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旅の始まり!

「……えっと。ここ、どこ!?」


 いきなりわけの分からない場所にいた!

 真っ白……というよりは無色という感じの空間が広がっている!


 たとえるなら……あれだ。

 1日が1年になって重力が10倍で気温の変化が激しいとこみたいな感じ。


 少なくとも今までこんな光景は見たことが無い。

 幻想的ともいえるが、どうにも現実感が薄い。


「気が付きましたかクウヤ」


「ひぐぅ!」


 突如、俺の後頭部に名前を呼ぶ声が響いた。

 後方不注意なのは俺の常。

 後ろから声をかけられると変なリアクションをしてしまう。

 

 ……そのせいでよくからかわれたっけかな~。


 等と現実逃避しながら声のした方を振り向くと、そこに凄まじいまでの美人がいた。

 長くつややかな金髪、人間離れして整った顔立ちと、左右で色の異なるオッドアイ。

 白を基調としたドレスのような礼服のような服を着ているが、その服の上からでもわかるようなプロポーション。

 

 ……思わず鼻の下が伸びそうだ。


「どうかした?」


「いいえ」


 そんな下心を存分に抱きながらも、俺は平静を演じる。

 これぞジェントルマンの極意! ……なんてな。


 しっかし。

 絶世の美女というのがいるとすればこういう人を言うのだろうかと思ったが、あまりに幻想的に見えてみている方が委縮してしまいかねないような美貌の持ち主だな。


 北欧風……ロシア風……いや、違うな。

 そういうのじゃなくて、もっと幻想的な……絵にかいたような美人さん。

 何というか、こう……ゲームとかで女神キャラを具現化したような感じの美人なのだ。

 

「?」


 よく見ると明らかに目の前の美女は普通ではない。

 俺よりも小柄に見えるのに目線が俺よりやや高い。

 そんな矛盾あるかと思って足元を見てみると、地面から僅かに浮いていた。


 それに驚き、失礼と思いながら目の前の美女を凝視(やましい気持ちはない。ないったらない)してみると、僅かばかりだがその体が輝いていた。


 後光の類ではなく、注視しなければ気が付かないほど僅かな輝きだったが、それがむしろ目の前の女性の美しさを際立てていた。


「私の顔に何かついている?」


 目の前の美女にそう問いかけられ、俺は正気に戻った。

 完全に見とれてたな。


「あ、いえいえ、大丈夫です」


「なら話をしてもいいかしら?」


 そんなことを言われ、俺はコクコクと頷く。

 いろいろ疑問があるが、とりあえず目の前の美人さんに話を合わせよう。

 

 うん。

 状況を把握するのは重要なことだ。

 断じて美人さんとお話しが出来るからじゃないぞ?


「まずは、そうね。私の名前はレンシア。

 あなたの感覚でいえば……女神と呼ばれる存在ね」


「……え?」


 その言葉を咀嚼するのに、俺は少し時間が必要だった。


 目の前の女性は女神と呼ぶにふさわしい容姿をしている(というかさっきまで俺自身がそう思っていたのだ)が、たぶんそういうことではない。


 比喩や抽象ではなく、本当に自分のことを女神だと言ったのだ。


「女神って、あの?」


「多分、その」


 俺の意味不明な質問に律儀に合わせてくれる女神様。

 容姿だけではなく人柄もよさそうだが、はたしてどこまで信じていいのやら。


「疑うのは構わないけど、そうすると話が進まないわよ?」


 ……なぜかこちらの考えていることがバレてるし。


「……質問良いですか?」


「どうぞ」


 許可を頂いたので遠慮なく質問する。


「ここはどこですか?」


 その質問に、レンシアは一拍おいて答えてくれた。


「ここは霊界。

 あなたの言葉に直したら、死後の世界と言ったらいいかしら?」


「え? 俺、死んだんですか?」


 レンシアの解答に、俺は思わずそんな返答をした。


 しかし当然だろう。

 今いるのが死後の世界なんてすぐに飲み込める内容ではない。


 アイ、ワズ、ダイ? リアリー?


「死んだのとは少し違うんだけど、ここに来る前に何があったか覚えてる?」


 そう言われて思い出してみる。

 確か俺は夜間コンビニに行こうとして……気が付いたらここにいた。


 間違いなくどこかで記憶が吹っ飛んでいる。

 不思議な部屋への入り口なんてコンビニの道中にはないぞ?


「やっぱり記憶が少し飛んでいるみたいね」


 そういうと、レンシアはこちらに歩み寄って…いや、浮いた状態でこちらに移動してきた。


「ええっと?」


「じっとしていて」


 ふよふよ浮きながら(というか漂いながら)接近してきた女神様は、そのまま俺の両手に手を当て、その整った顔を近づけ、俺の額に自らの額を軽く押し当てた。


「!!!!!!」


「落ち着いて」


 目の前で目を閉じてそういうレンシアだが、こちらは視界いっぱいに美人の顔が写っているので全く落ち着けない。


 マウストゥーマウスの触れあいではないとはいえ、こちとら彼女いない歴=の一般人で&#%$*@。


「落ち着いて。

 難しいようなら、まずは目を閉じて」


「へ、へい」


 混乱中の俺のおつむにもよく響く女神様の声に従い、俺は目を閉じる。

 

 落ち着け~。落ち着くんだ~。

 額とほっぺたに全神経集中させてる場合じゃないぞ~。

 落ち着け~。

 深呼吸だ。ス~ハ~。ス~ハ~。


 うん。いい匂いだ。

 ってまた雑念に支配されてんじゃねーか!!!


 そんなふうに混乱する俺が何とか落ち着こうとした時、突如頭の中に奇妙な光景が流れ込んできた。


 何というか、映像とかではなく追体験……というか、夢をくっきりはっきりしたようなものだろうか?


 すでに日が落ち切り暗くなった街中を、一人の男が歩いている。

 んで、直後その男は横断歩道を渡ろうとして……トラックがその男に突っ込んでいき、男が撥ね飛ばされて路上に転がった。


 って、今轢かれたの俺じゃないのか!?

 普段鏡を見る癖はないが、いくらなんでも自分を見間違えたりはしない。


 あんなナイスガイは他にいない!

 見間違えるはずなどない!

 

 ……良いじゃないか。少しくらい現実逃避しても。

 

 にしてもこれはどういうこった?


「思い出した?」


 いつの間にか俺から距離を取っていたレンシアが俺に対してそんな質問をした。

 ……もったいないなんて思ってないぞ。思ってないったらない。


「えっと、俺が、事故った?」


「端的に言うとそんな感じかしらね?」


 目の前でふわふわ浮きながら、女神レンシア様は頷く。

 しかし、こりゃあどういうこった?

 記憶が盛大にすっ飛んでいるせいで、今こんな場所にいることに納得が出来ない。


 いっそここが夢の中って言われた方がしっくりくるくらいだ。

 思いっきりほっぺたを引っ張ってみる。


 うん。痛い。

 目が覚めない。


「おれは死んだんですか?」


 現状確認のために俺はそう質問したが、レンシアはゆっくりかぶりを振った。


「いいえ。まだ死んでいないわ」


「まだ?」


「ええ。あなたはまだ完全に死んではいないの」


 レンシアの説明に、俺は首をかしげる。

 俺の理解が追い付いていないのを察したのか、レンシアは説明を続けた。


「簡単に言うと、クウヤ。あなたは自分が死ぬ直前に、肉体から魂が抜け出たの」


「……えーっと、つまり俺は死んでいないと?」


 理解が追い付かず、気が付けば俺はそんな質問をしていた。

 しかしそんな俺の質問に、レンシアは少し困ったような表情を浮かべた。


「君はまだ死んでいないだけで、もうすぐ限界を迎えるわ」


「もうすぐ限界を迎える?」


 俺の返答にレンシアはコクリと頷く。


「トラックに撥ねられて、あなたは致命傷を負ったの。

 本来なら即死でもおかしくなかったんだけど、あなたは即死だけは免れたみたいね。

 でも、それも時間の問題。

 あなたの体はもう魂を繋ぎ止めていられるだけの強度がなくなりつつあるの」


 ん?

 んんん?


 つまり、俺は危篤状態で幽体離脱しちまったってことか?

 目の前の女神を名乗る美人様が言ってることを鵜呑みにするならそういうことになる。


 ……一応答え合わせしてみるか。


「つまり、俺は死ぬ一歩手前で、今の俺は魂だけの存在ってこと、でいいんですか?」


「そういうことよ」


「ん? となると、俺はこの後どうなるんだ?」


 成仏されるのか?

 それとも亡霊になってこの世界を漂うのか?


 ……それとも、ここでこの女神様と二人キャッキャウフフな


「あなたはどうしたい?」


 妄想たくましく膨らませていた俺に、レンシア様はもろに水を差してきた。


「ここは君の世界とは時間の流れが違うの。

 君の体はまだ魂を繋ぎ止めていられるだけの強度が残っている状態で止まっている」


「……ってことは、生き返れるんで?」


 未だ死んだということも腹に収まっていない状況なんだが、とりあえずそこだけ確認してみることにする。

 が、そんな俺に対してレンシアは難しい表情を浮かべる。


「人の死には、とても複雑な因果関係が発生しているの。

 あなたが今日死んだのは、あなたの行動、親族や友人、民族、国家、さらには世界や先祖たちの因縁、いろいろなものが複雑に絡み合って起きてしまったこと。

 だから、それを書き換えるのは私にとっても大きな越権行為になってしまうのよ」


「え~~~っと、つまり?」


 やたらと難しい言葉を並べてくれたが、つまり無理があるということは分かった。 

 しかしレンシアは難しい表情を浮かべたままこちらを見ていた。


「ねえ、あなたはどうしたい?」


「どう、とは?」


「生きられるなら、生きたい?」


 考え込むような表情を浮かべながら、レンシアは俺にそう問いかけた。


「ええ。それは勿論」


 生きられるというなら、もちろん生きたい。

 俺は平凡な大学生だが、平凡なりに平凡な幸福ってやつを謳歌していた。


 趣味や話題を共有して、時を忘れて遊んだ友人もいる。

 これまで俺のことを育ててくれ、いつか恩を返すとひそかに誓っていた両親もいる。


 正直言って、今唐突にあの世逝きというのは……正直厳しい。


「なら、私と一つ取引をしない?」


「取引?」


「その取引に応じてくれれば、君を生き返らせてあげられるわ」


 その言葉に、多分俺は目を丸くしていたと思う。


「出来るんですか!?」


 驚く俺に、女神さまは頷いた。


「死の運命を変えるには、因果律そのものを書き換えないといけない。

 だから普通の人にはできないんだけど、それが出来る存在があるの」


「……それは?」


「あなたの世界だと英雄、あるいは偉人と言われる存在ね」


「……ああ」


 何となくだが、そこだけは理解できた。

 功績があるやつには救済措置があるってことか。


「"奇跡"を起こしてほしければ"対価"をよこせと?」


「……随分と卑屈な物言いだけど、まあそのとおりね」


「で、俺にその功績ってのはあるんで?」


 もしかして俺って気付かないうちに善行立てまくってた?

 そんな淡い希望を抱いての問いだったが、女神様はやんわりと首を振った。


 ……横向きに。


「ですよね~」


 話の流れから察するに功績とやらは生きているうちに立てなければならない代物だろう。

 となると死んでいる俺にはすでに功績を立てる方法がないということになる。


 ……詰んでないか?


「ん? でもさっき取引って」


 言われて、俺は先ほどレンシアが言ったことを思い出した。

 そして、それに対してレンシアはコクリと頷く。


「確かに君はすでに死んでいるから、生き返ることはできないわ。

 君のいた世界では、ね」


「……というと?」


「私の権限で、あなたを他の世界に送り込むことはできるの」


 と言われ、俺は目を瞬かせる。


「他の世界って、まさかの異世界転生?」


「小説みたいって思った?」


 うん。もろに思った。

 

「そ、そんなことが出来るんですか?」


「本来なら無理よ。

 でも、いくつかの条件が整えば行けるわ」


「その条件っていうのは?」


「実は、今滅びに向かっている世界があるの。

 滅びの因果を強く内包したその世界であれば、あなたを送り込むことが出来るの」


「どうせ死ぬ可能性が高いから問題ないと?」


「また随分と皮肉な言い方ね。間違ってはいないけど」


 ふーむ。

 少し考えを纏めてみよう。

 

 死ぬ因果を持った俺は普通の世界には送り込めない。

 しかし滅びの因果を強く内包した世界であれば送り込めなくもない、か。


 しかし、そうなると。


「どの道俺は死ぬってことじゃありませんか?」


 世界が滅ぶとしたらそこに生きている俺も死ぬ。

 だったら送り込まれるだけ無意味じゃないか?


 そんな意図を込めた俺のQにレンシア様がAしてくれた。


「普通に考えればそうね。

 だけど、その滅びの因果をあなたが解決すればどうなると思う?」


「ん?」


 レンシアにそう言われ、俺は無い頭を振り絞る。

 今俺が生き返れないのは功績が無いからだから、その滅びの因果とやらを俺が解決すれば功績が積み立てられる。


 蘇生の対価には何がどのくらいいるのかよく分からんが、世界を救えば俺一人を生き返らせるだけの奇跡を起こす対価には十分。


 んでもってその世界も救われて一石二鳥というわけか。


 しかし、だ。


「その世界って、どんな世界ですか?」


「あなたの基準でいうと、いわゆるファンタジーな世界ね。

 他種族がいて、魔物がいて、魔法があって、あなたによく似た人族もいる。

 そんな世界よ」


 ふむ。

 異世界ものとしては実に王道。

 そして魔法というものがあるのなら、当然それを使える連中のスペックは凄まじいことだろう。


 つまり。


「前提に無理がありすぎませんか? 俺に世界を救えと?」


 こちとらノーマルな大学生。

 ガリバーの大冒険よろしく小人たちの国を救えってんなら分からなくもないが、魔法でドンパチやっているような世界を救えと言われて救えるわけもない。


 しかし、そんな俺の疑問にたいし、レンシアは至極真面目な表情を浮かべながら口を開いた。


「無理なのは百も承知よ。

 でもあなたはこのままだと間違いなく死ぬわ」


「……」


 やや重くなった空気を感じ、俺はほんの少しだけ俯き、考える。

 普通に考えれば、俺はもうお陀仏するしかない瀬戸際にいる。


 そして


「私にできるのは、そんなあなたにわずかな可能性を与えてあげることだけ。

 だから、後はあなたの決断にゆだねるわ」


 そう。

 目の前の神々しい女神様は、あの世行の俺に蜘蛛の糸を垂らしてくれたのだ。


 腕を組む。

 確かに可能性としては無理がありすぎるが、他に選択肢がないのであればやるしかないのも確かだ。

 

 そうである以上選択の余地はなさそうだ。

 

「ちなみに、俺がその世界の滅びを収めたほうがあなたにとってもいいということでいいんですか?」


「そうね。あの世界に住む人々が滅びるのは私にとっても忍びないから……」


 言いにくそうにそういうレンシアに、俺は改めて向き直った。


「話は分かりました。引き受けましょう」


「そう。なら、交渉成立かしら?」


 俺の返事に、レンシアは様子を伺うようにこちらを向いた。

 

「ただしなんかチート能力ください」

 

 俺のその一言にこけそうになっていた。

 まあフロート状態だからこけようもないんだが。


「あ、あなた。なかなかいい根性してるわね」


「奇跡を起こすに足りる対価を揃えるんですから、力がなきゃ拙いでしょ?」

 

 無能力で異世界転生してもろくな未来にたどり着ける気がしない。

 ちょっとでもアドバンテージを欲しがるのは当然ではないだろうか?


 そんな俺の考えを知ってか知らずか、女神レンシア様はフッと笑みを浮かべた。


「まあいいわ。世界を救いに行くあなたに私の眷族を貸し与えるつもりだったから」


「眷族?」


「ええ。『いでよファーレンベルク!』」


 レンシアが突然そう叫んだと思うと、目の前に神々しい輝きを放つ巨大な鳥が現れた。体長3メートル、いや、4メートルはありそうだ。

 火の鳥、フェニックス、鳳凰、朱雀、目の前に現れた巨鳥に対して俺はそんな伝説上の神鳥達を連想した。


「私の霊獣ファーレンベルクよ。

 この霊獣があなたを守ってくれるでしょう」


「……そんなたいそうなものを借りてもいいんですか?」


 予想外のプレゼントに、俺は目を丸くした。

 この霊獣ファーレンベルクとやらが俺を守ってくれる?

 

 女神様の眷族だというのなら、その実力も折り紙つきだろう。

 俺自身が半端なチートを貰うよりも間違いなく好条件だ。


 そんなふうに(心の中で)目を輝かせる俺に、女神様は頷いた。


「世界を救うためには力も必要よ。ファーレンベルクの持つ力をどう使うかは、あなたがしっかり見極めて」


 強い目でこちらを見るレンシアに、俺は頷いた。


「他に何か聞いておきたいことは?」


「あ、なら二つだけ」


「いいわ。なに?」


「世界を救うってのは、具体的に何をすれば?」


 核心を突いた質問に、しかしレンシア様は困ったような表情を浮かべた。


「今、そのことを話すことはできないわ」


「……そりゃまたなんでです?」


「それも言えない。いえ、言わない方がいいことなの」


 煮え切らない女神様の返答に、俺は両肩を竦めた。

 

「分かりました。なら聞きません」


「……物わかりがいいのね」


 やや意外そうな女神様に、俺はニッと笑って最大限にカッコつける。


「世の中知らないこともある。

 だから俺に教えない。でしょ?」


「ふふふ。そう言ってくれると助かるわ。それで、もう一つは?」


「ああ、えっと」


 そう言って、俺はこの世界に来た時から気になっていたことを質問した。


「俺の名前は九条隼也クジョウトシヤなんですが、なんでクウヤって呼ぶんですか?」


「ああ、元々いた世界であなたがよくそう呼ばれていたからそう呼んだの。

 何か拙かったかしら?」


「……いえ、納得しました」


 クウヤというのは俺の名前から三文字を取り出したあだ名だ。

 学校内ではこの呼び方が定着しており、今ではそう呼ばれることが多いくらいだから違和感はなかったが、女神様にまでそんなふうにフレンドリーに呼ばれてこっちは内心あせりまくりだった。


「質問は最後? もう準備はいい?」


 俺の質問にそう答え、レンシアは最後の確認をしてきた。


 当然俺の答えはYES。

 それ以外の選択肢はない。

 

「ええ。いつでも」


「ならファーレンベルクに乗って。

 あとはこの子がその世界まで飛んでくれるから」


「……乗れって、熱くないんですか?」


 見るからに神々しい神鳥に乗れって言われても委縮するしかないんだが……。

 なんか燃えているようにも見えるし。

 

「心配ないわ。この子が敵意を持たなければ熱くないから」


「……本当ですか?」


 半信半疑のままファーレンベルクに触れてみると、熱さではなく温もりと呼ぶべき温かさを感じた。


「さあ、乗って」


「は、はい」


 促されるままにファーレンベルクの背中にまたがる。

 そんな俺たちをみて、レンシアはファーレンベルクの首を撫で、小さな声で何かをつぶやいた。


 直後、ファーレンベルクの体から蛍のような淡い光の玉が出てきた。かと思うとその光が俺の方に向かってきて、体の中に入ってきた。


「……今のは?」


「ファーレンベルクと、あなたの間にパスを繋いだの。

 これであなたはこの子と一緒に世界に入れるわ」


「……そうですか」


 はっきり言って何をしたのかよく分からないが、何から何までお世話になったのは確かだ。


「何から何までありがとうございます」


「いいえ。頑張ってね。あなたが向かう世界の人々を救ってあげて」


 そういうと、レンシアはファーレンベルクを向いて首を撫でながら口を開いた。


「お別れね。行ってらっしゃい。彼の言うことをよく聞くのよ」


 レンシアの言葉に、神秘の巨鳥は喉を鳴らした。

 

「あ……」


 考えてみればレンシアはこの世界で眷族のファーレンベルクと長い時間を共に過ごしていたのではないのだろうか。


 おそらく、大切なパートナーだったんだと思う。

 見ず知らずの俺にそんな大切なパートナーを預けていいのか?

 そう聞こうとした時、すでにファーレンベルクは飛び立っていた。


「あなたの存在がこれから行く世界の命運を変えてくれることを。

 これから行く世界があなたの命運を変えてくれることを願っているわ」


 俺の背にそんな言葉が聞こえ、俺は振り返った。

 女神様は、俺に向かって手を振っていた。

 その目が細められており、表情に哀愁の色が浮かんでいたのは俺の気のせいではないだろう。

 

「……全力を尽くそう」


 訳が分からないままに始まったことだが、やり遂げようと俺は静かに誓い、滅びの運命を持つ世界へと旅立った。

 

 これから向かう世界がどんな場所かは知らないし、何が起こるのかもわからない。


 だが、目的だけははっきりしているんだ。

 今は、それだけ覚えておこう。

 そう誓った俺の視界は、やがて徐々に白く染まっていった。

お付き合いいただきありがとうございます!

つたたない作品ですが、これからもよろしくお願いしますね!

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