こういうの、お好きなんでしょう?
「うーん、どうしよっかな」
我が国の第一王子が十四歳なるにあたり婚約者を決めるコンペが行われることになった。
そしてなんと、僕も参加するようお達しが。
あ、ちなみに僕、ディアナ・ルナムーンは乙女だよ。紛らわしくてごめんね。
弟が持病持ちだったので、つい最近までは次期領主となれるよう男として教育されてきたんだ。
だから男性を喜ばせる女性ムーブってのが全然わからない。
しかも我が家は、五大貴族の一角とはいえ、魔物が多い辺境領の守護を任されている無骨な田舎者。
現在、『王子を喜ばせるためのプレゼントを用意してこい』ってお題の最中なんだけど、なにが正解かさっぱりだ。
「まあ、適当でいっか。ウチは所詮、人数合わせとしての参加だろうし」
最近はすっかり元気になった弟。
王子と歳の近い彼が喜びそうなものを、何か適当に見繕えばいいだろう。どうせ落選だろうし、税金を無駄にしないように自領で安くとれる物でいいや。
◇
〜第一王子、バンブー視点〜
自分でいうのもなんだが、私は賢くてしっかり者らしい。ゆえに両親からは、婚約者はお前の好きなやり方で選んでいいと言われている。
それでコンペを開催させてもらったんだけど……
「うーん、ちがうんだよなぁ」
未来の婚約者候補達から贈られた絢爛豪華なプレゼントの山を見ながら、私は少々がっかりしていた。
プレゼントを用意してもらう真意は『王妃になったら国を富ませるために君はどんなことができるの』っていう、問答だ。
言葉の裏を読めるかも含めて、次期王妃としての適性があるかどうかを試させてもらってると言うわけ。
もちろん、周囲からアドバイスを求めるのは原則禁止としてね。
だからさ、即物的な物は求めていないんだよね。
税金を無駄にするだけの浪費的なプレゼントは論外。それならむしろ、何もない方が好ましいくらいなんだけど……同年代の貴族令嬢って皆このレベルなの?
「この調子だと、最後の一人ディアナさんも期待薄かなぁ。辺境領からの人数合わせとしての参加みたいだし。」
あ、ディアナさんが入室してきた。
初対面の印象としては、中性的な雰囲気をもつ、かっこいい感じの年上美人さんって感じだ。
「王子、私のプレゼントはこちらになります」
彼女が用意していたのは赤い毛皮だった。
なんだこれ?
「見ていて下さい。ファイヤボール」
彼女の手からぼっと火の手があがる。
「ええ!?火事になっちゃ……あれ、燃えてない」
「面白いでしょう。辺境領にいるファイヤラットという魔物の毛皮で、燃えないんですよこれ。」
なんでも、辺境領ではポピュラーな魔物で、毛皮が大量に取れるらしい。全然知らなかった。凄いなこれ、消防士の服やカーペットに加工できれば一大産業になりそうだ。
他に何か面白い物がないか聞いてみると、コストがかかるから手元には用意していないが、その気になれば龍の首の玉なんかも提示できると言っていた。
つまり、辺境領には龍を斃せる程の軍事力があるけど、無益な戦には否定的だというわけか……凄いや、こちらの出題意図を完璧に把握して、100点以上の回答を出してくれている。
ルナムーン家は戦闘特化の脳筋集団と聞いていたが、認識を改めないといけないみたいだな。彼女にがぜん、興味が湧いた。
「ちょっと質問なんだが、なかなか姿を表さない黒い大物を捕まえるとき、君ならどうする?」
最近、王都を悩ませている麻薬密売組織のことだ。厳しい捜査でも尻尾を見せない強敵。
「僕なら甘い蜜を用意しますかね。甘い匂いに誘われて集まってきたところを一網打尽です。」
「なんと!それは大胆不敵な方法だね」
「ただ、ワラワラ集まってくるし、キチンと準備しておかないとこちらも大怪我するので注意が必要ですけどね」
◇
バンブー王子は弟と違い、中性的で可愛らしい顔立ちをした人だった。
それで、プレゼントのチョイスをミスったかなと思ったけどファイヤラットの毛皮に目をキラキラさせていたよ。
やっぱりあの年頃のダンスィって、赤い布とか獣の毛皮とかに興味津々なんだね。
「へぇ、素敵だね。どうしてこれをチョイスしてくれたの?」
「こう言うのがお好きだろうなって思いまして」
彼は、バレたかって顔をしていた。
龍とか言うワードにも弱いみたいだし、やっぱり王子様だってそう言うお年頃なんだね。
あと、カブト虫にも興味があるみたい。
今度捕まえに行くって言ってたけど、気をつけなよ?王都にいるかはわからないけど、カイザーギガンデスカブトとかはめちゃくちゃ強いから。
彼はやる気満々で、君の言う方法で早速捕まえようなんて言ってたけど、一応不測の事態に備えてついて行ってあげようかな。これでも僕、隠密スキルと腕っぷしは中々のものだからさ。
・・・・・
なんと、僕が婚約者に選ばれてしまった!
他の令嬢達には弟がいなくて、男の子が好きなものをプレゼントできなかったんだね、きっと。
しかしバンブー。
このままではダメだよ君、遊ぶことばかりじゃなくて、もう少し慎重になってキチンと国のこと考えてくれないと。
ちょっと今後が心配だなぁ。
大砲も用意せずにカブト虫を捕まえに行って、何故か麻薬密売組織と鉢合わせて、しかも相手に手練がいて負けそうになってた天然トラブルメーカーな所もあるし。
しかも、その時ちょっと助けてあげたくらいで僕に惚れたって?
地頭は凄くいいみたいだし、性格だって優しい民思いなのはわかったから、未来の国政は全面的に任せるつもりだけどさ、キミ、ちょっとチョロすぎないかい。いつかハニトラに引っかからないか心配になるよ。
これからも何かあれば、姐さん女房である僕が守ってあげなくっちゃいけないなぁ。
まあ、夫婦って足りないところを補い合ってこそだし、パートナーに天然なところがあっても、相方がしっかり者なら問題ないよね。