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婚約破棄された公爵令嬢は、冷酷王子に溺愛されながら全てを奪い返す

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/03/24

「――リリアーヌ・フォン・アルシュタイン。お前との婚約を、ここに破棄する!」

煌びやかなシャンデリアの下、王城の大広間に響き渡る声。

その中心に立つのは、この国の第一王子――レオンハルト。

そして、その隣に寄り添うのは、涙ぐみながら彼の腕にしがみつく一人の少女。

「わ、わたくし……怖かったんです……ずっと、リリアーヌ様にいじめられて……」

か細い声でそう言う彼女は、男爵令嬢――ミレイユ。

……ああ、やっぱりこの展開。

私はゆっくりと目を閉じ、ため息をついた。

(とうとう来たのね、この日が)

周囲はざわめき、貴族たちは興味津々に私を見ている。

「何か言い訳はあるか? 証人も証拠も揃っている。お前がミレイユを虐げていたことは明白だ」

レオンハルトは冷たい目で私を見下ろした。

その瞳に、かつての優しさは一切ない。

「……言い訳、ですか」

私は静かに微笑んだ。

「必要ございませんわ」

その一言に、場の空気が凍りつく。

ミレイユが一瞬、顔を強張らせたのを私は見逃さなかった。

「ほう? 随分と潔いではないか」

「ええ。殿下がそうお決めになったのなら、従うまでです」

私はゆっくりとスカートの裾をつまみ、優雅に一礼する。

「これまでの婚約関係、ここに解消させていただきます」

ざわめきが一層大きくなる。

普通なら泣き叫ぶ場面。

だが私は、ただ静かに――受け入れた。

「……あっさりしているな。もっと取り乱すかと思ったが」

「無意味なことはいたしませんもの」

私は顔を上げ、真っ直ぐ彼を見つめた。

「ですが、一つだけ――最後に申し上げます」

「何だ」

「後悔なさらぬよう」

その瞬間、レオンハルトの眉がぴくりと動いた。

だがすぐに、彼は鼻で笑う。

「後悔だと? あり得んな」

「そうですか」

私はそれ以上何も言わなかった。

――なぜなら。

(もう、終わっているのだから)

その日の夜。

私はアルシュタイン公爵邸へ戻ると、父の執務室へ向かった。

「失礼いたします」

「……来たか、リリアーヌ」

父は机に向かったまま、低い声で言った。

「婚約破棄の件、聞いている」

「はい」

「弁明は?」

「必要ありません」

父はゆっくりと振り返った。

その目は、鋭く――そしてどこか試すような色を帯びている。

「……それでいいのか?」

「はい。むしろ好都合ですわ」

私は微笑む。

「ようやく、自由になれましたから」

父の目が細められる。

「やはり気づいていたか」

「ええ。殿下は、もうこちらを切り捨てるつもりだったのでしょう?」

アルシュタイン公爵家は、この国最大の財力と軍事力を持つ家。

だがそれゆえに、王家にとっては脅威でもある。

「最近の増税政策、そして我が家への圧力……すべて繋がっております」

「……その通りだ」

父は低く頷いた。

「王家は、我々を潰すつもりだ」

「でしょうね」

私は静かに紅茶を口にする。

「ですから――」

カップを置き、ゆっくりと笑った。

「潰される前に、潰します」

父の口元が、わずかに歪む。

「……頼もしいな」

「お父様」

私は真剣な目で言った。

「国外との接触を許可してください」

「……隣国か?」

「はい」

この国の隣には、軍事力・経済力ともに圧倒的な大国がある。

そして――

「その国の第二王子が、現在こちらに滞在しているはずです」

父は少しだけ驚いた顔をした。

「そこまで調べているとはな」

「当然ですわ」

私は立ち上がる。

「――すべてを、奪い返すために」

数日後。

私はある夜会に参加していた。

そこに現れたのは――

「……あなたが、アルシュタイン公爵令嬢か」

低く落ち着いた声。

振り返ると、そこに立っていたのは――

黒髪に鋭い金の瞳を持つ青年。

ただ立っているだけで、空気が張り詰める。

(……この人が)

隣国の第二王子。

――アレクシス・ヴァルディア。

「ええ。お初にお目にかかります、殿下」

私は優雅に一礼する。

彼はじっと私を見つめた。

まるで値踏みするように。

「婚約破棄されたそうだな」

「ええ。お恥ずかしい限りですわ」

「……恥じる様子には見えんが」

「必要ございませんもの」

私は微笑む。

その瞬間――

彼の口元が、わずかに上がった。

「面白い女だ」

「光栄ですわ」

「それで?」

彼は一歩近づく。

「俺に何を望む?」

――核心を突いてきた。

(さすがね)

私は一歩も引かず、答える。

「――同盟を」

空気が一瞬で変わる。

「条件は?」

「我が家の財力と情報網を提供いたします」

「対価は?」

「――王家の崩壊」

周囲の音が、消えたように感じた。

彼はしばらく黙り込み――

そして。

「いいだろう」

あっさりと頷いた。

「ただし条件がある」

「何でしょう?」

彼は私の顎に指をかけ、顔を上げさせた。

「お前自身を寄越せ」

……なるほど。

私は一瞬だけ目を細める。

「政略結婚、ですか?」

「それもあるが――」

彼は低く笑った。

「気に入った」

その言葉に、心臓がわずかに跳ねる。

(……危険な男ね)

だが。

「承知いたしました」

私は迷わず答えた。

「この身、すべて差し出しましょう」

――復讐のために。

彼は満足げに笑った。

「いい目だ」

その瞬間。

私は確信した。

(勝った)

まだ何も始まっていない。

けれど――

すべては、こちらの掌の上にある。

その頃、王城では――

「アルシュタイン家の動きが怪しい?」

レオンハルトは眉をひそめた。

「はい。それに……隣国の王子とも接触しているとの噂が」

「……馬鹿な」

彼は苛立たしげに舌打ちする。

「ただの女に何ができる」

――その油断が、命取りになるとも知らずに。




ーーーー



「報告いたします! アルシュタイン家の資産が……市場から完全に消失しました!」

「なに……?」

王城の執務室。

レオンハルトはその報告に、顔色を変えた。

「消失だと? どういう意味だ!」

「それが……すべて国外へと移されており、我が国の商会は一切関与できない状態に……!」

「馬鹿な……そんな短期間で……」

あり得ない。

だが、現実に起きている。

「さらに……我が国の主要取引先が、次々と契約を打ち切っております」

「理由は!?」

「……隣国です」

その一言で、すべてが繋がった。

「……アルシュタイン……!」

同時刻。

隣国ヴァルディア王国。

その王城のバルコニーで、私は静かに街を見下ろしていた。

「順調だな」

背後から低い声がする。

「ええ、おかげさまで」

振り返ると、アレクシスが立っていた。

彼は私の隣に並び、同じ景色を見る。

「お前の情報網は想像以上だ。王家の資金の流れ、弱点、すべて把握していたとはな」

「長年の“婚約者”でしたもの」

私は淡々と答える。

「内部事情など、嫌でも見えてきますわ」

彼はくくっと喉を鳴らして笑った。

「恐ろしい女だ」

「褒め言葉として受け取っておきます」

その時、側近が駆け寄ってくる。

「殿下、例の件ですが……王国側で暴動が発生しております」

「ほう」

アレクシスが目を細める。

「予定通りか?」

「はい。物資不足と増税に対する民衆の不満が爆発したようです」

「……いい流れだ」

私は静かに呟いた。

王家は、アルシュタイン家を潰すために無理な増税と経済操作を行った。

だがその結果、苦しむのは民だ。

そして――

(その不満を、少しだけ“後押し”しただけ)

「リリアーヌ」

「はい?」

「お前は本当に容赦がないな」

「当然ですわ」

私は彼を見上げ、微笑んだ。

「すべてを奪われかけたのですから」

彼は一瞬だけ黙り――

そして、私の頬に触れた。

「……いい顔だ」

その指先は、思ったよりも優しかった。

数週間後。

王城はすでに混乱の渦中にあった。

「陛下! 南部の貴族が離反しました!」

「西の軍も動きません!」

「隣国が国境付近に軍を――!」

「くっ……!」

玉座の間で、王は顔を歪めた。

その横で、レオンハルトも歯を食いしばる。

「……アルシュタインの差し金か」

「間違いありません」

「だが、なぜそこまで……!」

その時――

重々しい扉が開いた。

「――ごきげんよう、皆様」

静かな声が響く。

全員が振り返った。

そこに立っていたのは――

「リリアーヌ……!?」

かつて“追放した”はずの女。

しかしその姿は、以前とはまるで違っていた。

隣に立つのは、隣国の王子――アレクシス。

そして背後には、整然と並ぶ騎士たち。

「な、なぜここに……!」

ミレイユが震えながら叫ぶ。

私はゆっくりと歩み寄った。

「ご挨拶に参りましたの」

優雅に一礼する。

「――敗者の皆様へ」

その一言で、空気が凍りついた。

「き、貴様……!」

レオンハルトが剣に手をかける。

だが次の瞬間、アレクシスの側近が動き、彼を制した。

「無駄だ」

アレクシスが冷たく言い放つ。

「この城はすでに包囲されている」

「……!」

絶望が、場を支配する。

私はゆっくりとレオンハルトの前に立った。

「覚えていらっしゃいますか?」

「何を……」

「“後悔なさらぬよう”と申し上げたこと」

彼の顔が、みるみる青ざめていく。

「まさか……最初から……」

「ええ」

私は微笑んだ。

「すべて、計画通りですわ」

ミレイユが崩れ落ちる。

「そ、そんな……私、悪くないのに……!」

「……悪くない?」

私は彼女を見下ろした。

「虚偽の証言で他人を貶めた時点で、十分罪ですわ」

「ひっ……!」

「安心なさい」

私は冷たく言った。

「相応の裁きは、きちんと用意しておりますから」

レオンハルトは震える声で言った。

「……助けてくれ……リリアーヌ……」

私は一瞬だけ、目を細める。

かつて愛した人。

だが――

「お断りいたします」

迷いはなかった。

「あなたは、捨てたのですから」

その言葉で、彼の心は完全に折れた。

それから間もなく。

王家は崩壊した。

王は退位、レオンハルトは幽閉。

ミレイユはすべての罪を背負わされ、社交界から永久追放。

――そして。

私は。

「……静かね」

新たな王宮の一室で、窓の外を眺めていた。

「物足りないか?」

後ろから腕が回される。

アレクシスだ。

「少しだけ」

「なら、退屈させないようにしてやる」

彼は私の耳元で囁いた。

「これからは、“俺の隣”でな」

私は振り返る。

「……それは、命令ですか?」

「いや」

彼は珍しく柔らかく笑った。

「願望だ」

その言葉に、胸がわずかに熱くなる。

(……不思議ね)

復讐のために始めた関係。

それなのに。

「……では」

私はそっと彼の手に触れた。

「少しくらいは、お付き合いして差し上げます」

彼の目が、満足そうに細められる。

「一生でいい」

「……欲張りですわね」

だが。

その手を振り払うことは、もうなかった。

――すべてを失ったはずのあの日から。

私は、すべてを手に入れた。

愛も、地位も、そして――

復讐も。

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