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激戦1

 悪魔たちは帝国兵を蹂躙していた。

 逃げ惑う帝国兵たちは、次から次へとぼろ雑巾のように引きちぎられていく。

 そのあまりの凄惨な光景に、帝国兵たちは悲鳴を上げ、悪魔たちは高笑いを上げていた。


 帝国兵たちは蜘蛛の子散らしたように逃げ惑っている。

 

「ハハハハハ! 脆い、脆すぎる! これが人族だと?

 こんな脆弱な種族を我々は怖れていたのか? 傑作だな!?」


 高笑いを上げながら魔族たちはその翼を羽ばたかせて飛び回る。

 その戦場の中では、火の粉が舞い、竜巻が起こっている。


 悪魔たちは魔法も得意としている。

 そのため一部の悪魔たちが帝国兵を魔法によって蹂躙していたのだ。


「フン。この程度の雑魚どもに魔法を使うとは物好きな連中だ」


 そう言って、悪魔の一匹が背を向けて逃げ惑う帝国兵の背にその腕を伸ばし、その肩に手が触れた瞬間に兵士を握りつぶした。

 直後、悲鳴を上げて砕かれた肩を抑えながら兵士が倒れ込む。

 そして倒れ込んだ兵士を悪魔族は踏み潰した。


 直後、兵士の体が痙攣し、動かなくなる。

 そして、それを確認した悪魔は恍惚の表情を浮かべた。


 悪魔族は吸魂種族である。

 だが、だからといってテオローグのような広範囲にわたる吸魂魔法を扱える者がそうそういるわけではない。

 ゆえに悪魔たちは人族を縊り殺し、その体の内から魔力を奪い取るのである。


「ククク。こうも簡単に食せるとは。

 魔界と違って、人間界は食物の宝庫だな」


 そう言って、悪魔は再び近くにいる兵士めがけて飛びかかった。

 先ほどと同じように触れた瞬間に握りつぶす。

 そのつもりで腕を伸ばした悪魔は……。


 しかし直後に予想もしていなかった光景を目にする。


 腕がなくなっていたのだ。

 具体的に言えば、肘から先がきれいに切り落とされていたのだ。


「な、なんだこれは!?」


 驚き戸惑う悪魔の前に、一人の男が現れた。


「き、貴様、なにものだ!?」


 悪態をつく悪魔に対し、目の前の男は一瞥するだけで応じた。

 突如目の前に現れた男に対し、悪魔は戸惑いを覚える。


 その人族の男は他の人族とは全く違う服装をしていた。

 帝国兵たちが鎧を装備しているのに対し、その男は簡素な布製の服を着ていただけだった。

 特別背丈が高いわけでもなく、恰幅がいいわけでもない。

 それでいて着ている服が平民のそれなので、街中にあれば一般人の中に埋もれてしまうだろうその人物は、だからこそ戦場の中で一層際立っていた。


 そしてその人物がさらに際立っているのは、その手に持った異様な得物だ。


 片刃の、長太刀である。

 平凡そうな見た目に反して、その一つが異様なまでに禍々しく見えてしまう。


「貴様、何者だと聞いているだろうが、……!!!」


 叫びながら突っかかっていった魔族は、次の瞬間に悲鳴を上げる間もなく絶命した。

 いつの間にか、その男が手にしていた長太刀が振るわれ、真っ二つになっていたからだ。


「貴様! よくも」


 その様子に気がつた他の悪魔たちが同胞を切り殺した男を包囲する。

 しかし多数の悪魔たちに包囲されながらも、その男はまるで気にしたそぶりを見せなかった。


「同胞の敵だ。し……!!!」


 そして、口を開こうとした悪魔はいつの間にか振るわれた長太刀によって再び真っ二つになり絶命した。


「グワアァァァ!!!」


「ゲハオ!!」


 次から次へと悲鳴を上げて悪魔達が倒れ伏せる。

 たった一人の人族が、悪魔の群れを手にした長刀で切り伏せていた。


 その光景に悪魔たちはただただ困惑した。

 強大な力を持つ魔王二人が突っ切ってしまったため、自分たちはその魔王二人の取りこぼしを仕留めてきた。


 ゆえにわかっている。人族とは脆弱な種族だ。

 人間界という肥沃な土地で育った者達は、魔界の過酷な環境下で生き残った悪魔族と比べて大人と赤子ほどの力の差が存在していた。


 人族が何をどうしようと自分たちが怪我をすることさえ難しい。

 それが悪魔たちの共通認識だった。


 だというのに突如現れた人族は、単身でその手にしている長い刃を振るいながら悪魔の群れに攻め込んできた。

 その人族が一太刀振るうごとに悪魔たちは悲鳴を上げて倒れ伏していく。


「……いったい何なのだ。あいつは」


 遠目からその光景を見て、アブニールはそうつぶやいた。

 強靭な生命力と、膨大な魔力を持つ悪魔たちは、魔界の中でも屈指の戦闘能力を保持している。

 そのため彼らは蹂躙することはあれど、蹂躙される経験がまずなかったのだ。


「ま、魔法を使え! 奴に近寄らせるな!」


 アブニールは魔界にて培った戦闘経験からとるべき策を思い出す。

 魔界の中にも竜人族などをはじめとする近接戦闘に長けた種族がいるため、このように追い詰められることもあった。


 そういった場合、距離を取りながら魔法障壁を展開しながら遠距離魔法を放つことが最も有効な策なのである。

 

 アブニールの指示に従い、悪魔たちはその身から魔族をほとばしらせ…その瞬間に数匹の悪魔が切り伏せられた。

 尋常ではない速度で手にした刃を振るうその男は、魔法を発動させる際のわずかな隙を的確についていた。


 だが、数匹の犠牲の代わりに残りの悪魔たちは魔法障壁を展開させる。

 これを展開させてしまえば竜人族と言えども簡単に突破することはできない。


 勝利を確信したアブニールは、直後、さらに信じられないものを目の当たりにした。

 人族の男が振るった刃が、いともあっさりと魔法障壁を切り裂いたのである。


「ば、馬鹿な!?」


 魔法障壁は悪魔たちが竜人と戦うために長年をかけて編み出した秘法だ。

 物理攻撃にはめっぽう強いため、突破のためには魔法による攻撃か、圧倒的な物理攻撃を行うことでしか突破は不可能なのである。


 だというのに、目の前の男は刃を無造作に振るっただけで魔法障壁を切り裂いてのけたのだ。

 まるでそんなものなど存在しないかのように、男はあっさりと刃を振り抜いてのけたのだ。


 目の前の男からはほとんど魔力を感じ取ることができないのに、である。


「ば、化け物め!」


 悪魔たちが後退しながら魔法を放とうとする。

 しかし目の前の人族は、それよりもはるかに速く間合いをつめ、魔法障壁ごと魔族を切り裂いた。


「く、喰らえ!」


 数名の同胞が仕留められた代償としてできた隙を突き、悪魔達は魔法を発動させた。

 数十名の悪魔たちによる集中砲火により、人族の男は逃げる場所がなくなった。回避はできない。


(獲った!)


 そう確信したアブニールは、さらに驚愕する光景を目の当たりにした。

 雨のように降り注ぐ魔法の連撃を、その男は手にした刃で全て切り伏せたのだ。


「あ、あり得ない…何者だ、お前は!!!」


 アブニールの問に、人族の男は手を止めて立ち止まる。

 攻撃を仕掛けられる好機ではあったのだが、その佇まいには全く隙が見つからなかった。

 

 突如、人族の男は後方へと振り向きその刃を振るった。

 刃は、男の背後から目にもとまらぬ速さで突撃してきた襲撃者の腕を切り飛ばしていた。


「ほう。わが身を切り裂くとは、その刃も、振るう腕も、どちらも尋常ではないな」


 そう言いながら、片腕を切り落とされた襲撃者は人族の男に向き直る。


「貴様。何者だ?」


 その質問に、人族の男は口を開いた。


「フォルシアン出身、トリストス。人と亜人の混血人だ」


「そうか、トリストスか。いいぞ。貴様の血は、美味そうだ」


 そう言った襲撃者は、直後トリストスに切り落とされた腕を再生させた。

 悪魔たちでさえ驚愕する光景に、トリストスはその手にある長尺の刀を構えた。


「奇怪な体をしているな。何者だお前?」


「わしの名はヴィラルド。

 現存する最後の吸血鬼にして、吸血皇王の名を冠する魔王だ」


 問答を終え、各地にて超人同士のぶつかり合いが始まった。







 トリストスとヴィラルドが人里離れた草原にてぶつかり合おうとしている時、帝都の広場にてテオローグとロウセイも一騎打ちを行っていた。


 とはいえ、二人の戦いは未だに何の激突もなかった。

 たたずむロウセイ相手に、テオローグもまた身動きが取れずにいたのだ。


(この人族。只者ではないな)


 長年悪魔族の王として君臨してきたテオローグの勘がそう告げていた。

 どうにも動きにくくある。

 魔導師を名乗っていながら、見た目にはそれが一切見て取れない。

 いっそ武人とでも名乗り上げられた方がしっくりするくらいだ。


(とはいえ、敵の本拠地でいつまでもにらみ合いをするのも愚の骨頂か)


 テオローグは決して愚か者ではない。

 悪魔族の中でも飛び抜けた戦闘経験を持つ彼は、敵地に乗り込んだ際の定石も本能的に理解している。


 目の前の人族は明らかにこちらが動くことを待っているが、動かなければ手の内の探りようもない。

 何より、時間をかけすぎてヴィラルドがこちらに戻ってきてはせっかくの餌の山を独り占めすることができない。


『生命は…』


「遅い!」


 吸魂の魔法を発動させようとしたテオローグに、ロウセイは拳を振り抜いた。

 直後、テオローグの腹部に強烈な衝撃が送られた。


「ガハ!」


 その光景にテオローグは驚愕する。

 威力もさることながら、彼我の距離は5m以上はあった。

 いくら目の前の男が偉丈夫であるとはいえ、明らかに届く距離ではない。


 しかしテオローグに考えを巡らせている時間はなかった。

 間髪入れずにロウセイがテオローグの懐に踏み込んできたからだ。


「ッツツ!!」


 驚愕に染まるテオローグに、ロウセイがその拳を振るう。

 それに対し、テオローグは両腕を交差させて防御に回る。

 

 だが、その腕に鈍痛が走る。


 悪魔王であるテオローグの肉体は、並みの竜人族よりも頑強であると断言できるだけの強度があるはずだったのだが、ロウセイの拳を受けた瞬間、テオローグは自分の腕がもげそうになるほどの激痛が走った。


「ク、『魔法障壁局所展開』」


 直後、ロウセイの拳がテオローグの魔法障壁に阻まれる。

 魔法障壁に激突したロウセイの拳が鈍い音を立てる。


「ハハハ。人間にしては見事なものですが、これが突破できますか?」


 障壁を張ったテオローグが自慢げにそういうと、その目の前でロウセイは拳を魔法障壁に押し当てたまま一度息を吸い込んだ。

 

 次の瞬間、再び鈍い音が響いた途端、バキンという音を立てて魔法障壁が破壊された。


「なんと!?」


 驚愕に染まるテオローグは、すかさず追加の魔法障壁を展開する。

 悪魔王である彼は配下の悪魔たちとは比べ物にならない速度ではるかに強靭な魔法障壁を展開することができる。

 

 だというのに目の前の大男はそんな魔法障壁を片っ端から破壊していくのだ。


「このっ!」


 驚愕に染まったテオローグは、ロウセイの目の前で魔法による爆発を引き起こす。

 己も巻き込む一撃だったが、このままジリジリと追い詰められるよりは数段マシだと判断してのことだ。


「グウウゥゥ!!」


 自ら引き起こした爆発に巻き込まれ、体が熱波に焼かれながら、テオローグはその背に生えていた翼を羽ばたかせる。

 それによりテオローグは上空へと避難したが、魔界最強の一角である自分がこうまで苦戦するという事実に内心大きく驚愕していた。


「さて、あの者はどうしているのやら……」


 自ら引き起こした爆炎が風に流され晴れていく。

 その中には、ほぼ無傷の大男が立っていた。


「全く、呆れたお方ですね。

 今は亡き竜人王ガンドラを彷彿とさせるその身体能力。

 魔導師と名乗りながらそこまで武に長けているとは」


 会話をしながら、テオローグは目の前に不可視の魔法障壁を展開する。

 これまでの戦いからみて、ロウセイに対しては一切の油断をするべきではないと結論付けている。

 目の前の男は自分と完全に同格。

 魔界であれば魔王の名を冠しても何の不思議もないと。

 

「魔導師だからと言って、武を嗜んではならない理由もない。違うか?」


「いえいえ。ただ、よくもまあそこまで練り上げたものだと感心しているのですよ」


 事実ロウセイの戦闘能力は凄まじいものがある。

 先ほどの拳からは極度に圧縮された魔力が乗っていた。

 魔法障壁は物理攻撃には強いが、同程度の魔力をぶつけられればいともあっさりと破壊される。

 そのため、同じ面積の魔法障壁を作った場合の強度は込めた魔力量、つまり魔力の密度に比例する。

 

 悪魔王であるテオローグは、悪魔族の中でも飛び抜けた魔力の持ち主なので、生成する魔法障壁の強度も当然飛びぬけている。

 だが、ロウセイという男の拳に集約されていた魔力密度はそれをはるかに上回っていた。

 ゆえに魔法障壁がいともあっさりと破壊されたのだ。

 

(しかしこれでアドバンテージはこちらにある)


 テオローグは魔法障壁を維持したまま内心でほくそ笑む。

 空中を陣取った自分は、飛ぶ術を持たない人族に対して圧倒的優位となる。

 先ほど遠距離から自分を打ち抜いた謎の一撃があったが、その一撃であれば魔法障壁で防ぐことができる。

 

 そして、時間はかかるものの障壁を張ったまま目の前の人族を屠ることは十分に可能だ。


『生命剥奪』


 テオローグがそう宣言すると、周囲の空間が変質した。

 生物の魔力を啜る悪魔族の中にあって、テオローグのみが用いることのできる秘法の中の秘法。

 テオローグを中心に生きとし生けるものの魔力を吸い上げるこの空間は、まともな者であれば魔族であっても間を置かずに魔力が枯渇し、魂を引き抜かれ絶命する。


 目の前の男は魔王である自分から見ても規格外だが、それでもこの空間を発動している限りは自分の方が有利なのは間違いない。

 持久戦となれば相手は消耗していく一方なのだ。


「む?」


 生命初奪を発動しながら、テオローグはロウセイの異変に気が付く。

 先ほどの戦闘で両手に集約されていた魔力が両足に集約されていたからだ。

 あれで蹴られれば自分もただでは済まないだろうが、上空に陣取る自分をどうやって蹴るつもりなのかテオローグには見当がつかなかった。


 しかし、直後テオローグは自分の予想が見当違いであったことを悟った。

 ロウセイの両足に集約された魔力が爆発し、ロウセイがこちらにとんでもないスピードで突撃してきたからだ。


「ば!」


 馬鹿な!

 そう口にしようとした時にはすでにロウセイが目の前に迫っていた。

 ミサイルのようなその突撃は、魔法障壁を突き破り、そのままテオローグもろともとある場所めがけて飛んで行った。


 ドオオオオォォォォォン!!!!!


 そんな破砕音を響かせ、ロウセイとテオローグは宮殿に衝突した。


「く、恐ろしい方ですね。まさかあのような方法で制空権を奪うとは」


「飛んで逃げられれば手の打ちようもなかったが、ここなら飛ばれる心配もあるまい」


 そう言ってロウセイは再び拳を構える。

 二人が突入したのは、先日まで帝国皇帝と貴族たちがたむろしており、現在ではもぬけの殻となっている宮殿であった。


「くっ、魔界では見たこともないほどの豪奢な建物をためらいなく破壊しますか。

 全く、人間界はどれほど富んだ土地なのか、想像もつきませんねぇ!」


 そんな少々ずれたことを口にしながら、悪魔王テオローグはロウセイと改めて対峙した。


無双しているのはサブキャラ達!

さて、主人公とヒロインは今いずこに?



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