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乱入者と裏切り者

「なんだあいつは!」


 イファールと師匠の戦いが終わり、二人が手を取り合おうとした時に突如炎龍弾を叩き込んできた何者かに対し、俺はそんなことを口にした。


「…ロイルド・インディオス」


 そんな俺の隣で、フィナリアがそんなことを呟く。


「クウヤさん。覚えていませんか? あの方は、帝国にてファーレンベルクを打ち抜いた魔導師です」


「な、あいつが!?」


 あの時、俺は早すぎる状況の推移についていくだけで一杯一杯だったのだが、フィナリアはファーレンベルクを打ち抜いた魔導師の顔を覚えていたらしい。

 

「そう言えば、ロイルド・インディオスってやつは」


「はい。ジェクト将軍の話では遺体が見つかっていないという話でした」


「生きておったということか? しかし、ならばなぜこんなところにいる!?」


 弓を手に、セレスティーナはそんなことを口にする。

 フィナリアも警戒心をあらわにしていえる。

 同様に、俺も師匠とイファールの決闘に水を差したあいつに対して言えることは一つ。


「あいつは、敵だ」


「うむ」


 そう言って、セレスティーナは再び弓に魔力の矢をつがえる。

 フィナリアの風鳴閃もかくやと言わんばかりの鋭さを以て宙を漂う魔導師めがけて飛翔する。


 が、放たれた矢はロイルドにぶつかった瞬間に弾かれたように力を失った。


「……やはり、一筋縄ではいかんようじゃな」


 セレスティーナの一言に、俺とフィナリアは頷いた。


「クウヤ! 今すぐこっちに来てイファールに治療を施せ!」


 そんな時、ロウセイ師匠が俺たちに向かってそんなことを叫んだ。


「り、了解!」


 そう言って、俺はファーレンベルクにイファールの元へ向かうように指示を下した。

 師匠との戦いで負傷していたイファールは、先ほどの炎龍弾を回避しきれなかったのか、苦しそうに蹲っている。


 先の一戦で既にイファールは敵ではなくなっている。

 どんな理由かは知らないが、第三勢力が現れたというなら治療をしておく必要がある。







 

「ロイルド。何のつもりか知らんが、この場を荒らした以上お前を生かしておくわけにはいかんぞ?」


 イファールとの戦いのときにさえ見せたことの無いような怒気をはらませ、師匠は宙に漂う魔導師を相手にそう告げる。

 それに対し、ロイルドはニヤリと笑みを浮かべて手にしていた杖を掲げた。


 すると、ロイルドの上方に無数の氷塊が生み出された。

 しかもその氷塊の一つ一つが鋭い杭のように研ぎ澄まされている。


「そんなものでわしが止められると思っているのか?」


 そんなことを口にするロウセイに対し、ロイルドはニタリと笑ったまま口を開く。


「あなたは無理でしょう。ですが、そこの弱った魔王を仕留めるには十分すぎる」

 

「させるか!」


 そう叫び、ロウセイはロイルドめがけて拳を構える。

 それに応じるようにロイルドは杖をふり下ろした。


『氷杭・流星群』


『慟波掌!』


 降り注ぐ無数の氷の杭が迫る中、ロウセイが空中にて虚空に掌底を放つ。

 直後、師匠から衝撃波が拡散し、氷杭のほぼ全てを叩き落とした。


「さすがですね。ですが、甘いですな」


 ロイルドがそう言うと、再び幾多の氷杭が撃ち出された。

 その幾本かは魔王イファールめがけて放たれる。

 空中にいる師匠には対処の術がない。


 だが。

 すでにイファールの元にはファーレンベルクが到着している。


「ピュアアアアアアア!!!!」

 

 迫りくる氷杭を、ファーレンベルクは大きく羽ばたいた爆風で弾き飛ばす。

 幾本かの氷杭はそのままファーレンベルクめがけて飛来したが、その程度の魔法であればファーレンベルクの障壁を突破できるはずもない。

 迫りくる氷塊は、ファーレンベルクにぶつかる直前で霧散して消え去った。


「なるほど。報告に合った通り不思議な存在なようですね。あの炎鳥は」


「よそ見をしている場合か?」


 ファーレンベルクに対して感心した声を上げるロイルドに対し、地上に降りたロウセイがそんなことを口にする。

 直後、ロイルドめがけて無数の風の刃が迫りくる。


「おっと?」


 その風の刃をロイルドは咄嗟に生み出した炎の壁によって防ぐ。

 風の刃を生み出したのは、裂将セネルだった。


「よくも、イファール様を!」


 激情に駆られたように、裂将セネルはロイルドめがけて風の刃を叩き付ける。

 が、ロイルドの生み出した炎壁がその全てを防いでいる。


「ふむ。手数そのものは大したものですが、その威力ではいつまでたっても届きませんよ?」


「ならこれならどうだ!」


 突如、ロイルドの後方に雷将ライオスが現れる。

 電光石火とも呼べるその奇襲に対し、ロイルドは対処が間に合わず、ライオスの拳を受ける。


「チッ!」


 だが、殴り飛ばしたライオスが舌打ちをする。

 殴り飛ばしたライオスの腕に、鈍い鈍痛が走ったのである。

 そして、殴り飛ばされたはずのロイルドは地面まで飛ばされたのちに、綺麗に着地して体勢を立て直した。

 殴られた箇所には、痣1つできていなかった。


「雷将、雷を扱い、電光石火の動きをするというのは真でしたか」


「てめえ、その体一体何でできてやがる? 人間じゃあねえな?」


 ライオスの問いに、ロイルドはにやりと笑う。


「いやいや、この身に敵に触れられたのは久方ぶりですよ。なかなかの腕をお持ちだ」


「余裕こいてて大丈夫か?」


 ライオスがそう言うと、ロイルドの背後にロウセイが回り込んだ。


『裂衝拳!』


 ロウセイの拳がロイルドに向かって振るわれる。

 イファールを戦闘不能に追い込んだ一撃が、ロイルドに向かって容赦なく振るわれる。


「ごっ!」


 その一撃を受け、ロイルドは大きく弾き飛ばされる。

 

「……」


 だが、打ち抜いたはずのロウセイの表情は晴れなかった。

 手ごたえはあった。だが、その手ごたえが大岩や金属塊を殴ったような感触だったのである。


「いやいや、全く。流石にこの人数の手練れを相手にするのは骨が折れますね」


 そして、ロウセイの一撃を受けたはずのロイルドは、まるで何事もなかったかのように立ち上がってきた。

 そんなロイルドに対し、ロウセイは警戒心をあらわにしながら口を開いた。


「確かに打ち砕いたはずだが、なぜ無傷なんだ?」


「いえいえ。無傷などではありませんよ。殺されたのは本当に何百年ぶりですかね?」


 そんなことを口にするロイルドに対し、ロウセイは再び拳を構える。


「帝国に居た時から得体が知れないと思っていたが、その体は人のそれではないな? 悪いが、今すぐ始末させてもらうぞ」


「ハハハ。確かに、この状況はあまりよろしくない」


 気が付けば、ロイルドの背後にゴライアスとベヘルが立ちはだかっていた。

 正面からはロウセイとライオス。

 そして離れた場所からはセネルが隙あらば撃ち抜こうと控えている。

 

 八方手詰まりといって差し支えない状況。

 しかし、そんな状況下においてロイルドはにやりと笑みを浮かべた。


「まあ、囮としての私の役目は十分に果たせたのですがね」


「囮? まさか!?」


 その一言に、ロウセイはファーレンベルクの方を振り向いた。

 

「ゴフッ!」


 その視線の先には、炎将シャクトに胸を貫かれて口から血反吐を吐く魔王イファールの姿があった。









「よし。これなら大丈夫だ!」


 ファーレンベルクがロイルドの放った氷杭を防いだ直後、イファールの元へと駆け寄り、俺は白魔法を発動させる。

 ロウセイ師匠はしっかり加減していたのか、イファールは致命傷には至っていない。


 治療をすれば十分に間に合う範囲だ。


「クウヤ殿! イファール様は!?」


 俺が治療を開始した直後、イルアムが一人の魔族と共にこちらに向かって駆け寄ってきた。


「大丈夫、間に合う」


 俺の返答に、イルアムがほっと溜息をついていた。

 

「ただ、かなり大量の魔力がいる。悪いが余力は残せない」


「分かりました。問題ありません」


 隣でフィナリアが頷くのを確認し、俺は魔力を全力でイファールへと流し込む。

 イファールはやはり凄まじい体力と魔力の持ち主で、俺の魔力量では重傷を和らげる程度にしかならない。

 師匠との戦いはごく短時間であったにもかかわらず、それだけの深手を負うほどに苛烈な物だったのだ。


「何とかなりそうか?」


 そんな俺に対し、イルアムと共に歩み寄ってきた魔族がそう問いかけた。

 たしか名前をシャクトとかいう魔族で、イファールの側近の一人だったはずだな。


「ああ。多分、後遺症も残らない」


「そうか」


「! クウヤ! そやつから離れろ!」


 目の前の魔族がそう言うと、突如セレスティーナが叫び声を上げて矢を放った。

 真っ直ぐにシャクトの眉間めがけて射抜かれた矢は、しかしシャクトの体に触れた瞬間に燃え落ちた。


「セレスティーナ様!?」


「何を!?」


 そんなセレスティーナの行動に驚き戸惑うフィナリアとイルアムを前に、セレスティーナは容赦なく矢を射る。

 だが、その矢の全てがシャクトの体に触れた瞬間に蒸発した。


「ふ、鋭いな」


 そんなセレスティーナに対して、シャクトは一笑すると、突如俺を蹴り飛ばした。


「がっ!」


「クウヤさん!」


 いきなり蹴り飛ばされた俺を、フィナリアがかけよって抱き起す。

 

「シャクト様! 何を!」


 なおも戸惑うイルアムを前に、シャクトはその手をイファールの胸元に突き刺した。


「な! イファール様!」


 その光景に、イルアムがイファールめがけて駆け寄った。

 

『炎弾』


 だが、イファールに近づこうとするイルアムをシャクトが牽制した。


「シャクト様! いったい何を!?」


「いやいや、予定通り予定通り。よくやってくださいましたぞシャクト」


 大いに戸惑うイルアムの前に、ロイルド同様にどこからともなく現れた一人の男がそんなことを口にした。


「お主! いったいどこから現れた!?」


 突如現れた謎の男に対し、セレスティーナは弓を構えてそう叫ぶ。

 そう言えばそうだ。

 ロイルドもそうだが、目の前の男もセレスティーナが接近を察知できなかった。

 そんな問いを口にするセレスティーナに対し、突如現れた男は鷹揚に驚いて口を開いた。


「これはこれは、お初にお目にかかりまする。私の名はスペルダ・チルドレイン。以後お見知りおきをですぞ」


「……」


 スペルダと名乗る男の名乗りを前に、俺たちは呆気にとられるしかなかった。

 こちらの質問には答えないくせに名乗りを上げるという状況が非常に不可解だったからである。

 

「スペルダ卿。準備が終わりました」


 そんな俺たちを尻目に、イファール胸に手を突っ込んでいたシャクトがそんなことを口にしてその手を引き抜いた。


「おお。それは重畳。では早速始めましょうぞ」


「なにする気だ! ファーレンベルク!」


「ピュアアアアア!!!」


 恐ろしく嫌な予感がして、俺はファーレンベルクに対して攻撃するように命令する。

 だが。


「止めてください! イファール様が!」


「っつ!」


 そんな俺を、イルアムが制止する。

 シャクトとスペルダを攻撃しようと思えば、否が応でもイファールを巻き込んでしまう。

 その事実に、俺は攻撃命令を取り消さざるを得なかった。


「ふん。それでいい」


 そんな俺たちを見ながら、シャクトがファーレンベルクを迎撃する目的で滾らせていた魔力を収めた。

 そして、シャクトの隣でスペルダと名乗った男がイファールに触れる。


「まあご安心を。命を奪おうというわけではないのですから」


 直後、スペルダの手から漆黒の魔力が放たれ、イファールの体に飲み込まれていく。

 

「何を! やめてください! シャクト様! やめさせて!」


『炎壁』


 叫びながら駆け寄ろうとするイルアムの前に、突如炎の壁が生み出される。

 生み出したのはシャクトであり、炎の壁はすっぽりとイファール達を覆い尽くしてしまった。


「どけ!」


 そんな時、突如ロウセイ師匠が割って入りながら炎壁を殴り飛ばした。

 直後、まるでそんなものなど初めからなかったかのように炎の壁が霧散する。


 だが、直後、俺たちは信じられない光景を目の当たりにした。


「……イファール。お主」


 そこには、いつの間にか立ち上がっていたイファールの姿があった。

 その目は恐ろしく虚ろであり、その立ち姿は幽鬼のように生気が感じられなかった。

 そして、胸にできていたはずの傷跡からは黒い魔力が蠢いていた。


「ハハハ。予定通り実験体の出来上がりですな! いい! 実にいいですぞ! 滾りますな~~~!」


 そのイファールの隣で、スペルダという男が狂気乱舞していた。


「喜ぶのもいいですが、用事が済んだのならいい加減加勢してくださってもいいのではないですか?」


 そんな中で、魔将たちに囲まれていたロイルドがスペルダの隣にやってきた。

 

「おお。そうでしたな。では、早速試してみましょうぞ。新しい実験体の力を」


 スペルダがそう言うと、イファールが地面にその手を当てた。


「拙い! 全員下がれ!」


 ロウセイ師匠がそう言った直後、俺たちの周囲を取り囲むように溶岩の柱が立ち上がった。

 そして、その全てがすぐさま龍の形を形成していった。


「ははははは! 素晴らしい魔力ですぞ! やはり魔界最強の名はだてではないようですなぁ!!!」


 15匹の龍に周囲を囲まれた俺たちを前に、スペルダは高笑いをしている。


「お前! 旦那になにしやがった!」


 直後、スペルダの背後にライオスが回り込んで拳を振り抜いた。

 雷のような速さで動いたライオスを前に、ロイルドもシャクトも反応できぬままスペルダはその頭部を撃ち抜かれる。


 だが。


「ははははは。いやいや、あなたも素材としては悪くないですな」


 そんな中、頭蓋を砕かれたはずのスペルダがこともなげに立ち上がる。

 

「……てめえもかよ」


 すぐさま雷移動で距離を取り直したライオスの前で、スペルダは尚も高笑いしていた。

 その頭部は、すでに血糊一つ残っていなかった。


「スペルダ。目的は果たしました。お遊びはそのくらいにして、さっさと止めを刺しますよ?」


「おお。そうでしたな」


 そう言うと、スペルダは指をパチンと鳴らす。

 直後、俺たちの周囲を取り囲んでいた溶岩龍が一斉にこちらに向かって襲い掛かってきた。


「チィ!」


 その溶岩龍の一匹をロウセイ師匠が掴み取り、振り回そうとする。


「させませんよ」


 だが、それをさせじとロイルドが『水鳴閃』を放つ。

 高密度に圧縮された水が閃光のように迫る中、師匠は掴んだ溶岩龍をふり回してその攻撃を凌ぐ。

 だが、その一撃を凌いだせいで他の溶岩龍への対処が完全に遅れてしまった。


「くそ! ゴライアス!」


 ライオスがそう叫ぶと、岩の鎧に覆われた異形の魔族が頷き、俺たちの周囲から無数の土壁が生み出される。

 その土壁が、迫りくる溶岩龍の全てを受け止めた。


 だが、それも時間稼ぎ程度。

 見る見るうちに赤く染まっていく土壁は、突破されるまで時間の問題であった。


「撤退しろ!」


 そんな中、ロウセイ師匠がそんなことを口走った。

 

「イファールの攻撃を凌げている今しかない! すぐにファーレンベルクに乗って離脱しろ!」


「り、了解!」


「三人とも! 捕まってください!」


 フィナリアにそう言われ、俺とセレスティーナとイルアムがフィナリアに掴まる。

 直後、風が俺たちの体に纏いつき、体感重量が軽くなる。

 フィナリアの魔法『浮遊』によって体重を軽くされた俺たちは、そのままファーレンベルクめがけて跳躍した。


「師匠も早く!」


「わしのことは良い! 心配するな!」


「でも!」


「足手まといだ!」


 俺たちに対し、師匠はそんな怒鳴り声を上げる。

 確かに師匠の実力は先ほどこの目で見た。

 俺たちが心配するのがおこがましいほどの実力者であるということに対しては疑う余地はない。

 

 だが、それでも相手が異常すぎる。

 そんな俺の迷いを察したのか、師匠が今一度怒鳴り声を上げる。


「急げ! 魔族どもも連れて急ぎシェルビエントに戻れ! さもなくばわしがお主らを叩きだすぞ!」


 その恫喝を聞き、俺は歯を食いしばりながら眼下の魔族たちを見下ろした。

 そこには、4人の魔族が今にも土壁を打ち抜かんとしている溶岩龍に囲まれている光景が目に入った。


「お前らも早く!」


 そんな俺の叫びに、ゴライアスを除く三人がこちらを向いた。


「急げ!」


 ありったけの声でそう叫ぶと、ベヘル、ライオス、セネルの三人が頷き、直後、ライオスが二人を掴んでファーレンベルクの背に瞬間移動した。


「いけ!」


「ちょっと待てよ! あいつは!?」


 ライオスの言葉に、俺は眼下に残された巨漢の魔族、ゴライアスを見ながらそう言った。


 だが、直後ベヘルが俺の頭を掴んで視線を無理やり前に向かせた。


「ゴライアスは無理だ! 早く離脱しろ! もう壁が持たん!」


「………くそ!」


 何の迷いもないベヘルの一言に、俺は言い返したい言葉を飲み込んだ。

 ベヘルの言う通り、周囲の土壁は今にも溶岩龍の突破を許しかねない状況に置かれている。

 それを防いでいるのがゴライアスという魔族のおかげだとすれば、確かにこの状態で共に離脱するのは不可能だ。

 

 ……迷っている時間はない。


「ファーレンベルク! シェルビエントめがけて飛べ!」


「ピュアアアアアア!!!!」


「逃がすか『獄炎弾!』」


 逃げ出そうとするファーレンベルクめがけて、シャクトが一つの魔法を放つ。

 溶岩龍の包囲網を突破しようとした俺たちめがけて、まっすぐに。


「逃がさせるさ」


 だが、その獄炎弾をロウセイ師匠が真正面から撃ち落とす。

 その隙に、俺たちは周囲を取り囲む土壁を突破する。

 だが、その際に3匹の溶岩龍が土壁を壊すのをやめてこちらに向かって来た。


「躱せ! ファーレンベルク!」


「ピュアアアアアアアア!!!!!」


 俺の命令に従い、ファーレンベルクは迫りくる溶岩龍を回避しながら真っ直ぐ西へ向かって飛翔する。

 自由自在に空を舞うファーレンベルクを幾度か溶岩龍が掠めるが、掠める程度の攻撃であればファーレンベルクの障壁を突破することは困難だ。


「……師匠」


 溶岩龍を振り切った俺たちの背後で、溶岩龍たちがゴライアスの創り上げた巨大な土壁を突破しているのが目に入った。


「クウヤさん」


 その光景に後ろ髪惹かれる俺の隣で、フィナリアが手を取った。


「大丈夫です。ロウセイ様なら、きっと」


「……ああ。そうだな。大丈夫だ。きっと」


 フィナリアの一言に、俺はそう頷いた。

 それは、フィナリアの手が震えていたからに他ならない。

 不安を抱いているのは、俺と同じなのだ。


「……まずは戻ろう。シェルビエントに」


「はい」


 俺の一言に頷き、フィナリアは後方を振り向いた。

 そこには、ライオス、セネル、ベヘルの魔族3人がいた。


「お三方も、御同行願ってもよろしいでしょうか? 決して悪いようにはいたしませんので」


「……俺は構わん。ベヘル。セネル。お前らはどうだ?」


「俺もだ」


「私は……」


 セネルだけは色の良い返事をしなかったが、とりあえず敵対する意思がなさそうなので俺はそっと安堵した。

 そして、言葉を濁すセネルにイルアムが声をかける。


「セネル様。イファール様がああなった原因は、間違いなくあの乱入者たちが原因です。ですが、私たちはあの敵の正体を全く知りません。……なぜ、シャクト様が裏切ったのかも」


 苦しそうにそう告げるイルアムを前に、セネルは苦々しくも笑みを浮かべてその頭の上に手を置いた。


「分かっているわ。大丈夫」


 そう言って、セネルはこちらに向き直った。


「ごめんなさい。私は、イファール様を助けたい。だから、そのためにしか協力できない。それでもいい?」


「構いません。同行してくださり、ありがとうございます」


 そう言って、フィナリアは一度頭を下げて前を向き直った。


「まずは戻りましょう。シェルビエントに」


 フィナリアの言葉に、俺たち全員が頷いた。

 起こってしまった出来事の重さを、受け止めきれないままに。

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