孤独
この話は『クロスワールド』の番外編です。主人公が幼少期(前世を思い出す前)のことです。
「おかーしゃまご本よんで!!」
椅子に腰掛け、お茶を飲む美羽に声をかけた。
「ふふっまた?ライラは本当にこの物語が好きね。」
ライラは美羽に本を渡し、ひざに登る。
「むかしむかしあるところに......」
ライラは目を輝かせながら美羽の声に耳を傾ける。
バンッ!!
「美羽!!祈りの時間です。さあ、神殿に参りましょう。」
ライラが物語にうっとりと聞き入っているとき、いきなり神官のユリウスが入ってきた。
「あら、そんな時間?」
美羽は本を閉じ、ライラを下ろした。
「おかーしゃまご本・・・。」
そんな美羽を引き留めるようにドレスをつかんだ。
「ライラ様、お母様はお勤めの時間なのです。あなたは美羽の娘ですから我慢できますよね?」
やんわりとしかし断ることを許さないと目が語っている。
「......あぃ。」
小さく返事をし、ライラはうつむき手を離した。
「続きはマーサにお願いしてください。」
返事を聞いたユリウスは満足そうに颯爽と美羽を連れて部屋を出ていった。
「まーしゃぁ!」
ライラは涙を滲ませながらマーサを呼んだ。
「あぁ、ライラ様よく我慢なさいました。このマーサが続きを読んでさしあげましょうね。」
そう言ってマーサはライラを抱きしめる。
「ライラのおやくしょくのほーがしゃきだったのに・・・。」
ついには堪えきれずに大粒の涙を溢してしまった
マーサはこの少女哀れでしょうがなかった。
いつもこのように我慢を強いられているのだ。
まだ甘えたい盛りであるのにまわりが許さない。
賢い子、美羽様の娘なのだから、お母様に迷惑をかけないようにと言って幼い少女から母親を取り上げるのだ。
そのためマーサは美羽によくライラをかまってやってほしいと懇願するのだが周りに声を掛けられればそちらを優先してしまいライラのことは後回しにされてしまう。
泣くと迷惑をかけると幼いながらに理解しているライラはすでにマーサの前以外では泣けなくなってしまっていた。
泣かないゆえに周りは大丈夫だと思い楽観視するといったように悪循環を繰り返している。
「まーしゃがライラのおかーしゃまだったらいいのに・・・。」
あぁ、どうかこの寂しがりな少女を愛してくれる方が現れますように...。
ぬいぐるみを抱きしめ肩を揺らす幼い少女を見つめそう願わずにはいられない。
主人公の乳母視点でした。
こんなんが人を変え毎日繰り返されたら諦めるよね。
この世界について思いだし、納得するとともに両親への期待を完全に諦めました。
【登場人物】
マーサ
主人公の乳母。
幼い娘を亡くしており、主人公を実の娘のように可愛がっている。
ユリウス
腹黒な神官。
美しい容姿をしており、自分の魅力を理解した上で行動している。
ヒロインには作り笑いを見破られたことをきっかけに惚れてしまう。