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フォルシアンと竜人王の激突

「チィ、こいつ!」


 舌打ちをしながら、トリストスは手にしている長刀を振るう。

 芸術的ともいえるような太刀筋は、しかし竜人族の竜燐さえも問答無用で真っ二つにしてしまうような鋭さを持っている。

 

 にもかかわらず、トリストスが舌打ちしている理由はただ一つ。

 目の前の巨漢の竜人王ガンドラに対して有効な一撃が入れられないからである。


「ロオオオオオオオオ!!!!!!!」


「ぐ!」


 独特の咆哮を放ちながら、ガンドラがその拳を振るう。

 トリストスの倍近い体躯を持つ竜人の一撃は必然的に上方からの打ち下ろしとなる。

 ゆえにトリストスは振り下ろされる拳を回避する。


 だが、回避した拳は地面にめり込み、周囲一帯に瓦礫を飛び散らせる。

 そして飛び散った瓦礫が周囲の家屋に激突してその壁を粉砕する。

 ただ飛び散った瓦礫が、まるで土魔法の岩弾並みの威力を誇っているのだ。


「正面から喰らえばひとたまりもないか。だが!」


 しかしトリストスは迫りくる瓦礫をすべて切り裂き、ガンドラに向かって踏み込み、今なお地面にめり込んでいる巨漢の竜人の腕に向かって刃を振り抜いた。


 ギィイイイイン!!!!


 が、刃を振り抜いたにもかかわらず、その竜燐は鈍い音をたててトリストスの刃を弾いてのけた。

 

「チィ! どんな堅さしてやがる!」


「ガンドラ様を侮るな! あのお方はイファール様でさえも梃子摺った存在だぞ!」


「ああ、そうかよ!」


 周辺の竜人族を蹴散らすベヘルの忠告に従い、トリストスはいったん距離を取った。

 ガンドラとロイルドの襲撃を受け、これまで優勢だったシェルビエント勢の優勢は完全に覆されてしまった。


「ロオオオオオアアアアアア!!!!」


 そんなトリストスめがけ、ガンドラは再び拳を振るう。

 

「当たらねえよ!」


 しかし、振るわれた拳は再び空を切る。

 トリストスから見て竜人王の動きは大振りで、見切ること自体は大して難しいことではない。

 

 並みの戦士であればあの一撃の余波だけでも十分脅威だが、トリストスにとっては大した問題ではない。

 一瞬のうちに背後に回り込んだトリストスは、飛び上がってその竜人の背に一太刀を入れた。


 ガキン!


 しかし、トリストスの一撃は再び竜燐に阻まれる。

 巨漢の竜人は全身をその頑強な竜燐に覆われており、トリストスの刃を弾きかえてしているのだ。


「トリストス!」


 心配そうに遠くから弓を構えるセレスティーナを、トリストスは片手を上げて制する。


 幾度か攻撃してみてわかったが、ガンドラの竜燐の硬度は他の竜人族とはまるで比べ物にならない。

 他の竜人族にさえ梃子摺っているセレスティーナでは、今相手にしている竜人に手傷一つ負わせることはできないだろう。


「……傷が浅い、か」


 そう呟き、トリストスは手にした長刀を構え直す。

 つい先ほど弾かれた竜人の背中には、薄っすらとだが自分の太刀の跡が残っている。

 同様に、振り向いた竜人の腕にも僅かに切れた跡が残っている。


 トリストスの攻撃は手傷を負わせるにこそ至っていないが、全く通用していないというわけではない。

 恐らく、同じ個所を執拗に攻撃し続ければいずれ竜燐を両断できるだろう。

 

 幸いガンドラはトリストスの速度を捉えきれていないため、トリストスにも勝機は十分にある。


「と思ったが、持久戦は分が悪いか?」


 そう考えながらもトリストスは自分の分析を頭から追い払う。

 先ほど切り裂いたはずの竜人の腕の竜燐が煙をたてながら再生しているのである。


 よくよく観察してみれば、背と腕以外に付けた傷は既になくなっている。

 つまり、目の前の巨漢の竜人王は恐ろしいほどの怪力と、鉄壁の守りを兼ね備え、さらにはその竜燐という鎧を高速で修復することが出来るということになる。


「手を貸すか?」


「冗談。お前に抜けられたら、いくらなんでも分が悪すぎる」


 加勢しようとするベヘルに対し、トリストスは断りを入れた。

 凶暴な竜人族の襲撃は流石のドルガー軍獣人部隊であっても苦戦を余儀なくされており、ベヘルが抜けてはかなり厳しいだろうということはトリストスにも見て取れた。


「……様子見をしている場合じゃなさそうだな」


 そう呟き、トリストスは竜人めがけて踏み込んだ。


「ロオオオオオオオオ!!!!!」


 巨漢の竜人は、再び耳をつんざくような咆哮を放ちながら再びトリストス相手に右拳をふり下ろす。

 だが、その一撃を見切ったトリストスは、余波によってまき散らされる瓦礫を回避しながら振り下ろされた腕に向かって刃を放つ。


『八閃!』


 刹那、トリストスの刃が一瞬のうちに八度振るわれる。

 直後、地面に突き刺さっていた竜人の右腕が切断された。


「ふぅ」


 一度荒く息を吐き、トリストスは竜人から距離を取った。


「驚いた奴じゃな。まさかあんな方法であの竜人の腕を切断するとは」


 いつの間にかトリストスの近くまで来ていたセレスティーナが、心底感心したようにそう告げる。


「俺の剣閃が見えたのか?」


「見えたのではない。感じ取れたのじゃよ。それにしても……」


 そう言って、セレスティーナは腕を両断された竜人の方を見ながら言葉を続けた。


「あの一瞬で7度も同じ個所をなぞるように切りつけるとは、お主の絶技、堪能させてもらったぞ」


 そう。

 セレスティーナの言う通り、トリストスはあの一瞬で刃を8度振るった。

 だが、それがただの高速の8連撃であれば、竜燐に8の傷を刻むだけで終わってしまう。


 ゆえにトリストスは太刀を往復させ、全く同じ個所をなぞるように長刀を8度振るったのである。

 いかに再生能力があるとはいえ、切り裂かれた竜燐が瞬時に再生するというわけではない。


 トリストスが竜燐に刻まれた傷をなぞるたびにその傷は深くなる。

 ゆえに8度放たれた超高速の剣閃は、3太刀目で竜人の腕から血を流させ、6太刀目で骨を断ち、最後の一太刀で見事にその腕を両断してのけたのである。


「ああ。これであいつも戦力半減……なに!?」


 だが、直後再びトリストスめがけて竜人の右腕が振るわれた。


「……おいおい」


 トリストスの眼前に、五体満足で立ちはだかる竜人の姿が映った。

 先ほど切断したはずの右腕が、トリストス達の目の前で生え変わったのだ。


「切断したはずの腕が生え変わるだと? トカゲのしっぽじゃあるまいし」


 トリストスの呟きに、セレスティーナが距離を取りながら答える。


「恐らく、竜燐の再生はあ奴が無意識的に行っていたことなのじゃろう。先の一瞬、奴の生命力が大きく膨れ上がった。つまり」


「腕を生え変わらせた方が本当の再生力ってことか」


 トリストスの一言に、セレスティーナは頷いた。


「ただの竜人じゃあないとは思ってたが、こりゃあ規格外も甚だしいぞ」


「……トリストス」


 心配そうにトリストスを見るセレスティーナを尻目に、トリストスもやや思案顔を浮かべる。


「首でも切り落としてやりたいところだが、さすがにあれを狙うのは骨が折れる」


 トリストスの剣技は空中では用いることができない。

 ゆえにトリストスは竜人の拳が地面にめり込んだ瞬間を狙って長刀を振るったのである。

 

「ふむ。つまり、あ奴を転倒させればいいのか?」


 そんなトリストスに対し、セレスティーナがそう問いかけた。


「そりゃそうだが、あれをこかすのは骨が折れるぞ?」


 トリストスの返答に、しかしセレスティーナは不敵に笑った。


「倒すならともかく、こかすだけなら手はいくらでもある。忘れるなよトリストス。妾はエルフ族随一の精霊魔導師じゃぞ?」


「ロ、オオオオオオオ!!!!!」


 目の前で堂々と話し合いをするトリストスとセレスティーナを前に、巨漢の竜人族は容赦なく再び拳を振り下ろした。

 だが、それに対してセレスティーナは避けるのではなく歩み寄った。


「見事な怪腕じゃが、魔力も帯びていないただの力馬鹿とわかれば、妾にもとれる策がある」


 そう言って、セレスティーナは、まるで見えているかのように竜人の拳の軌道上に右手をかざした。


『流風』


 直後、竜人の拳が容赦なくセレスティーナめがけて振り抜かれ……その軌道を大きく逸らされた。


「な!?」


 その光景を前に、トリストスは驚き目を見開いた。

 セレスティーナの腕は極めて華奢であり、一抱えもあるような竜人の拳を逸らすことなどどう考えても不可能だったからである。


 だが、直後トリストスはその手品のタネを理解した。

 セレスティーナはその右手から風の魔力を流し、自分目がけて迫りくるガンドラの拳を受け流したのである。


 無論口で言うほど容易なことではない。

 敵の攻撃の軌道を正確に察知し、その攻撃に合わせて風を巧みに操らなければそんな真似は出来るはずはない。

 

 だが、確かにセレスティーナにはそれが出来るだろう。

 超常の五感を持つ彼女は、対応できるかどうかは別問題にしてあらゆる攻撃を見切ることが出来る。

 そして、魔力を宿していないただの力任せの攻撃であるのなら、今のように魔法を用いてやんわりと軌道を逸らしてやることも可能なのだろう。


 無論、並外れて緻密な魔力コントロールが必要なのは言うまでもないことだ。

 しかし、セレスティーナは霊弓を手にするまでの400年近い歳月を精霊魔法の習得に注いでいる。つまり、単純な年季だけでいえば霊弓よりも精霊魔法の方がはるかに長いのである。


『風来!』


 拳を逸らした竜人に向けて、セレスティーナは地面に手を当て、さらに魔法を紡ぎあげる。

 魔法が紡がれた直後、竜人ガンドラの足元が爆発する。

 

「ロオア!?」


 拳の軌道を逸らされ、足場を崩された竜人はその場でバランスを大きく崩す。

 それに向かって、セレスティーナは再度右手を掲げる。


『風槍!』


 放たれた風の大槍が竜人の胸板に直撃する。

 無論、そんなものでどうこうなるほど軟な相手ではないが、槍が直撃した瞬間、セレスティーナはかざしていた右手を握り閉めた。


『爆散!』


 直後、セレスティーナが放った風槍に込められた魔力が解放される。

 解放された風の魔力が吹き荒れ、バランスを崩していた竜人族の体勢が大きく崩れた。


「やるじゃねーか女王!」


 そう言って、トリストスは倒れ込もうとしている竜人族めがけて突撃する。

 トリストスは魔導師ではないが、同時に複数の魔法を発動するのは同じ魔法を同時発動するよりもはるかに難しいということくらいは理解できる。

 息つく暇もなく3種類の高等魔法を発動してのけたセレスティーナの魔力制御術は連合軍内でも指折り、下手をすれば1.2を争うかもしれない。


 確かに目の前の敵を倒せるほどの攻撃力はないが、その変幻自在の魔法の使い方は、支援される側から見れば頼もしいと断言できる代物だ。


「あとは、俺が!」


 そう言って、トリストスは倒れ込む竜人に肉薄する。

 迫りくるトリストスに対し、ガンドラは本能的に蹴りを放ってきた。

 だがそんな苦し紛れの一撃が届くはずもなく、トリストスはそれを悠々と回避する。

 結果、ガンドラは完全に体勢を崩して地面に倒れ込む。


 明確にできた隙を前に、トリストスは胸板に飛び乗り得物を振るう。


『八閃!』


 吸い込まれるように刃が8度首筋をなぞり、人の腹ほどの大きさを持つ竜人族の首が飛んだ。

 

「……ふぅ」


 ため息を吐き、トリストスは竜人族の胸板から飛び降りた。

 

「見事じゃ。お主でなければ、この怪物は仕留めきれんかったじゃろう」


 そんなことを口にするセレスティーナに対し、トリストスは軽く手を上げて応じ、血糊を落とそうと長刀を振るった。


「ん?」


 半ば癖となっているその行動を取ったトリストスは、その時ようやく違和感に気付いた。

 血糊が少ない…というより、血糊がほとんどついていないのだ。

 

「どうした? トリストス」


 セレスティーナの問いに、トリストスは先ほど切り捨てた竜人の方に向き直る。

 思えば、腕を切り落としたときから…否、それ以前に、シェルビエント内に侵攻してきた竜人族を切り捨てていた時から敵を切り裂いたときにはじけ飛ぶ血しぶきが全くなかったのだ。


「……」


 今までの竜人族は、首を飛ばしても戦いを続けてきた。

 そして今戦っている敵は腕を両断してもすぐさま生やしてきた。

 そこまでトリストスが考えをめぐらせたとき。


「……嘘じゃろ?」


 二人の目の前で、首を落としたはずの巨漢の竜人がムクリと起き上ったのだ。

 切断された首からは、新しい頭部が再生していた。


「……」


 カチャリという音をたて、トリストスは手にしていた長刀を再び構える。

 

「トリストス。首を飛ばしても生き返る相手じゃ。勝算はあるのか?」


「今度は、腹を真っ二つにするか、縦に真っ二つにする」


 トリストスの一言に、セレスティーナは首を横に振った。


「不可能じゃ。腕や首とはわけが違う。それに、そこを両断したからといって相手が絶命するとも限らんぞ」


「……だが、こいつは危険すぎる。ここで仕留めておかないと」


「妾の目を誤魔化せると思うか? お主、今の攻撃でもう余力が残っていないではないか」


 セレスティーナの指摘に、トリストスは内心で舌打ちをする。

 八閃は一瞬のうちに8度の剣閃を放つ荒業だが、決して消耗の激しい技というわけではない。

 だが、その八閃の軌道すべてをミリ単位でコントロールするとなると話は変わってくる。

 

 超高速で放たれる八閃は、元々大雑把な軌道を描いていても敵をなます切りに出来る技である。

 ゆえにそれを高精度に扱うなどという荒業には凄まじいほどの集中力と筋力を必要とする。

 

 トリストス自身、今の荒業は放ててあと一度といったところである。


「なら、どうしろってんだ? あの怪物を倒せるとしたら、イファールかロウセイ位のものだぞ。ファーレンベルクでも怪しい」


「分かっておる! じゃが、このままでは無駄死にじゃぞ!」


 セレスティーナの叫びに、トリストスは歯噛みをする。

 確かに、トリストスではあの竜人の胴体を両断するのはあまりにも難しいし、両断したからといって復活しない保証はない……というより、ほぼ確実に復活するだろう。


 状況は絶望的といっていい。

 だが。


「せめて俺たちがこの化け物を倒す手がかりを掴めなければ、シェルビエントは陥落する。それはつまり、初めてできた魔族との共存の可能性が絶たれるということになる」


「……」


 トリストスの一言に、セレスティーナは無言で応じる。


「この国は、災害戦争以降初めて魔族を受け入れた土地だ。失えば、魔族たちと人族の間にまた埋め難い溝が生まれる。失ってはいけない土地だから……あと一度だけでいい。試させてくれ」


 トリストスの一言に、セレスティーナはしばし躊躇いながらも頷き応じた。


「この頑固者め。父親そっくりじゃ」


「よく言われる」


 そう言って、トリストスが刃を手に再び竜人に挑みかかる。

 直後、セレスティーナは愛用していた弓から矢を放ち、未だ再生している最中だった竜人の両目を打ち抜いた。

 

「今じゃ! トリストス!」


「おう!」


 それに応じるようにトリストスが竜人の懐めがけて飛び込んだ。

 だが、巨躯の竜人は両目を打ち抜かれていながらも、半ば本能的にトリストスめがけて拳を振るった。


 だが、そんな一撃を回避できないトリストスではない。

 ……万全の状態であれば。


「ッ!」


 二度にわたる無茶な荒業を行ったせいで、トリストスの体が僅かばかり悲鳴を上げて、僅かばかり反応が遅れた。


 そして、そのわずかな隙が致命的となった。

 目の前の怪物が放つ拳は単調なれど早い。

 そして込められた膂力はトリストスであっても無事では済まないだろうことは想像に難くなかった。


 回避は……間に合わない。


「トリストス!」


 セレスティーナがトリストスに向かって悲鳴を上げる。


(やばい。無理しすぎたか?)


 そんなことを考えるトリストスの眼前に、自分の頭部と同じくらいの大きさを持つ拳が迫り……振り抜かれた。


「……………?」


 だが、拳は空を切った。

 

「大丈夫か? んっと、トリストス、だったか?」


 そんなトリストスは、気が付けば竜人のいた場所から随分離れた場所にいた。

 ついでに言うと、突如現れた一人の魔族がトリストスに肩を貸してあの場から瞬間移動をしてのけたのだ。


「ッヅ!!」


 直後、トリストスの体に鈍痛と感電したような痺れが走った。


「おっと、悪いな。雷移動に巻き込んじまった」


「……いや、助かったぞ。ライオス、だったな」


 そう言って、トリストスはライオスの肩から体を離した。


「正直、同盟なんてお題目を信じるつもりはなかったが、お前みたいに本気で共存を考えている奴もいたんだな」


「……聞いてたのか?」


「セネル程じゃあないが、俺も耳は良い」


 そう言って、ライオスは竜人王ガンドラと向かい合った。


「竜人王ガンドラまで復活してるとはな。一度戦ってみたいと思っていたが、まさかこんな形で叶うとはな」


 にやりと、ライオスはトリストスの隣で獰猛な笑みを浮かべた。


「ベヘル! ガンドラをぶっ潰すぞ! 手を貸せ!」


「おいおい! 今あいつが抜けたら戦線が崩れるぞ!」


 いきなり拮抗状態にある戦線を崩そうとせんとしているライオスに対して待ったをかけたトリストスに対し、しかしライオスは変わらぬ獰猛な笑みを浮かべた。


「安心しろ。そっちも考えてある」


「なに?」


「トリストス! 怪我はないか!?」


 駆け寄ってきたセレスティーナに対し、トリストスは問題ないと告げた。


「そうか。それよりトリストス。新手じゃ」


「新手? どこからだ?」


「……地下からじゃ。地下への索敵は慣れぬゆえ、気付くのが遅れた」


 苦々しく口にするセレスティーナに対し、しかしライオスが待ったをかけた。


「そいつはこっちの味方だな」


「なに? どういうことじゃ?」


「ん? お前気付かないのか? 地下から近づいてくるこの気配は……」


 ライオスが何かを告げようとした直後、トリストス達の眼前にて突如地面が盛り上がり、地面が大きく形を変えた。

 しかも竜人族の足元は大きく沈み込むように形を変え、気が付けば半数近い竜人族が首だけを地面から出すような形で地面にめり込んでいた。


「ぬ? この魔力、もしや」


「ああ。あんたは地中の気配探知は苦手なのか? こんなことできるのは、あいつしかいない」


 端的に告げるライオスの眼前にて、地面がゆっくりと盛り上がり、ガンドラと並び立ちかねない程の異形の巨漢が姿を現した。

 

「ゴライアス! 生きておったのか!?」


 ベヘルでもライオスでもなく、セレスティーナが驚愕の表情をあらわにした。

 

「まあそういうわけらしい。イファール様が相手でもそう簡単に死ぬ奴じゃあないと思ってはいたがな。さて、あいつが来た以上竜人の相手は任せて問題ない。ベヘル! 手を貸せ!」


「無論だ。参戦させてもらおう」


 ゴライアスが竜人族の大半を生き埋めにしたため、獣人部隊に余裕が出来た。

 その隙を突くかのように、ベヘルはライオス、トリストスとセレスティーナの二人と肩を並べた。


 今ここに、正しい意味での連合軍が出来上がったのである。


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