てぶくろ
こんなんばっかりかよ? こんなんばっかりです! たぶん!
指先から寒さが染み込むような冬の朝。
「手、つなご!」
未苗に屈託のない笑顔で見つめられて、照葉は動揺してしまう。
「う、うん……いいよ」
付き合う前から、手を繋ぐ事は多かった。それはとても普通なことで、当たり前の行為だった。
けれど、意識して手を繋ごうと思うと、どうしても上手くいかない。
結局、未苗の手を握ろうとして、照葉の手は空を掴んでしまう。
「照葉ちゃん、どうしたの?」
「ごめんなさい。私、どうやって手を握ったらいいのか、わからなくなっちゃって」
わたし、なんて情けないんだろう。照葉は内気な自分が嫌になって、雪に覆われた地面を見下ろした。
知っている場所なのに、雪に覆われているだけで、踏み出すのがこわい。
「んー、きっと考えすぎなんだと思うよ」
「でも、考えないと、怖くて……なにか、間違えてしまいそうで」
「ねえ照葉ちゃん、キスの仕方、知ってる?」
「知ってるけど、そんなの、わからないわ。したこと、ないし……」
照葉の心臓がはじけそうになって、顔を真っ赤に染める。
二人は付き合い始めて日が浅い。キスなんてした事がないし、照葉は未苗と一緒に出掛けるだけでも緊張してしまう。友達よりも遠ざかったように見えるほど。
けれど、二人の心の距離は付き合う前よりずっと近い。
「手を繋ぐのも、キスするのも、そんなに難しいことじゃないよ。でも、考えてもわからないかも。だって、わたし手の繋ぎ方なんて習ったことないもん」
だからね、と未苗は続ける。
「してみればわかるし、してみないとわからないよ! ほら!」
未苗は照葉の手をしっかりと握り、笑いかける。
照葉はガラスに触れるような慎重さで、分厚い手袋越しに未苗の手を握り返した。
「ね? もう握れるでしょ?」
「うん……臆病で、ごめんなさい」
「臆病でもいいよ。そういうところも含めて、照葉ちゃんのこと、全部好きだから!」
ぱらぱらと、小さな花びらのような雪が舞い散る。
「私も、その、未苗のこと……全部好きだから」
照葉は赤くなった顔をマフラーで半分隠したが、ただでさえ熱くなっていた顔がもっと熱くなってしまった。
学校には、まだ着かない。