高く蒼く。紅く広い。
みなさん、どうもこんにちは。
初めての方は、初めまして。
私、笑う私 というものです。
他にも完結させずに放置してあるのがあるだろう!!っと厳しいコメントもございますでしょうが、とりあえず新作です。
さて、このお話には少々残酷な表現が含まれております。他にも、大変私的抽象的表現も多分に含まれておりますので、苦手な方はお引き返しくださいますようご注意ください。
大丈夫!!っと仰られる方のみ御観覧ください。
では、どうぞ。
高く蒼く。紅く広い。
始まりです。
遠いようで、近い、はるか未来。
ここはとある地球。
無限に続くかに思える草原の中、男が一人空を見上げていた。
「ぉ―ぃ」
少し遠くの方から声がする。
声は高めで、しかし女性の発するそれとは非なる質を持つ、少年の幼さが含まれた声だった。
声を聞いた男は、ふぅ、と息を一つ吹き、振り返る。
「おとーさんっ」
そして走り寄り飛びついてきた我が子を、両手を広げて抱きとめた。
「やぁラキシス。一人で来たのかい?お母さんにはちゃんと伝えてから来たんだろうね?」
「うん!」
少年、ラキシスは父の腕の中で満面の笑みを浮かべて答える。
「そうか。よしこい!」
ただ広い草原で、父と子の二人は大地に腰をおろす。
ラキシスは父の膝の上で嬉しそうに今日の事を話していた。
それに男は、「ああ」とか「そうだね」と相槌を返していく。
しかし、顔は空を見上げるだけ。
「ちゃんと聞いてる?」
「ああ、ちゃんと聞いてるよ。」
だからラキシスも時折こうして父に確かめるように尋ねる。
そんなやり取りがしばらく続いて、ラキシスも話題が尽きたのか、いつの間にか父と一緒に空を見上げていた。
「お父さん。」
「なんだい?」
「お空、高いね。」
「ああ、高いな。高くて蒼い。」
こんな会話に意味は無い。ただ感じ、ただ発しているだけ。
しかし、それは幸せと呼ぶには充分だった。
「どうして青いのかなぁ。」
「ラキシス。それはな、地球が生きているからなんだ。」
「生きて?」
ラキシスが顔だけを父に向けて、きょとんと小首をかしげる。
そして男は片手を空に突き上げて、太陽に掌を透かす。
「ああ。空が青いのは地球が生きているから。生きているから大気があって、その大気が太陽光を透るから空は青いんだ。太陽光も直接浴びると危険なんだ。でも、地球が磁場を空に張っているから大丈夫なんだよ。解るかい?」
少し饒舌に語ってしまった男は息子に尋ねかける。
当のラキシスは、うーん、と考えるそぶりを見せたが、結局「解んない。」と父を見上げて答えた。
その様子に男は、クックッと喉を鳴らして息子の手を取り、大地に触れさせる。
「どうだい?」
「・・・あったかい。」
「それじゃあこれは?」
ラキシスの腰まで伸びた柔らかい金髪を指で梳きながら、今度は自身の頬に手を当てさせた。
「うん!あったかい!」
ふと不思議を発見したかのような表情で、ラキシスは即答する。
「そう、暖かい。暖かいというのは生きている証拠なんだ。私達ヒトも、草も、木も、地球だって暖かい。」
「アリさんも?」
「ああ、アリさんもだ。みんな生きているんだからね。」
「そっか、生きているから蒼いし、生きているから暖かいのかぁ。」
男は地平線に視線を向け、ラキシスもそれに倣う。
「解るのではなく、感じる。これは大切なことだ。無理に知ろうと勘ぐれば必ずしっぺ返しが来る。」
「?」
髪を梳く指に少しだけ力がこもる。
「思えば私たち人類の歴史は、追及の基に有った。ヒトが飛べぬから飛ぶための追及をし、ヒトが住めぬから住むために山を削る。かと思えば、地球の砂漠化や種の死滅に対策を持てという。」
「お父・・さん?」
男の歯がぎりりと鳴り、指はラキシスの髪から離れ、地を草ごと抉るように握り絞る。
もはや視線はどこも見ていない。
「私たちも生き物なのだ。知る前に、理解する前に、それを何故感じないんだ?これではあまりにも・・・余りにも身勝手じゃないか!!彼らは私たちの道具ではない!!こんな、、こんな!!!」
「お父さん!!」
「っ!?」
ゴゥ!と一陣の風が吹き、ラキシスの髪を靡かせる。その正面には片頬を赤くした父がいた。
「ラキ・・シス・・。」
我が子により正気にもどった男が初めに見たものは、美しく靡く太陽の様な金色と、それを持つ我が子の涙だった。
「痛い。お父さん・・。いたいよぉ・・。」
見れば男の手は、爪は剥がれ、石や爪がめり込んで痛々しく血に塗れていた。
この子は本当に優しい子だ。私の傷を心配してくれているのか。
「・・・すまない。熱くなりすぎて怖がらせてしまった。だから、もう泣かないでおくれ・・・。お父さん、手、もう痛くないよ・・・。」
男は声無く涙を流すラキシスをギュッと抱く。
しかし帰ってくる言葉は「違う。違う。」というばかりで、男が漸く「何が違うんだい?」と尋ねる。
すると、男は頭に何か触れた気がした。
それは気のせいではなく、一定のリズムで頭の形をなぞる様に撫でる、息子の手だった。
「心。・・・お父さんの・・心。痛い・・。傷ついちゃ、やだよぉ・・。」
「ラキシス・・・。」
そうだ。ラキシスは男の手を見て泣いていたのではなく、男の、父の心の痛みを感じて涙を流していたのだ。
父の心には“悲しみ”があった。“憤り”があった。
そして何より・・・・・。
“悔しさ”があった・・・・。
痛い。
痛い。
心が痛い。
男は息子を優しく抱きなおし、後にも先にもこれが最後。
我が子の前で初めて泣いた。
つられてとうとうラキシスも泣いた。
声無く泣かず、大声をあげてわんわん泣いた。
父と子二人でわんわん泣いた。
夕陽も沈むころ。
泣き腫らして瞳を真っ赤にした父と子は、再び座って空を見上げる。
「お父さん。」
「なんだい?」
「お空、紅いね。」
「ああ、紅いな。紅くて広い。」
砂色の地球に、狭く張りぼての世界。
地平線は砂と緑の境界線。
空は今日一番に紅く染まっていた。
どうも、ご一読並びに、あとがきにまでお目を通して頂き誠にありがとうございます。
さて、このお話についてですが、当初は続きものとして連載するつもりで執筆しており、後々の構想もおぼろげですが思い浮かべていたのですが、何分私は長編にすると中々まとめる事が出来ず、更新まで随分と手間取ってしまうものでして、しいては御観覧いただいた皆様に不快なお気持ちを煩わせてしまいがちになってしまいます。
なので、今回は短編として一度投稿させて頂き、後々の皆さまのご様子を伺わせていただきまして、良きものならば、改めて連載として投稿させて頂きます。
以上長々と申し訳ございません。
ご感想、お待ちしております。
笑う私 でした。