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クウヤの知識

「で、その続きはどうなっておる?」


「胃袋で消化された食べ物は、小腸・大腸と呼ばれる場所に送られて水分や養分を吸収されてから排便される…はずです」


 本日。俺はロウセイから質問攻めにあっており、フィナリアとロウセイの二人に保健体育の授業をすることになっていた。

 

 なぜそんなことになったのかは少し説明しなければならないだろう。

 事は先日の雑談に始まる。






 ロウセイの元で白魔法の訓練を初めて一週間が経過した。

 俺は毎日魔力をスッカラカンになるまで使い込み、泥のように寝込む日々を送っていた。

 

 その甲斐あってか魔力量は目に見えて伸びて行った。

 どころか、魔法の効力も目に見えて上昇していっていた。


 ロウセイ曰く『魔力量は魔力を消費した分だけ増えるが、魔法の効力はその魔法に対する理解が深ければ深いほど高まる』らしい。


 そんなこんなで俺の白魔法の腕はメキメキ伸びていき、いつの間にやらフィナリアを圧倒するくらいになっていた。

 ……まあ、白魔法だけの話ではあるんだけどね。


 そんなある日、いつも通り治療を終えた俺に対して、ロウセイが何やら眉を寄せながらノシノシと歩み寄ってきた。


「クウヤ。お主何者だ?」


「へ?」


 突然ロウセイが言い出した言葉に俺は目を点にしていた。

 

「お主の白魔法は明らかに素人のそれではない。

 短期間でそれほどの効力のある魔法を習得しようと思えば、よほど人体の構造に精通していなければ不可能だ。

 クウヤ。お主人体構造の知識があるのか?」


 と質問を受けたのだ。

 それに対して俺は学校で習った保健体育の知識をさわりだけ話したのだが、それに対してロウセイはさらに眉をひそめた。


「人体の解剖が禁止されているのになぜそこまで詳しい?」


「ん? あ……」


 言われて俺は俺の世界の知識がこの世界の常識に当てはまらないことを思い出した。

 元の世界では一般教養として保健体育の教科書に人体の内臓構造やその機能が大まかに記載されているのだが、解体新書が日本に入ったのが18世紀だったはずだからそれ以前は人体構造など知る人はほとんどいなかったはずだ。


 まともな神経をしていれば人の体を掻っ捌いて研究しようなどと思うものでもないだろうし、そう考えればこの世界では俺程度の知識でもかなり人体の神秘を解読していると思われても仕方がないのかもしれない。


「まあ、なぜ知っているかを問いただすつもりはないが…」


 閉口する俺に対してロウセイは歩み寄って。


「その知識、教えてもらうことは出来んか?」


 と、俺にそんな質問をした。






 という経緯があり、俺はロウセイとフィナリアの二人に保健体育の授業をすることになった。


「我々の体はなぜ動く?」


「えっと、俺たちの体には神経という物が張り巡らされていて、その神経に電気信号が送り込まれて動いているんです」


「電気信号というのは?」


 とまあこんな感じで俺はロウセイから質問攻めにあっているのだ。

 フィナリアもとても興味深そうに話を聞いている。


「つまり、わしらの頭部にある脳とやらからわしらの体や、内臓とやらに至るすべてをコントロールする魔力のようなものが出ており、お主はそれを電気信号と呼んでいるということだな?」


「え、ええ、まあそんな感じです」


 専門用語の類を一切無視した俺の知識だが、ロウセイはまるで渇いた地面が水を吸い取るかのように俺の知識を吸収していた。

 ロウセイにとっては聞きなれない単語も多いだろうに、一度聞いただけでそれらを覚えてしまうので教えるのも楽だ。


「ふむ。とりあえず一通り聞きたいことは聞けたな」


 午前中すべて質問攻めにあった俺だが、おかげで俺の復習にもなった。

 いい生徒を持つと先生の勉強にもなるというが、今回の一件はそのいい例だろう。


「でも、こんな知識が白魔法の役に立つんですか?」


 質問攻めにあった俺は、ずっと浮かんでいた疑問をロウセイに投げかけてみた。


「勿論だ。例えば、フィナリアの使う風魔法だが、なぜ風が起こるのかを理解しているかいないかで効力が大きく変わってしまうのだよ」


「そうなのか?」


 ロウセイにそう言われた俺はフィナリアに確認する。


「はい。ですから風魔法の使い手は、まず使えるようになるまで風通しのいい平原などで風の声を聞けるようにならないといけないんです」


「風の声?」


 そう言われて俺は風についての知識を思い出してみる。

 あれは地球の自転による大気の流れと、地形や気圧の変化によって巻き起こる自然現象だったはず。


 まあ現代科学も万能ではないからこの論法で完璧であるとも思えないが、風の声を聴くというのがこれに該当したりするのだろうか?

 機会があればフィナリアに聞いてみよう。


「話を戻すが、人の体を治す白魔法の効力は、人体の構造をどれだけ熟知しているかによって決まる。

 となれば、お前の白魔法の効力が高いのは間違いなくその知識のおかげと言えるだろうな」


「……そうなんですか」


 思わぬところで俺の知識が生きることとなり、何やら内心ワクワクしてきた。

 

「いろいろ実験が必要だが、わしの白魔法の技量もこれで上がることだろう」


「……マジですか?」


 ただでさえ凄まじい白魔法を使えるロウセイがパワーアップしてしまうと…どうなることやら。


「驚くことか? 

 恐らく魔法を身に付ければお主の方がよほどいい白魔導師になると思うぞ」


「マジですか!?」


 元帝国魔導師筆頭にそう言われて俺のテンションも跳ね上がる。

 ようし。これからもっと魔法の訓練を頑張ろう。


「さて、昼飯が終わったらまた仕事だぞ」

 

「はい!」


 何やら再びテンションが上がってきた。

 もし攻撃魔法が使えるようになれば俺はファーレンベルクのヒモを卒業できるかもしれないな。






「つ、疲れた……」


「確かに。少し疲れましたね」


 結果から言うと、俺とフィナリアの回復魔法の効力が跳ね上がっていた。

 どうやらロウセイに質問攻めにあったせいで俺の方は錆びついていた知識が磨かれ、フィナリアもロウセイほどではないにしても俺の授業を理解したようだったので、俺たち二人の魔法の効力が上がっていたのだ。


 ただし魔法の効力が上がったせいで時間単位の魔力消費量も跳ね上がってしまい、俺はくたくたになってしまったということだ。


「フム。クウヤ。お主の知識は恐ろしいほどに的確じゃな。

 誰に教わったのか本当に問いただしたいが…」


「勘弁してください…」


 他の攻撃魔法の練習もしたいと思っていた俺だが、白魔法だけで疲弊している俺にはそんな余力も、ロウセイからの質問攻めに連日耐えられる精神的余力もない。


「さて、晩飯にするか」


 そう言って、ロウセイは食事の支度を始めた。


「しかし、獣人ってのはみんなすごい身体能力をしているな」


 この一週間、この村の獣人たちの治療を担当していたわけだが、その中には当然子供なども含まれていた。


 驚いたのはその子供たちの身体能力についてだ。

 子供らしく飛んだり跳ねたり走り回ったりしていたのだが、その運動量が完全に俺を置いてけぼりにするものだったのだ。


 足の怪我を治療した子供が喜び勇んで三回転バク宙を無造作に披露したときは開いた口がふさがらなかった。


 無邪気に遊ぶ子供ですらそんな状態なのだから、俺が初めに立ち寄った村で村人たちが盗賊を圧倒していたのもうなずける。


「そうですね。

 獣人族の方々は、身体能力において完全に私達人族を上回っています」


「それにしては村の人たちはずいぶんと質素な生活をしているように見えるのは、この村にも重税がかけられているってことでいいのか?」


 俺は獣人たちの身体能力の高さを再認識したと同時に、その能力に比べて妙に貧しい生活をしているように思えて仕方がないと感じるのだ。

 初めて立ち寄った村にしてもそうだ。

 あっという間に魔物たちを狩猟してのけるような狩人たちがいながら、村人たちは随分と質素な生活をしていた。


 あの村だけ特別突出しているのかとも思っていたが、この村にも同レベルの狩人達がいる。

 ざっと見た限りだが、俺から見て村の収入は大差がない。

 そもそも俺たちの食事も村の獣人が狩ってくる魔物たちがメインなのだ。


 俺がそんなことを考えながら口にした言葉に、フィナリアは目を伏せた。


「はい。どの村であっても変わらず、獣人たちの集落には重税を課せるように帝国からの命が下っています」


「ここはリスタコメントスって国なのに帝国の意向を受けているの?」


「リスタコメントスの国王がトルデリシア帝国の伯爵に当たる人物なので…」


 ……そういうことね。

 どうやらこのリスタコメントスという国は帝国の属国と考えていいらしい。


「クウヤ。お主その様子では災害戦争の事も知らんのではないか?」


「災害戦争?」


 ロウセイから再び聞きなれない単語を聞き、俺は首をかしげた。


「……クウヤさん。まさか災害戦争まで知らないんですか?」


 なんか隣でフィナリアが信じられないものを見るような目で俺を見ている。

 彼女がそんな表情を浮かべるのは非常に珍しいので、今俺がどのくらい非常識な回答をしたのかがよく分かる。


 でも仕方ないじゃん。俺、この世界に来てまだ10日くらいなんだから。


「まあクウヤがおかしいのは最初からだ。

 ファーレンベルクとやらも、今では子供の遊び相手になっとるしな」


 そう。初めのころこそ警戒されていたファーレンベルクだが、いつの間にやら村の子供たちの遊び相手として村の住人達に溶け込んでいたのだ。

 ここの所白魔法の練習ばかりですっかり忘れていた。


「まあ災害戦争のことは飯でも食いながら話すとしよう。

 この大陸に生きる者達にとっては避けて通れん話じゃからな」


「それにしても、見たこともない炎鳥を携えていたり、魔法が使えないのに白魔法には詳しかったり、クウヤさんは一体何者なんでしょう?」


 なにやらフィナリアが熱い視線をこちらに向けている。

 美人にそんな視線を注がれて悪い気はしないが、内容が内容なので素直に喜べない。


「まあクウヤの事はどうでもいいじゃないか。

 本人も話す必要があれば話すだろうからな」


 ロウセイにどうでもいいの一言で片づけられ、内心でほっとしながら苦笑いをする。

 フィナリアも気にはなるようだが無理に言及するつもりもないらしい。


「災害戦争ってのは、5000年前に起こった戦争の事だ」


「5000年前?」


 シェルビエントが魔族を抑え込んでいる期間と同じだ。

 にしても、そんなに古い時代に起きた戦争の事がそんなに重要だったりするのだろうか?


「その戦争って、そんなに重要な事なんですか?」


「うむ。何しろこの戦争によってもたらされた爪痕は、5000年が過ぎた現在でも色濃く残っておる。

 獣人が差別され続けているのも、この戦争が直結しておるからな」


 ロウセイの言葉に、俺は眉をひそめた。

 そしてこの話はよく聞いておかないといけないものだと思った。初めて立ち寄った村で見たこの世界の闇の断片。

 それにつながっているように思えたからだ。


「災害戦争というのは、今から5000年前に、この大陸に隕石が衝突するという未曾有の大災害が引き起こされたことを発端とする、大陸史最大の戦争のことだ」


 そう言ってロウセイは話を始めた。


白魔法だけ上手い主人公!

これでますます活躍しくなりそうになってしまった……。



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