忠臣
「イファール様」
スペルダを守るように立ちはだかったイファールを前に、シャクトはその名を呼んだ。
だが、イファールの目にはいかなる感情も伺うことが出来ず、操られた傀儡のような目をしていた。
否、事実として操られた傀儡なのだ。
目の前の男、スペルダ・チルドレインの固有魔法によって。
「イファール! その愚か者を叩きのめしなさい!」
スペルダが命じると、イファールはその腕から溶岩塊を生み出し、真っ直ぐにシャクトめがけて放った。
かつての主から放たれる絶対的な威力を持つ一撃を前に、しかしシャクトは全く動じないまま魔法を紡ぎあげる。
『豪炎弾』
直後、イファールの放った溶岩塊を、シャクトは真正面から撃ち落とした。
「な!? 馬鹿な! 最強の魔王の一撃が!?」
その光景に驚くスペルダに対し、しかしシャクトはなんでもないことのように告げる。
「自分で言ったことだろ。イファール様の支配が完璧ではないと。半端な支配で、イファール様の全力を引き出せるはずもないだろ」
「だ、だが、それだけで防げるような一撃でもないはずですぞ!?」
「それも当然だ。何しろ……」
スペルダの指摘に、シャクトはさも当然と言わんばかりに一言告げる。
「10年前、お前に無理やり黒核を埋め込まれたあの日から、俺は一度としてお前たちに全力を見せていないんだからな」
「な!?」
驚くスペルダの眼前にて、シャクトは無数の火球を生み出した。
その数は20や30では効かず、またその全てが部屋全体に点在するように配置されていた。
魔法の遠隔発動は相手の意表を突くことが出来るために、非常に実践的な技法ではあるのだが、習得難易度が高いために、そんなことをするのは高位の魔導師くらいのものである。
だがそれも本来なら一つ二つが限界。シャクトはそれを50近い大量の魔法を発動しながら涼しい顔をしている。
『連鎖爆破』
直後、シャクトの生み出した火球の内、スペルダの近くにあった火球が爆ぜた。
そして、その火球の近くにあった火球が連鎖的に爆発する。
突然四方八方から爆炎が巻き起こったことで、イファールが援護する間もなくスペルダは全身を焼かれる。
「がっ、まさか、これほどの力を有していようとは……」
その爆発の連鎖に巻き込まれたスペルダは、しかし即座にその傷を再生させる。
「残念ですぞ。私の支配を打ち消したあなたを研究できるかと思ったのですが、そうもいかないようですな!」
スペルダがそう告げた直後、シャクトの胸元で何かが潰れるような音が響いた。
「ガハァ!」
直後、シャクトは膝を屈して吐血する。
周囲に浮いていた無数の火球は、シャクトが吐血すると同時に音もなく霧散してしまった。
「忘れたのですかな? あなたの心臓には黒核が埋め込まれているのですぞ。そして埋め込んだのはこの私。万が一の際には自壊させることなど容易なことですぞ!」
自慢げに嘯くスペルダの前で、シャクトは吐血しながらニヤリと口元を歪めた。
「はっ、三千年前に偶然成功した実験体一号のヴィラルドが、御しきれずに魔界へ逃亡して手におえない吸血皇王になっちまったからな。しっかり手綱を握れるように洗脳魔法で俺の自由意思を封じたうえで保険をかけたってことか?」
シャクトの問いに、スペルダは表情を曇らせた。
「……実験体一号の成功は、我々にとってうれしい誤算であり、だからこそ御しきれずに野に放ってしまったことは最大の失態だったのですぞ」
「なるほど。お前らにとってヴィラルド卿は貴重な成功例だったってことか。もしヴィラルド卿がお前らの手に落ちていたら、お前らの計画も随分と前倒しになってたんだろうな」
「今となっては過ぎた話ですぞ。最早我々は黒核を埋め込む技術を確立し、楽園計画が目前に迫っております。ああ、全く、我々に刃向わなければあなたも楽園で共に永遠の幸福を得ることができたでしょうに、なぜ弓を引いたのですぞ?」
心底分からないといったスペルダの問いに、しかしシャクトは笑みを浮かべたまま答えた。
「それは、地獄で教えてやるよ」
シャクトがそう言った直後、スペルダの足元が爆発した。
「な、これは!」
その足元から、漆黒の炎によって生み出された黒龍が姿を現した。
「『獄炎龍』だ。気が付かなかったか? 俺がこの部屋に入った時から、ずっとその魔法を発動させるために力を割いていたことに」
「な!?」
驚愕の表情を浮かべるスペルダを、下方から舞い上がった黒炎龍が飲み込んだ。
「こ、こんなもので、があああああああああああああ!!!???」
黒炎龍に飲み込まれたスペルダは、その全身を焼かれながらも即座に再生する。
だが、その再生が行われる傍から黒炎龍がスペルダの身を再び焼き尽くす。
「ば、馬鹿な、再生が、追いつかないなど」
「馬鹿はお前だ。それは俺がお前を葬り去るために長年かけて編み出した魔法だぞ」
吐血しながら、シャクトは立ち上がった。
「お前たちがちょっとやそっとのことで死なないのは知っている。だが、それは黒核に蓄えられている膨大な魔力に依存している。なら、その魔力が枯渇するまで殺し続けてやればいい」
「そ、そんなことが、ぐああああああああ!!!!!」
スペルダを飲み込んだ黒炎龍は、そのままスペルダを焼き尽くさんとその場に居座り続ける。
本来ならば敵を飲み込んで暫ししたのちに消滅するはずの龍形成魔法が、なぜかその場にとどまっているのだ。
「無駄だ。その黒炎は、俺を殺したとしてもお前を焼き尽くすまで消滅することはない。そして黒炎龍の体内にいればお前は秒間に百は死ぬ。さて、いつまでもつかな?」
「い、イファール! 私を助けるのですぞ、イファール!」
「させるか」
イファールに助けを求めるスペルダの眼前で、シャクトはイファールを羽交い絞めにする。
イファールも洗脳下にあるためにそれを振りほどかんとしているが、シャクトの束縛を振りほどくことはできなかった。
「こ、こんな、楽園を目前にして、なぜ、なぜえええぇえっぇえっぇぇ!!!!」
最後に、絶叫だけを残して、スペルダ・チルドレインは塵一つ残さずにその身を焼き尽くされた。
「ガッ!」
その光景を目にしながら、シャクトはその場に倒れ込む。
まともな者であればスペルダに黒核を潰された時点で即死だったはずにもかかわらず獄炎龍などという規格外の魔法を扱えたシャクトがあまりにも出鱈目だったのだ。
だが、その出鱈目な怪物も自然の摂理には逆らえない。
力の抜け落ちるその体は、まっすぐに地面に倒れ込む。
だが、その体が地面に着くことはなかった。
倒れ込むシャクトの体を、イファールが左腕で抱え込んだからである。
「イファール、様」
自分の体を支えるイファールの姿を見て、シャクトは安堵する。
その目には、スペルダの傀儡となっていた時のような虚ろな色はなく、魔界の王であったイファールらしい色を取り戻していた。
「シャクト。最後に言い残すことはあるか?」
自分を抱えるイファールの問いに、シャクトは苦笑した。
魔族の王にして歴戦の戦士でもあるイファールは、シャクトがもう助からないということを理解した上でその遺言を聞こうとしているのだ。
最悪の形で裏切った自分に対して、変わらぬ信頼を置きながら。
それを理解したシャクトは、燃え尽きる寸前だった命の全てを吐きだすかのように遺言を口にした。
「イファール様、人間界は、人族は、我々の真の敵では、ありません。5000年間、我々を魔界に閉じ込め、人族への憎しみを募らせるように裏で糸を引いていたのは、この地下帝国の住人達です」
シャクトの言葉に、イファールはコクリと頷いた。
イファール自身がその目で見た以上、疑う余地などすでにどこにもないからである。
「私は、スペルダの手によって生み出された黒核融合実験体。魔界最強の魔王を、手駒にするための強制と、それまで一切の素性を悟らせるなという強制を受けていたために、これまであなたに出自を明かせなかったことをお許しください」
「分かっている。お前は、こうして命を擲って私を救い出してくれた。それだけで十分すぎる」
イファールの言葉に、シャクトは吐血しながらも口元をほころばせた後に呟くような声を上げる。
「北の砦の地に、黒核融合実験体の最初の成功者であるヴィラルドを討ち滅ぼした炎鳥とその仲間たちがいます。彼の者たちと合流し、力を合わせてください。それこそが、魔族の真の生きる道です」
シャクトのその言葉に、イファールは頷いて立ち上がる。
そんなイファールに対し、シャクトは最後の声を振り絞った。
「敵の中に、死者を操る者がいます。どうか、あなたの魔法で私の体を肉片一つ残さずに焼き尽くしてくださ……い」
そう言い残し、シャクトの手から力が抜けた。
見る見るうちに冷たくなっていくシャクトの体を抱えながら、イファールはその身をそっと地面に横たえ、目を閉じさせる。
「お前の命をかけた忠誠は、決して忘れない」
イファールがそう言うと、その周囲に15匹の溶岩龍が姿を現した。
うち一匹は、冷たくなったシャクトの体を灰も残さずに焼き尽くした。
塵一つ残さずに消えていく中で、イファールはシャクトの声を幻聴した。
『ありがとう、ございます。あなたたちの未来に、栄光あれ』
「ああ。勿論だ」
そう言って、イファールは一匹の溶岩龍に飛び乗る。
飛び乗った溶岩龍は、まっすぐに上方へと飛び上がり、巨大な空洞の天井を貫かんと真っ直ぐに飛翔した。
その眼下では、14匹の溶岩龍が全てを飲み込まんと暴れまわっている。
主の忠臣を奪った者達に報いを受けさせんとするように、まるですべての溶岩龍が怒りのままに暴れまわっているようだった。
そんな溶岩龍たちを尻目に、イファールは真っ直ぐに空洞の天井を打ち抜いた。
凄まじい深さの岩盤を砕いた直後、イファールの目には信じられないほどの巨大な木々の乱立する緑一色の光景が目に入った。
「ここは、大森林か?」
乱立する樹木を見ながら、イファールは現在地を推測する。
魔界内には緑が生い茂る土地などありはしない。
そして何よりも、今自分めがけて無数の蔦が迫りくるこの土地は、どう考えても大森林としか考えられなかった。
豊富すぎる魔力のせいで植物たちが魔物化した、魔族でさえ踏み込むことをためらう天嶮の地。
イファールめがけて無数の植物たちが蔓を伸ばし、巨大なウツボカツラがイファールを飲み込まんと迫りくる。
「邪魔だ」
だが、魔族たちにとっても生き残ることの叶わない植物の群れを、イファールは周囲に溶岩を生み出して焼き尽くす。
大森林の魔物化した植物たちは並み火魔法をもってしても焼き尽くすことのできない存在なのだが、炎をもゆうに上回る溶岩の前には成すすべもなく焼け落ちた。
「砦の地は、あっちか」
そう言って、イファールは溶岩を身に纏いながら真っ直ぐに北上する。
かつて敵対した者達の住まう土地へ。
現在他種族が共存する土地へ。
つい先ほど、命を懸けて進むべき道を示してくれた忠臣の忠言を道標にしながら、魔界史最強の魔王イファールは、大森林を縦断していった。
同時刻、人間界内では一つの異常事態が発生していた。
突如として獣人たちの背に刻まれていた隷属魔法陣が消滅したのである。
「い、一体何が?」
「分かりません。このようなことは過去に例がありませんので……」
俺の疑問に、普段から冷静沈着なフィナリアもやや狼狽していた。
あまりに突然の出来事で、現在人間界内は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなっている。
とはいえ臨戦態勢下であるため、あまり騒がせるわけにもいかない。
現在シェルビエントはドルガー軍の獣人部隊以外は存在していないために混乱は薄いが、獣人族の多いリスタコメントスは凄まじいまでの騒動が発生しているのだとか。
「ジェクト将軍はこの一件をどう見られますか?」
フィナリアの問いに、ジェクト将軍は暫し考え込んでいた。
「隷属魔法は、他の魔法とはいくつか根本的に異なる部分のある魔法です。契約者の魔力に関わらず、無数の被用者を隷属させることが出来るという隷属魔法は、本来であればそれをつかさどる基点がなければならない代物です。ノーストン王家は代々秘密裏にその基点を探し続けてきたのですが、どれだけ探ってもその基点を見つけることが出来ませんでした。ゆえにアルザス様は隷属魔法の基点を探すことを断念され、隷属魔法を解除する『封隷』の開発に力を入れられたのです」
「……つまり、その基点が壊れたら隷属魔法陣は木っ端みじんになるってことですか?」
「そう言うことですね。ですが、帝国内をどれだけ探しても見つかることの無かった基点が、なぜ今になってどのように破壊されたのか、一体どこにあったのかがとても気になります」
俺のあずかり知らぬことなのだが、師匠とテオローグが激突したせいで宮殿が半壊した時、ノーストンの上層部では隷属魔法の基点が壊れたのではないかと大騒ぎになっていたらしい。
ヴァルシアを占領した後にも、ジェクト将軍はその基点探しにノーストンの隷属魔法関係者を呼び込んで調査をしたらしいが、ついぞその基点は発見できなかったそうなのだ。
「そのため、基点の破壊は半ば諦めかけていたのです。ですが……」
「今回それが成ったってことですか。だとして、その基点ってのはどこに?」
「皆目見当もつきませんね。そう言えば、フィナリア様の契約者の魔法陣はどうなっていますか?」
「……消滅しています」
ジェクト将軍の問いに、フィナリアは今思い至ったように自分の手の甲を見た。
その手の甲に刻まれていた契約者の紋様は、跡形もなく綺麗に消え去っていた。
「これって、隷属魔法が消滅したってことでいいのか?」
「……私では何とも。ジェクト将軍はどう思われますか?」
「断言はしかねますが、恐らくは隷属魔法が消滅したと考えて差し支えないかと思われます」
「むう。まさかスペルダ・チルドレイン卿がやられるとは」
シャクトがいるであろう地点へと向かったロイルドは、その場で暴れまわっていた溶岩龍たちを一匹ずつ消滅させていく。
元々イファールの魔力の残滓にて残っているような存在なので、ロイルドから見れば一匹ずつ消滅させるのは特に難しくもない。
だが、込められた魔力がよほど膨大だったのか、溶岩龍たちはロイルドが止めなければいつまでも破壊を続けそうな状態であった。
「全く、こんなものを15匹も生み出すとは、恐ろしい魔王もいたものですね」
イファールが生み出した溶岩龍を炎龍弾数発で相殺しながら、ロイルドは悪態を吐いた。
術者の手を離れた魔法というものは通常そのまま霧散してしまうものなのだが、イファールが放った溶岩龍は全く衰えを見せないままに破壊の限りを尽くしていた。
膨大な魔力を極めて緻密に操作できなければ発動できないとされる龍形成魔法にあって、なおイファールの魔法は飛びぬけて大量の魔力を緻密に練り込まれている。
これほどの魔法を15も同時に扱うとなると、さすがのロイルドであっても不可能と断言できてしまう。
「隷属魔法の基点まで破壊されてしまうとは、スペルダ卿が亡くなった時点で無用の長物と化していたとはいえ、ローゼンバルク様に何とお詫びすれば……おっと!」
7匹目の溶岩龍を相殺した直後、8匹目の溶岩龍がまっすぐにロイルドめがけて迫りくる。
意表を突かれたロイルドは、迫りくる溶岩龍を撃ち落とそうと杖を構えた。
だが、その溶岩龍はロイルドに激突する直前に、突如消滅した。
「っ、これは!?」
気が付けば、少し離れたところで暴れまわっていた残りの溶岩龍も突如消滅した。
魔力が無くなり霧散したのではなく、その体を両断されて。
イファールの溶岩龍を一瞬で全滅させることのできる実力を持つ者。
ロイルドをもってしても不可能と断言できるその離れ業をやってのけたその人物が、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「こ、これは、グランツ・ローゼンバルク様! お騒がせして申し訳ございません!」
とっさに傅き、ロイルドはそんなことを口にする。
傅いた相手は、黒衣を身に纏った壮年の男であった。
その老人の名はグランツ・ローゼンバルク。
トルデリシア帝国初代皇帝である。
「……スペルダが死んだのか?」
「はっ、信じがたい話ですが、そのようです。原因は現在調査中ですが……」
跪いて報告するロイルドに対し、グランツは片手を上げてそれを制した。
「よい。重要なのはスペルダが死んだということだけだ。その原因まで、私に知らせる必要はない」
「はい。分かりました」
「……お前も、私相手にそのようにかしこまる必要などないというのに」
「いえ、私は5000年前からあなた様に忠誠を誓った身です。あなた様の御尊顔を拝するなど、私には恐れ多いことでございます」
過剰なまでの忠誠心を見せるロイルドに対し、グランツは一度嘆息して口を開いた。
「お前同様、5000年間忠義を尽くしてくれたスペルダが死ぬとは。彼らのことを侮りすぎたということか?」
「……面目ありませんが、その通りです。スペルダ卿の強制魔法を打消し、黒核の魔力を全て焼き尽くされるとは。このロイルド。どのようにお詫び申し上げればよいか」
謝罪の言葉を口にしようとしたロイルドを、グランツは片手を上げて制した。
「ロイルド。スペルダの死はお前の責ではない。全ては、奴らの強さがこちらの想定を上回ったというだけの話なのだ」
そう言うと、グランツは周囲を見渡した。
「ロイルド。お前ならこのような破壊をもたらす魔法を扱うことが出来るか?」
イファールが刻んだ爪痕を見渡し、グランツはロイルドにそう問いかける。
だが、その問いにロイルドは首を横に振った。
「私の『転写』を用いたとしても、あの者の溶岩魔法は完全に使いこなすことはできません。あれはスペルダの『支配』ライエットの『死霊傀儡』同様に1000年の修練を要するはずの固有魔法の域に達しています」
「……そうか」
ロイルドの返答に、グランツは暫し上方を眺めた。
その視線の先には、魔王イファールが溶岩龍を以てこじ開けた大穴があいていた。
「ロイルド」
「は」
「私は、シェルビエントへ向かう」
グランツの一言に、ロイルドは眉を寄せた。
「シェルビエントへ、ですか? いったい何のために?」
「奴らと少し話をしたい」
「話合い、ですか?」
戸惑うロイルドに対し、グランツは頷き応じた。
「ただの障害であるならば排除するだけで済むと思ったが、お前たちを退け、形はどうあれスペルダを滅するほどの相手となれば話は別だ。殺すには惜しい」
「……あの者達を、楽園の住人に迎え入れると?」
「反対か?」
グランツの問いに、ロイルドは暫しの沈黙ののちに首を横に振った。
「いえ、皇帝陛下の望みとあれば、私に異存はございません。ですが、かの者達が楽園計画を受け入れるかどうかは……」
「そうだな。確かに、この計画は受け入れがたいものだろう。それが奴らのように博愛を以て剣を取るような者達であれば、なおさら、な」
だが、とグランツは言葉を切った。
「そういった者達こそ、楽園に住まうにふさわしい。そうは思わんか? ロイルド」
「……私からは何とも」
そう言って、ロイルドは立ち上がった。
「会談とはいえ、シェルビエントに向かわれるのでしたらこちらもしかるべき面々を揃える必要がございます。召集をかけますので、少々お時間を頂きたく思います」
「よかろう。面々が揃い次第、シェルビエントへと向かう」
そう言うと、黒衣の皇帝はその場から姿をくらませた。
「承りました」
まるで掻き消えるかのようにその姿を消した主人に対し、ロイルドは傅きながらそんなことを口にした。
第四章が終了しました。
残るは最終章のみ。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
なんとかかんとか最終章を書き上げようと奮闘中です。