすべては成り行きの上だが、俺はこの世界の事を調べなくてはいけない。

 事件やら問題といった面倒事や厄介ごとやらにはなるべく首を突っ込んだ方がいいのだ。


 ……なんか先のことを考えると恐ろしく面倒くさい気がしてくるが、とりあえず先のことを考えるのはやめておこう。


 そんな限りなく灰色な未来設計をする俺を余所に、フィナリアは何かを考え込み、ゆっくりと口を開いた。


「クウヤ様が協力していただけるなら、問題の解決に目途が付きますね」


「というと?」


 フィナリアの一言にカーナイルが食いついた。


「ファーレンベルクで移動をすれば、地方で問題が発生してもすぐに駆けつけることができますから」


「早いのですかな?」


「件の村からここまでおよそ1時間ほどでした」


「なんと! 騎馬隊でも2日はかかる道のりですぞ!」


 カーナイルはそんなことを言いながらグリンとこちらを向いた。


「ぜひご助力願いたいクウヤ殿!」

 

「ま、まあ当面はお世話になるので、その恩返しに」


「ありがとうございます!」


 ……何とも元気のいいおっさんだ。


「ところでカーナイル様。件の襲撃者の様子はいかがですか?」


「ああ。お恥ずかしい限りですが、未だに被害が出続けております」


 突如、フィナリアとカーナイルの二人が深刻そうな話を始めた。

 流れからいって恐らくは件の面倒事だろう。


「あの、とりあえず説明してもらってもいいですか?」


 面倒事の詳細を知らない俺の問いに、二人は首を縦に振った。


「クウヤ様。ここに来る最中、盗賊への警戒を緩めざるを得ない事態が起きたとお話ししたかと思いますが、実はカーナイル様の領内で何者かが暗躍しているようなのです」


「暗躍? 随分と厄介な状況みたいですね」


 暗躍という言葉を使う以上、昨日捕縛した盗賊たちのようにわかりやすい略奪を行っているというわけではないということなのだろう。


「ええ。何者かによって私の領地が荒らされているのです。

 すでにかなりの被害が出ているのですが、その正体がつかめないのです」


「それはなんでですか?」


「恐ろしく腕が立つからだそうです。

 目撃者は出ても捕縛が出来ず逃げられるばかりで、戦った兵士はほぼ全滅しております」


「相手の目的はなんなんです?」


「不明ですが、どうも間者のようなことをしているようです」


 正体不明で腕利きのスパイか。それは何とも厄介な話だ。

 カーナイルが一通り話を終えたところで、今度はフィナリアが口を開いた。


「まともな戦力では何人でかかっても捕らえられないと結論付け、現在その人物の捕縛のために私達はうごきました。

 しかし、相手は戦闘能力のみならず身体能力も並外れており、発見の報告を受けた時にはすでに手遅れになってばかりでした」


「となると、フィナリアさんもそいつと戦ったことは無いと?」


「はい。私が駆け付けた時にはすでに逃げきられた後になってしまいます。

 常に後手に回るうえに、移動手段が騎馬では追い付けないのです」


 なるほど。それは厄介極まりない。

 相手が個人である以上どうやっても先手を取られてしまうし、部隊が駆け付けるころにはすでに追っ手を振り切ってとんずらとくれば対応のしようがない。


 ん? 待てよ。


「それって、ファーレンベルクを使えばどうにかなります?」


「実はそのことを依頼したかったのです」


 俺の一言にフィナリアがそんなことを口にした。


「そうなんですか?」


「はい。相手の強さは尋常ではありません。

 おまけに逃げ足も速いと来れば私達ではどうにもならなかったのですが、クウヤ殿が協力してくれれば活路も見えます」


 そうまくしたてられ、俺は必至に引き攣りそうになる表情を抑えていた。


「……協力するのはやぶさかではないのですが、ファーレンベルクには数人しか乗れませんよ?」


「問題ありませんクウヤさんと同行するのは私一人ですので」


「フィナリアさんは我が領内最強の使い手です。

 ですので、恐らくフィナリアさんを現場に送ることが出来れば活路も見えるというものです」


「……フィナリアさんってそんなに強かったんですか?」


 魔法が使えるし剣閃が見えなかったから相当な腕なのは分かる。

 しかし実際のところどのくらい強いのかがはっきりとわからない。


「山賊相手の時は拠点にこもられていたため手をこまねいていたようですが、一騎打ちであれば並ぶもののないほどの達人ですぞ!」


「よしてくださいカーナイル様。私よりも強い方など大勢います」


 際限なくテンションを上げるカーナイルをフィナリアが窘める。

 フィナリアが領内随一の腕前であるのなら、その襲撃者にぶつければ片が付くかもしれないと考えるのも妥当だろう。


「分かりました。

 で、当面はその襲撃者の情報が入るのを待つってことでいいんですか?」


「はい。そうなりますね。

 お二人には情報が入るまではこの屋敷で待機していただくことになりますが、よろしいですか?」


「「分かりました」」


 俺とフィナリアが同時に返事をしたとき、近くの廊下を誰かが走る音が聞こえた。


「カーナイル様!」


「何事です?」


 何やら慌てた様子でやってきた兵士は。


「件の間諜がナルスの町で発見されたとの報告が入りました!」


 との一報を持ってきた。


「クウヤ様。さっそくお願いさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「え、ええ、もちろん」


 どうやら早速厄介ごとが舞い込んできたらしい。









 ナルスの町というのはカーナイルが住んでいるノスタリアの北に位置する町らしい。

 兵士の報告を受け、俺たちは早速ファーレンベルクにまたがってフィナリアの指示する方向に飛び出した。


「ところで情報伝達ってどうやってやってるんですか?」


 ファーレンベルクの背中で、俺は思わず気になったことを質問していた。


「通信用の水晶があるんですよ。

 各町に一つずつ設置しているので、有事の際にはすぐに連絡が取れます」


 固定電話のようなものか。

 そういう物があるなら伝達手段は思っていたほど悪いものではないだろう。

 となると問題は俺たちが間に合うかどうかだ。


「ナルスの街っていうのは、あとどのくらいで着きますか?」


「このスピードならあと5分程かと」


「……間に合ってくれよ」


 そんな会話をしてしばらくすると、ノスタリアよりも一回り小規模な街が見えてきた。


「あの広場に降りてください」


 フィナリアの指示を受けて再び街中にファーレンベルクが舞い降りる。

 あらかじめ連絡を受けていたのか、ノスタリアの時ほど兵士たちから敵意を向けられることは無かったがそれでもバリバリ警戒されている。


「状況は?」


 しかしその警戒もフィナリアが飛び降りた直後に解かれた。

 信用されているんだなー。


「は! 間諜は東の平原へと向かった模様。現在騎馬隊が追跡中です!」


「分かりました。あとは私たちが引き受けます」


 そう言うと、フィナリアは軽く飛び上がってファーレンベルクにまたがる。


「クウヤ様。あちらへ」


「了解。ファーレンベルク!」


「クルル」


 ファーレンベルクが飛翔し、フィナリアの指示した方向へはばたく。

 相変わらずファーレンベルクは賢く、こちらの視界を確保しやすい高さで飛んでくれる。


 低すぎると視界が狭いが、高すぎるとそもそも目標が見えなくなる。  

 それを察して、ファーレンベルクは俺がギリギリ確認できるくらいの高度で飛んでくれるので非常にありがたい。


「いました。あそこです!」


 町から出たあたりでフィナリアが平原の一角を指さした。

 そこでは数名の騎馬が平原を駆けており、その騎馬の先に一人、何者かが平原をものすごいスピードで駆け抜けている。


「……何者だあいつ」


 黒いローブのようなものを身にまとっているそいつは、馬に乗っているわけでもないのに明らかに追跡している騎馬隊よりも速い。

 というか目に見えて引き離している。


 身体能力と戦闘力が高いので獣人族かと思っていたが、あの速さは明らかにそのレベルを超えている。


「なるほど。あれでは追跡ができないのも頷けますね」


 フィナリアの意見に俺も首肯する。

 生身であんなに速く動けるなら、まともな兵士では追跡できるわけもない。


「クウヤ様!」


「おう!」


 しかしだからと言ってファーレンベルクの飛翔速度よりも速いわけではない。

 ファーレンベルクは見る見るうちに目標に近づいていき、追い抜き、一度大きく翼をはためかせて立ちふさがった。


 突然現れたファーレンベルクに、さすがの黒ローブも足を止めてこちらの様子を確認する。


「はあぁ!」


 そんな黒ローブに、ファーレンベルクから飛び降りたフィナリアが切りかかる。

 フィナリアの一閃を、しかし黒ローブは避けるそぶりも見せなかった。


 直後、鈍い音が響きフィナリアと黒ローブがすれ違う。

 即座にフィナリアが振り返ったが、その表情はすぐれない。

 

 手傷を負ったというわけではなさそうだが、さっきの鈍い音から言ってフィナリアの剣が防がれたということなのだろう。

 

「ファーレンベルク!」


 まともに戦えばフィナリアでも危ないと思った俺は、ファーレンベルクに加勢を指示する。

 

「ピュアア!」


 草原にファーレンベルクの鳴き声が響き、その大きな鉤爪が黒ローブに迫る。


 しかしファーレンベルクの鉤爪が突如止まった。

 否、受け止められた。黒ローブがその腕で受け止めていたのだ。


「ハアアア!」


 直後、黒ローブから野太い声が上がり、あろうことかファーレンベルクの足を掴んでその巨体を振り回した。


「嘘だろ!」


 突然のとこで俺はファーレンベルクから振り落とされる。


「クウヤ様!」


 地面に激突する直前に、フィナリアが俺を受け止めてくれたので事なきを得た。

 しかし、そんな俺たちの目の前で黒ローブはファーレンベルクを振り回してそのまま地面に叩き付けた。


「……マジかよ」


 その光景に俺は思わずそんなことを口走った。

 俺を支えるフィナリアも絶句している。


 ファーレンベルクは、体長4mはあろうかという巨体を持っている。

 実際に持ち上げたことはないが、その体重も恐らくは凄まじい者があるだろう。

 だが、黒ローブの襲撃者はそんなファーレンベルクを軽々と振り回して地面に叩き付けたのである。


 並みの怪力ではない。


「チッ…」


 しかしその直後、黒ローブは突然ファーレンベルクから手を放した。

 かと思うと突然男のローブが燃え出した。

 おまけにファーレンベルクは何後もなかったかのように立ち上がった。


「……そういえば」


 いつの間にかファーレンベルクは体に炎を纏っている。

 が、これは敵意を持たなければ熱くはないと女神レンシアは言っていた。

 ということは逆にファーレンベルクが敵意を持った場合、あいつが身にまとっている炎が牙をむくということになるのかもしれない。


 加えて言えば、ファーレンベルクは地面に叩き付けられたダメージを全く見せていない。

 

「どんだけだよ」


 ファーレンベルクの底知れないスペックを目の当たりにして俺は戦慄を覚える。

 そんな俺の目の前でファーレンベルクの炎に焼かれた黒ローブは、その纏っていたローブを脱ぎ去った。


「な!」


「そんな!」


 直後、俺とフィナリアはそのローブの中身を見て絶句した。

 その姿は全身が鱗に覆われていた。


 そして、鱗に覆われた全身を露わにするその人物を目の当たりにし、俺の隣でフィナリアが呟いた。


「竜人族。噂にしか聞いたことのない魔族が、どうしてこんなところに」

自分で書いてて思う。

なんでカーナイルって領主になれたんだ?

世襲制ってことなのかな?


ご意見・評価・感想・お気に入り登録してくださりありがとうございます!

非常に励みになっています! これからもよろしくお願いします!

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