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VS魔道総帥

「くそったれ! あいつの魔力は底なしかよ!」


 追いすがるように迫る赤色の龍をファーレンベルクが回避する。

 先ほどから間断なく放たれる龍形成魔法は、俺の記憶が正しければまず習得すること自体が難事中の難事であり、連発することなどまず不可能な代物だったはずだ。

 

 現にフィナリアでさえも打てて3発。

 ジェクト将軍でさえも10発も打てば魔力が枯渇寸前になるというレベルの大技だったはずだ。


 だが、俺たちを追いたてるように放たれる炎龍弾の数は既に20を超えている。

 放っているのは、宙を飛びながら俺たちに追いすがってくる元帝国魔道総帥ロイルド・インディオスだった。


 後方を確認しながら、俺はファーレンベルクに逐一指示を下す。

 多少の魔法であれば無効化してのけるファーレンベルクだが、流石に魔法の最高峰である龍形成魔法レベルになってしまうと完全に防ぎきることはできない。


 ゆえに俺達は必然的にロイルドから逃げ回る形となり、その魔力が枯渇するまで飛び回るつもりだったのだが、当のロイルドは炎龍弾をこれでもかという位連発しているにもかかわらず一向に魔力が尽きる気配がないのだ。

 

 結果、俺たちはひたすらに逃げ回ることしかできないのだが、ロイルドの奴は俺達を真っ直ぐ南東の方角へと逃がすように魔法を放っており、気が付けば主戦場だったシェルビエント南部から大きく外れ、俺たちは破壊された砦付近まで追いやられているのである。


「さて、鬼ごっこはここまででいいでしょうかねぇ」


 俺たちをそこまで追いやるや否や、ロイルドは先ほどまでバカスカ連発してきた龍形成魔法の発動をやめた。

 ファーレンベルクに振り返るように指示した俺は、ロイルドの方を向いて対峙する。


 あれだけ最高峰の魔法を連発したというのに、ロイルドには疲弊した様子が一切見て取れない。

 現に、ロイルドは今もなおファーレンベルクに合わせるように『浮遊』によって宙に浮いており、今もなお魔法を行使し続けても何の問題もないことを如実に証明している。


「鬼ごっこねぇ。つまりあんたは俺達をここまで追い立てるのが目的だったってことか?」


 その余裕に満ちた態度に、俺は思わずそんな問いを投げかける。

 特に返答を期待してのものではないが、この現状は非常に拙いということだけは誰に言われるでもなく理解できる。

 理屈はよく分からないが、竜人族に対してファーレンベルクの攻撃が有効であったのは明白であった。

 

 それはロイルドが俺達を竜人たちから引き離したことからも確かなのだ。

 あの竜人たちはトリストス達を以て苦戦するほどの難敵だ。

 ゆえに俺たちは一刻もはやくシェルビエント南方へと駆けつけねばならないのだが、目の前の魔導師を避けて向かうことはまず間違いなく不可能だ。


 同様の事を察しているだろうロイルドは、まるで時間稼ぎその物が目的だと言わんばかりに余裕綽々で口を開いた。


「ええ。精霊魔導師の一人や二人ならば問題はないと思っていたのですが、まさかあなたたちの所有する炎鳥が浄化の力を有しているとは思いもよりませんでしたのでねぇ」


「そういやあさっきもそんなこと言ってたな。こいつが何か特別な力でも持っているってことか?」


 何気ない俺の問いに、ロイルドは少々意外そうな表情を浮かべた。


「ほう? まさか、あれほどの力を無自覚に扱っていたと?」


「……」


 ロイルドと話をしている場合ではないと分かっていつつも、俺は話をやめる気になれなかった。


 さっきからロイルドが口にしていることをまとめるなら、ファーレンベルクの攻撃には浄化とかいう属性のようなものが付与されているのだろう。


 先日師匠とイファールの戦いに水を差したときからほぼ確信してはいたが、ロイルドは明らかに帝国とは別の組織に所属している節が見受けられる。


 本人が頭目なのかどうかは置いておくとして、ロイルドは帝国亡き今も組織だった行動を取っているのだ。

 口ぶりから察するに、竜人族の襲撃にも何らかの形でかかわっているのはまず間違いない。


 ゆえに、俺はロイルドから情報を引き出すことにした。

 如何に竜人族たちが手強い相手と言えども、あの場にいるのは俺では及びもつかない達人の集団だ。


 ファーレンベルクの援護がなくとも易々とやられるような人たちではないのは、俺が百も承知している。


 そして何より、俺の判断に問題がないということは、後方で静かに動静を見守っているフィナリアが証明している。


 ゆえに俺はロイルドに対して口を開いた。


「浄化の力ってのが何を指してるかは知らない。けど、こいつが普通の存在じゃないのはあんたもよく分かってるんじゃないのか?」


「……ふむ」


 俺の問いに、ロイルドは左手を顎に当ててファーレンベルクをしばし観察するように眺めていた。


「そう言えば、この砦が破壊された後、魔族の襲撃があった際にあなた方はその魔族と交戦された。そうでしたねぇ?」


「ああ」


「では、あなた方は吸血皇王ヴィラルドと交戦したことが?」


 突如、ロイルドの纏っている雰囲気が、飄々としているようで嘘偽りの一切を許さぬような複雑な物へと変化する。

 そして、その問いに対して俺は隠すことなく正直に明かした。


「ああ。ヴィラルドはトリストスさんと、こいつが仕留めた」


 そう言って、俺はファーレンベルクの背をポンとたたいた。

 直後、ロイルドは両目をスッと細め、しばしの間沈黙した後に、ゆっくりと口を開いた。


「嘘、を言っているようには見えませんねぇ。ということは、あなた方はあの実験体を屠ったということですか」


「実験体? ヴィラルドがか?」


 ロイルドの口にした言葉に食いついた俺は、直後ロイルドの視線が異様に鋭くなっていることに気が付いた。

 例えるなら、先ほどまでは奇妙なおもちゃだと思っていたものが、実は危険な兵器だということに気が付いたというべき警戒心の違いが表れてきているのだ。


「どうやら本当にあの化け物を始末したようですねぇ。我々でさえ手に余らせていた怪物をあの剣士が倒せるはずもなし。その炎鳥は極めて危険な存在のようだ」

 

 そう言ってロイルドは手に持っていた杖をかざす。

 直後、先ほどと同様に魔力が龍を形取っていった。

 否、同様にではない。先ほどまで放たれていた龍魔法はせいぜい3匹が良いところだったのに対し、今生み出された炎龍は5匹。


 イファールほどではないが、それでも常識外れも甚だしい数の龍魔法にたいし、俺は肌が粟立つのを感じた。

 

「クウヤさん。話し合いはここまでです」


 そう言って、俺の後方でフィナリアが魔力を滾らせる。

 ファーレンベルクの広い背に片膝立ちになるフィナリアはすでにスイッチを臨戦態勢へと切り替えたようだ。


「了解。魔力のフォローは任せてくれ」


「お願いします。正直に言って、加減が許される相手ではなさそうですので」


 フィナリアの言う通り、目の前の敵は炎龍を5匹という数で手繰っている。

 ファーレンベルクは並大抵の魔法を無効化するとこが出来る障壁を常時纏っているとはいえ、ロイルドはそこを見越してか、龍形成魔法以外の攻撃を全く行っていない。

 

 しかもジェクト将軍でさえも10発が限界だというレベルの魔法を何十発も連発しておいてまだ余力が残っていることから察するに、敵の魔力切れも望めないときている。

 正直言って状況は恐ろしく悪い。

 イファールの時のような恐ろしさを感じるわけではないが、だからといって勝てるめどがあるわけではない。


 とはいえ、こいつをそのまま戦場へ連れて行ってしまっては本末転倒も甚だしい。

 こんな化け物を連れて行けば、それこそこちらの部隊が全滅してしまいかねないのだから。


「では、始めましょうかぁ?」


 そして、俺の思考がそこまで至った瞬間、ロイルドは生み出していた炎龍5匹を一斉に発射した。

 

「下へ飛べ!」


「ピュアアア!!」


 俺の指示に従い、ファーレンベルクは炎龍弾を回避する。

 5匹同時に放たれた炎龍の包囲網は、下部に隙間が見えたため、俺はその方向に向いて飛ぶように指示したのだ。


 だが、直後俺はその指示が間違いだったことに気が付く。

 5匹の炎龍が、大きく方向を変えてファーレンベルクに追いすがってきたのである。


 龍形成魔法は、他の魔法に比べて非常に遠隔性能が高い。

 以前フィナリアから聞いた話によると、龍形成魔法は威力と共にその遠隔操作にこそその神髄があるのだという。

『風鳴閃』や『雷鳴閃』に比べて劣るものの十分すぎるほどの攻撃速度を持ち、威力に関して言えば比較にならないほどの高威力を持っている龍形成魔法は、さらにあと出しで追尾させるという特性から絶対的な必殺技となっているのだ。


 ゆえに五匹の炎龍は下方へ回避しようとした俺たちを取り囲むように飛来する。

 上方から襲い掛かる炎龍の群れを相手に、俺もフィナリアもこのままであれば飲み込まれるよりほかはない。ゆえに。


『風龍弾!』

 

 フィナリアが上方から迫り来る炎龍の一匹目がけて風龍弾を放った。

 ロイルドの炎龍弾はフィナリアの風竜と比べて威力が高いのか、炎龍はフィナリアの風龍を飲み込まんと徐々に風龍を押し込んでいる。

 だが、多少押し込まれようともフィナリアの風龍弾はロイルドの炎龍弾と押し合っている。

 

 つまり、炎龍の包囲網にほころびが出来たのだ。


「抜けろ!」


 出来た綻びをめがけてファーレンベルクが飛翔する。

 ファーレンベルクは巨体であり、出来た隙間は抜けられるかどうかといったところではあったが、ファーレンベルクは纏っている障壁を用いてフィナリアの作った僅かな隙間をこじ開けた。

 

「クウヤさん! ロイルド卿の元へ!」


「おう! ファーレンベルク!」

 

 俺たちの意図を理解したファーレンベルクは、真っ直ぐに宙に浮くロイルドめがけて羽ばたく。

 現在ロイルドは五匹の炎龍弾を使った直後で攻撃魔法による迎撃が出来ない。

 そう判断したフィナリアと俺の判断に従い、ファーレンベルクは真っ直ぐにロイルドめがけて突撃した。


「な!」


「まさか!」


 しかし、俺とフィナリアは直後判断ミスをしたことに気が付いた。

 ロイルドの右手に凄まじいまでの魔力が集まっていたからである。


「まさか! 炎龍弾を5つも同時に扱っておいてまだ余力があると!?」


「いや、違う! そうじゃない!」

 

 驚き戸惑うフィナリアに対し、俺は後方の炎龍の数が二匹にまで減っていることに気が付いた。

 恐らく、ロイルドは遠隔操作していた炎龍の二匹を消滅させ、空いた手で新しい炎龍を呼び出したのである。


「く! 『風龍弾!』」

 

『炎龍弾!』

 

 嵌められたことを察したフィナリアが、ロイルドめがけて風龍弾を放つ。一方でロイルドもフィナリアの攻撃を迎撃するために。ではなく、俺たちを焼き尽くすために炎龍弾をぶっ放してきた。

 一瞬の拮抗の後、フィナリアの風龍弾はロイルドの炎龍弾に飲み込まれる。


 だが、もとよりこの結果は分かり切っていたこと。

 言い方は悪いが、フィナリアとロイルドでは魔導師としての格が違いすぎる。

 それでも、炎龍弾の威力を僅かばかりそぎ落とすことは十分に可能である。

 

「ファーレンベルク!」


「ピュアアアアアアアアア!!!!」


 そして、弱まった炎龍弾に対してファーレンベルクが真っ直ぐに熱線を叩き込む。フィナリアの風龍弾とファーレンベルクの熱線によって大きく威力の削がれた炎龍弾は、ファーレンベルクの障壁に阻まれてその身を霧散させた。


「ふふふ。流石ですね。ですが、これはどうします?」


「!!!!」


 だが、安心している暇などあるはずもない。

 正面の炎龍を防いだとはいえ、俺たちの後方からも二匹の炎龍が迫ってきているのだ。


「クソ! 退避しろ!」


 俺の指示に従い、ファーレンベルクは炎龍弾を回避するかのように上方へと回避した。


「ふふふ。どこまで回避できますか?」


 そんな俺たちをあざ笑うかのようにロイルドが炎龍弾を追加してくる。

 再び五匹となった炎龍の群れが、真っ直ぐに俺達を飲み込まんと包囲してくる。


「っぅ!」


「フィナリア!?」


 再び俺たちを包囲しようとしてくる炎龍たちの一匹を迎撃しようとしたフィナリアが、突如その表情を苦悶に歪ませた。

 だが、それも無理のない話だったのだ。そもそも龍形成魔法は扱えるだけで一流の魔導師である証とされる超高等魔法。本来なら連発して扱えるような代物ではないのだ。


 魔王イファールやジェクト将軍、そしてロイルドは明らかにその常識を無視した規格外の怪物であり、フィナリアは未だその領域に足を踏み入れてはいないのだ。


「フィナリア! 無茶はよせ!」


「ですが、あれを迎撃しないと…」

 

 苦痛に表情を歪ませながらも魔力を行使しようとするフィナリアに対し、俺はかける言葉を失っていた。

 炎龍弾の包囲網をどうにかしなければ俺たちはロイルドの魔法に飲み込まれてしまう。

 如何にファーレンベルクの魔法障壁を以てしてもあれほどの魔力のこもった攻撃を前にしては到底防ぎきれるものではない。


「クソ、俺に魔法が使えれば」


 僅かな葛藤と共にフィナリアに魔法を行使してもらうしかないと結論付けようとした俺は、しかし直後。


「その必要はない」


 という頼もしい声が響いた。


「なに?」


 突如現れた闖入者に、ロイルドは眉をひそめる。

 上空で繰り広げられている俺たちの戦闘に参加できる者など居るはずもないと思い込んでいた俺達の目の前に、一人の怪物が跳躍して炎龍の群れの前に立ちはだかったのである。

 

 その闖入者は、先日イファールの魔法によって包囲され、その後行方不明となっていた人間界最強の人物。


「ロウセイ様!」


「師匠!」


「ふ、どうやら間に合ったようだな」


 上空にて炎龍の群れと対峙たロウセイは、迫り来る一匹を掴み取り、イファールの時と同様に残りの炎龍を一網打尽に蹴散らした。


「全く。相も変わらず出鱈目な力ですねぇ。元帝国筆頭魔導師殿?」


「さて、お前たちが何をたくらんでいるのかを教えてもらおうか? 帝国魔道総師?」


 炎龍をあっさりと蹴散らした師匠は、スタリとファーレンベルクの背へと着地した。


「師匠! 無事だったんですか!?」


「ふ。あれくらいでわしが死ぬか」


 あれくらいというが、イファールの溶岩龍に包囲されている中でロイルドや魔将のシャクトと対峙するという絶望的極まりない状況だったはずなのでは?

 という俺の疑問を無視し、ロウセイは片手を上げて俺を制した。


「質問は後だ。まずはこのアホをとっちめるぞ」


 ファーレンベルクの背に飛び乗った師匠は、そのまま拳をペキパキと鳴らす。

 

「やれやれ。あの程度で死ぬ御仁度は思っていませんでしたが、この土壇場で現れるとは。ひょっとして状況を待っていましたか?」


 一方で、対峙する魔道総帥は再び炎龍を5匹呼び出した。


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