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炭水化物の錬金術師 〜あれ、私もしかしてまたパン作っちゃいました!?〜  作者: しろしまそら
第1巻 パンが好きすぎる見習い錬金術師、さすがにパンが好きすぎる
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第4話 レッツメイクモサモサクッキー ①

 こんにちは。私はエミリア・ベーカー。冒険盛りの十四歳。見習い錬金術師です。


「一人前の錬金術師を目指すなら、今後は採取も手伝ってもらう」


 今日は初めての素材採取のため師匠のジーン先生とともに『守りの草原』へ向かいます。


「そっざい〜、さっいしゅ〜」


 背の低い草木を揺らす温かな春風が心地良く、ちょっとしたピクニック気分です。


「ジーン先生、ジーン先生、素材になりそうな物がいっぱいですよ!」

「危険な魔物も生息している。気を抜くなよ」

「ご安心を。武器は忘れましたが、抜かりなくサンドイッチは持ってきています」

「抜かりしかないだろ」


 採取では、街の外の森や湖や鉱山などに出かけ、主に植物や水や鉱石を集めることなどをします。


「あ、ジーン先生、イッカクウサギが居ますよ!」


 時には魔物とも戦います。戦闘後に魔物が落とす角や羽が良い調合素材となるのです。この近辺の魔物ならレベルが低く、丸腰で簡単に倒せる魔物も多いとか。


 では、さっそく──って、あら?


「撤退」


 ジーン先生は私の首根っこを掴み逃げ出しました。


 魔物には目もくれず、そこら一帯の雑草を片っ端から採取開始します。


「なぜ!?」

「戦闘は錬金術師の本分じゃない」


 錬金術師は基本は非戦闘員。強い魔物のいるエリアに素材採取に出かける際には、魔物との戦いに慣れた冒険者に護衛をお願いするそうです。平素より大変お世話になっております、冒険者ギルド様。


「でも、ジーン先生……」


 ですが、あれくらいの弱い魔物なら、私一人でも倒せそうなのに。


「ハッ! もしかして……」


 気が付いてしまいます。もしかして、ジーン先生って実はすごく弱いのかしら。腰に身につけているその剣はお飾りなのでしょうか。


「あ……」


 なんて思っていたら、突然襲いかかってきた珍しい魔物、リトルドラゴン。ジーン先生はそれをノールックで斬り倒しました。


「え」


 ジーン先生が昨日食べたドラゴンベーグルの効果はもうとっくに切れているというのに、ちょっとすごいですよね。


「……冒険者の方が適性があるのでは?」

「冒険者パーティは人間関係とか色々と面倒なんだ。錬金術師の方が好き放題やれて良い」


 なるほど。なるほど?


「今日は植物素材を徹底的に採取する」


 本日の業務内容は、このエリアでどんな植物素材が取れるのか、くまなく調べ上げ記録することだそうです。同じ素材でも凡そ百個に一個の割合で特殊な効果の付いた素材があるのだとか。地道で地味な作業ですが、大切なことです。


 なるほど。これに付き合う冒険者仲間はたしかに居ないでしょうね。


 精一杯務めさせていただきます。


「…………」

「…………」


「…………」

「…………」


「…………つまんない植生ですね」

「おいこら」


 思わず本音がこぼれました。


 飽きます。あまりにも地味で地道すぎる作業です。そのうえこの辺りときたら、雑草ばかりでエン麦が一本も生えていないのだもの。


「ジーン先生、何もここまでやり込まなくても」

「まあ俺の趣味ではある」

「いや趣味なんですか」


 ジーン先生も仕事に趣味を持ち出すタイプでした。


「俺は素材採取とエレメントの収集が何よりも好きなんだ」

「よりによって錬金術で一番地味なところを」

「錬金術の三原則は理解、分解、そして収集だと思っている」

「再構築しましょうよ」


 しょっちゅう素材採取に出かけるので察しはついていましたが、この人、思っていた以上に拗れた素材マニアです。


「だが、弟子のお前に特殊素材というものを教えておきたかった。ほら、この変異植物、葉が五枚あるだろ?」

「はい」

「素材にすると体力増強効果が強いんだが……、それ以前に感動するよな」

「真顔で言われてもピンときません」

「そうか」


 すみません。よく分かりません。


「俺は世界を構成する全ての要素について知りたくて知りたくて仕方がない。世界中の素材とエレメントを全て集めるのが錬金術師としての俺の野望だ。正直集められればそれで良くて特にこれを調合したいとかはない」

「なるほど、そうなんですね」


 よく分からないけど、ジーン先生の風変わりな趣味についてはよく分かりました。


「冒険者の方が適性があるのでは?」

「集団行動とか組織とか苦手なんだ」

「堂々と社会から逸脱しないでください」


 察しはついていましたが、この人、思っていた以上に拗れたコミュ障です。


「ジーン先生って、わりと人間に興味なさそうなところありますよね」

「そんなことはない。人間もそれなりに好きだ」

「その解答の時点でもう駄目なんですよ」


 それが分からないから何かと人間関係の苦労も多いのでしょう。


「接客とか私に任せがちですもんね」

「俺がやると愛想がないと怒られることが多いからな。助かってる」

「普通に大人として駄目じゃないですか」

「反論の余地がない」

「あってくださいよ」


 駄目な大人だと思いました。


 どうしてこう、私の周りには少し変わった方が多いのでしょうかね。

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