大いなる背骨《エルデン・ブランド》
西門は間口が5mほどで城壁と門扉の高さも同じく5mほどある。
門扉は開け放たれており、門の上には6坪程度の番所が載っていて門楼となっている。石造りの城壁は厚みもあり、上部には兵士が巡回できる城壁道や、矢を放つためのパラペットが備えられている。
(なんの脅威に備えているのかな・・・)
現代人の心を持つ蔵田としては戦争はもちろんだが戦闘行為自体、忌避感が先に立つ。
ガランドとクラウドが近づくと門衛が二人、両脇に立っていて誰何される。
ガランドは懐からプレートを衛士に見せ「ちょっと息子と散歩だ」と告げるとアーチが作る大きな影をくぐり抜けた。
「わぁ・・・」
雄大なパノラマに感嘆の声が漏れる。
門を抜けた先はなだらかな勾配になっており、やや見下ろすかたちで丘陵が広がっている。目の前の街道はゆるやかに起伏する丘陵の斜面を這うように続いていた。古びた石畳は、幾世代にもわたる旅人と荷馬車の轍にすり減り、両脇には野ばらや草が繁茂し、ところどころに風に揺れる低木の茂みが広がっている。
街道の左右には、なだらかな丘の斜面に沿って収穫後の畑が黄褐色の絨毯のように広がり、さらにこちらも収穫を終えた葡萄畑が黒い縞模様のコントラストを描いていた。
ところどころにある休耕地には羊や牛の群れがのんびりと草を食み、木製の柵越しに農夫が鍬を担いで歩く姿が見える。
テラコッタの瓦を葺いた屋根の農家が、木立の陰に身を寄せるようにポツンポツンと点在し、煙突からは細く煙が立ち上り、炊事か暖炉のぬくもりを思わせた。裏手には小さな菜園や鶏の走り回る囲いがあり、軒先には干し草の束や、つぎはぎだらけの桶が立てかけられている。
丘の中腹には、石造りの礼拝堂の尖塔がひとつ、穏やかな空の下に控えめに突き立ち、鐘楼の鐘が、遠く街道を行く旅人にも届くように鳴り響いていた。その音を合図に、羊飼いの犬が吠え、麦畑の陰からひょっこりと子どもたちが顔を出す。
素朴だが、実りと温もりに満ちた豊かな村の景色がそこには広がっていた。
「クラウド、あの山を見ろ」
ガランドが遠く指さすほうをクラウドは眺める。北の空の下にぽっかりと浮かぶように、一つの巨大な青白い影が見える。
霞の向こうに聳えるその山は陽の光を受けて、頂にかすかな雪をまとい銀灰色に光っている。山肌に刻まれた深い影が、そこに息づく長い時間を物語っていた。誰にも近づけぬような険しさと、同時に、どこか守られているような安心感が、その姿にはあった。
「あの山の名は、大いなる背骨。大陸一の山だ」
大きさや高さもさることながら、山容を見ても間違いない。季節ごとの雲がその背を渡り、冬が来ると、山から吹き下ろす風が冬の知らせをもたらす。だが今はまだ、遠いその山は、秋の残照を受けながら、穏やかにそこに在るだけだった。
「あの山には、おっかない伝承があってな」
かつて、世界がまだ混沌と理に引き裂かれる前、「エルデン」と呼ばれる原初の存在があった。それは創世の意志であり、同時に、破滅の火種でもあった。
神々は恐れた。
エルデンが目覚めれば、すべての理は崩れ去り、時も、命も、因果も溶けてしまうことを。
彼らは大地の一点に、その存在を封じた。
それが「エルデン・ブランド」――
大地に焼き刻まれた封印の背骨。
今、村の彼方にそびえるあの山は、ただの山ではない。
かつて神が恐れた原初の焔が、眠りについている――いや、目覚めを待っている。
「まあ、あくまでも言い伝えだがな」
真剣な表情から一転。
「ダハハハ。クラウドにはまだ、ちぃと難しすぎたかな。村のほうに行ってみるか」
クラウドを肩にのせ、村に続く小径をゆっくりとガランドは進んでいった。
涼秋の太陽は中天に差し掛かろうとしていた。




