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動乱の幕開け

「これはこれは。お二人ともお早い帰還でしたね」

 

 ファーレンベルクに乗って帰ってきた俺たちに対し、カーナイルは両手を摺り合わせながらそんなことを言ってきた。

 一週間ぶりだが、変わらないな。


「お久しぶりですカーナイル様。

 ロウセイ様の紹介、ありがとうございました」


「いえいえ。お安い御用です。それで、何か実になりましたかな?」


 相も変わらず領主というより執事か商人と言った感じのカーナイルに苦笑しながら俺は成果を報告した。


「白魔法が使えるようになりました」


「なんと!

 この短期間で白魔法が使えるようになるとは! 驚きの才能ですな!」


 などと驚きながらこちらに歩み寄ってくる領主様。

 そりゃあ文字通り体で覚えさせられましたからねー。


「クウヤさんの魔法の腕はすごいです。

 たった一週間で私の風魔法と同じ位に白魔法を身に付けてしまいましたから」


 え! 俺の白魔法ってフィナリアの風魔法と同じレベルなの!?


「なんと! なんとなんと! それは素晴らしい!

 もしよろしければ我が領民にその腕をふるまってもらえませんかな!?」


 感極まったという感じで食い寄ってくる。

 

「え、ええ。それは構いませんからまずは落ち着いてください」


「おっと、これは失敬」


 そう言ってカーナイルは俺から距離を取り直した。


「カーナイル様。本日はお話があって急ぎ帰還させていただきました」


「はい。なんでしょう?」


 フィナリアはカーナイルにロウセイの考えていたことを伝え、これを伝えるべきだと考えてロウセイの元から帰還したと。


「ロウセイ様がそんなことを…」


 フィナリアの報告を聞き、カーナイルは腕を組んで眉を寄せる。


「あくまでロウセイ様の推測なので、外れている可能性もありますが…」


「いやしかし、人間界最強と言われたあの方の推測は無下にできませんね」


 ん? 今変な単語が混じらなかったか?


「あの、ロウセイさんって人間界最強なんですか?」


「クウヤ殿はご存じないのですか?

 ロウセイ殿は一流の武人にして魔法大国であるトルデリシア帝国の筆頭魔導師でしたから、並ぶ者なしと言われるほどの戦闘力の持ち主ですよ」


 そうなの!?

 いかついオッサンだと思ってたけど、人間界最強と呼ばれるような方だったとは…。

 若気の至りで魔界に行ってみちゃったりするわけだ。


「だとすると、帝国にはもう一度念を押しておく必要がありますね」


 俺の思考を余所に、カーナイルはそんなことをつぶやいた。


「となると、帝国は魔族の報告を…」


「はい。地方領主の杞憂だと一蹴されました」


 ロウセイの予想通りの結果に俺は内心ため息をつく。

 獣人たちに重税を課す。有事に対応しない。

 やはり帝国は相当ろくでもない国のようだ。


「とにかく、もう一度連絡を入れてみます。お二人はどうされますか?」


 カーナイルに言われて、俺は少し考える。


「師匠からは、暇があるなら白魔法の鍛練を怠るなと言われているので、出来れば治療して回りたいんですけど」


「おお。そういうことでしたら早速部下に怪我人や病人を集めてもらいましょう」


「あ、でもこんな時期ですからあまり酷使はできませんよ?」


「分かっております。片手間でも構いません」


 そう言ってカーナイルはテキパキと部下に指示を下していく。

 何のかんの言って仕事のできるお方だ。


「では、ファーレンベルク殿のいる庭に患者を集めるように言っておきましたので、よろしくお願いします」


「分かりました。何かありましたら、連絡をお願いします」


「はい。有事の際には真っ先に頼ることとなりますので」


 そう言われ、俺とフィナリアはファーレンベルクのいる庭に向かうことになった。


「しかし、師匠が人間界最強とは…」


「意外ですか?」


 俺の質問にフィナリアがそう問い返す。


「いや、言われて納得したというか、戦っているところを見学できなくて残念というか」


「クウヤさんも男の方なんですね」


 そう言ってフィナリアがクスリと笑った。


「どういう意味?」


「いえ、殿方はみんな強い者にあこがれますから」


 そう言われ、おれは思わず頭をボリボリかき回す。

 極めて女性らしいフィナリアにそんな事言われたらいろいろ勘違いしてしまう。


「ところで、師匠以外にも名うての武人や魔導師っているの?」


「やはり気になりますか?」


 そう言ってフィナリアは歩きながら俺の顔を覗き込む。

 だから勘弁してくれ。眼福ではあるが心臓に悪い。


「そりゃまあ、男ですから」


「ふふふ」


 何がおかしいのか、フィナリアはそんな笑みを浮かべた。


「そうですね。各国で超人と呼ばれている方々がいますから、実力者という意味ではそういった方々の名前がまず上がりますね」


「ほう。例えば?」


 そう言って、フィナリアは各国の強者の名前を挙げて行った。


「トルデリシア帝国では、帝国の英雄と呼ばれているドルガー将軍。

 西のノーストンではジェクト将軍。

 ここリスタコメントスだとロウセイ様…とはいえ、ロウセイ様は放浪癖があるので、リスタコメントスに常にいるわけではありませんが。

 あとは北のフォルシアンにも凄まじい使い手がいると聞いていますね」


「フォルシアンの実力者は有名じゃないの?」


「フォルシアン自体があまり国交を重んじない国柄なので、内部の事はほとんどわからないのですよ」


 そう言えばフォルシアンは多民族国家で、災害戦争時にも田舎に引きこもりっぱなしだったって言ってたな。

 鎖国でもしているんだろうか? 大陸内で?


「もっとも私が知らないだけで、他にも凄まじい使い手はたくさんいると思いますよ」


「そんなものか。

 ちなみにフィナリアはその将軍たちと比べたらどう?」


「全力で戦って一分持てばいい方だと思います」


 フィナリアが一分持てばいい方か。それは凄まじい実力者だろうな。


「もし魔族が攻めてきたとしたら、その人たちが出てくることになるのかな?」


「そうですね。先ほど名前を挙げた方々なら、ベヘルが相手でも後れを取ることは無いでしょう」


 フィナリアはそういったが、俺は不安が晴れなかった。

 なにしろベヘルはただの先兵だ。

 魔族の中にはもっと恐ろしいやつらがいる可能性が捨てきれない。


「まあ、いつ攻めてくるかわからない相手より、今私たちができることをやりましょう」


「まあ、まずはそうなるね」


 そんな会話をしながら、俺たちは庭へと向かった。


 

 

 





「ダメですね。やはり話になりません」


「そうですか」


 フィナリアから報告を受けたカーナイルは、部下に命じて通信用の水晶を用いて帝国に報告を行った。

 フィナリアがベヘルと戦った直後にも同じ報告をしたのだが、今回も同様の結果に終わってしまった。


「あまつさえ帝国側は『ただの強盗を魔族と間違えるとは、地方軍というのは力もない上に状況判断もできないようですな』と言ってくる始末です」


「……ここまで危機感がないとは」


 帝国の対応に、カーナイルは呆れてものも言えないと言った感覚に陥る。

 トルデリシア帝国ができて5000年。

 その間、魔族たちとの戦いは一手にシェルビエントが引き受けているため、帝国の貴族たちは危機意識が薄い。

 

 しかし、だからといって事実を事実と認められないほどに耄碌しいるとなると最早救いようがない。


「……アルザス殿の言うとおり、動かなければなりませんかね」


 ぽつりとそうつぶやくカーナイルの目の前で、通信水晶が赤く光って何かを受信した。

 

「緊急連絡?」


 通信水晶は、魔力を用いて通信を行う魔道具の一種であり、その生産管理はトルデリシア帝国が一手に請け負っている。

 そして、このカーナイル領に配備されているものはそれを貸与されたものに過ぎない。


 そしてその通信方法は一つだけではない。

 先ほど帝国に行ったような一対一の通信を行う際に、水晶は緑色に光る。


 領地内の各所に同時通信を行う場合は黄色に光るが、これは領主権限がなければ使うことができない。

 というより、製造コストの関係から、同時に複数の通信水晶に連絡を入れられるほどの出力がある水晶は領主以上しか所持できないのだ。


 ところが今目の前にある水晶は赤く光っている。

 これは緊急通信と呼ばれる通信で、リスタコメントス全域、あるいは人間界全域に情報を同時に送ることのできる代物だ。

 これが出来る水晶は、各国の国王しか所有していない。


 しかしこの通信が用いられたことはカーナイルの知る限り存在しない。

 人間界内部で発生する問題など所詮は小競り合いばかりだからだ。


「送信元は……シェルビエント?」


 人間界と魔界を隔てる軍事国家であるかの国も独立国家として認められており、最少国家とはいえその重要性から、国王には最上級通信水晶の所持を認められている。


「……嫌な予感しかしませんね。連絡内容は?」


「はい、今再生します」


 カーナイルの指示に、部下の通信士は緊急通信を再生した。






 俺が白魔法を使い始めて一週間。魔法についてもいろいろとわかってきたことがある。

 魔法も運動と同じで、魔力を低出力で用いれば有酸素運動のように長時間使用でき、逆に高出力で用いると無酸素運動のように短時間しか利用できない。


 当然瞬間的な効力は後者の方が高いが、魔力効率が悪いので、魔法を覚えて一週間そこいらの俺がそんなことをすればすぐに魔力切れを起こしてしまう。

 総合的に見て低出力で時間をかけながら治療した方が結果として数多くの人の治療を行うことができるのだ。


 先日ロウセイから魔族の話を聞いたので、現在は運動に換算して散歩程度の出力で白魔法を発動している。

 ロウセイならそれでも切り傷の一つや二つくらいあっさりと治してしまうのだろうが、俺やフィナリアでは自然回復速度を大幅に早めるくらいでしかない。

 

 一応魔族のために待機しているので、満身創痍になるまで魔法を使うわけにはいかないのだ。


「クウヤさんのおかげで、私の白魔法の効力も上がりましたね」


「あんなものでよければ、いくらでも教えてあげられるぞ」


 隣で一緒に白魔法を用いながらフィナリアが俺にそう告げる。

 ロウセイに頼まれた授業の後、俺とフィナリアの白魔法の効力は目に見えて上がった。

 あくまで感覚的ではあるが、最大出力、魔力効率の両方が向上したのだ。


 これに対して俺は一つの仮説を立てた。

 発生する現象に対する理解が深ければ深いほど使う魔法は強力になっていくということではないかとだ。


 現に、フィナリアの白魔法は明らかに俺よりも効力が弱い。

 一度同程度の怪我人をどちらが早く治療できるかという方法で比べてみた結果、明らかに俺の方が早く綺麗に治療できたのだ。


 とはいえ、フィナリアは長年風魔法を使ってきたため、魔力量でいえば俺よりもはるかに上を行く。

 そのため俺と違って一日中治療を行えるのだ。

 

 容姿も相まってか、患者はみんな腕のいい俺よりもフィナリアの方によっていくのは気のせいではないだろう。

 だってロウセイと一緒にいた時も男衆はフィナリアの方に並んでいた位だ。

 大方フィナリアの顔を見れば忘れる程度の怪我なんだろう。


「でしたら、機会があればまた教えていただけますか?

 まだよく分からないことが多いので」


「喜んで」


 そんな会話をしながら治療を続行していた俺たちに、一人の兵士が駆け寄ってきた。


「お二方。カーナイル様がお呼びです。お越しいただけますか?」


「ああ、わかりました」


 そう言われ、俺とフィナリアは庭を後にする。

 元々ボランティアで、いつ中止するかもわからないということは周知してあるため、住民たちも不満はなさそうだ。

 中にはファーレンベルクを遠目から眺めている人や、近づいて触っている子供たちもいる。

 なんか半分観光地になっているような気もするが、気にしたら負けだろうと思って、俺たちは兵士に案内されるままにカーナイルの執務室へと案内された。


「よく来てくださいました。お二人とも」


 いつもの調子でこちらにカーナイルが歩み寄ってくるが、心なしかその表情が暗い。


「何かあったんでしょうか?」


 フィナリアの質問に、カーナイルが頷く。


「実は」


 一呼吸置いたカーナイルは。


「シェルビエントが魔族たちの襲撃を受け、砦が壊滅したそうなのです」


 淡々と驚愕の事実を口にした。


下手な地図なんて見てねーよ! という方のために補足説明を。

シェルビエントは大陸中央に位置する独立戦闘国家の事です。



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