宰相2
最近下町で目にする物がある。
「なあ坊主、その青い羽根は何だ?みんな持ってるのか?」
子供達が青い羽根のような物を持っている。あれは何だろうか。何かの暗号か?
「あ!エロ宰相だ!セイビヨウ?うつるからあっち行け!」「「やいセイビヨー」」
「な、何て事言うんだよ!私に性的な病気など無い!潔白だ!」
最近のガキはませ過ぎだ。
「下町のみんな言ってるもん!ううぇ~エロ宰相が怒った~逃げろ~!!キャ――」
全くどんな教育をされているのだ。
結局青い羽根についてわからなかった。
「宰相様~今日は久々に私にしない?」
日課の色町パトロールを続けていると馴染みのアリア嬢に会った。驚くべきは彼女の薄いワンピースにあの青い羽根が飾られている事だ。
「うむ。アリアたん案内を頼む」
「あぁこの羽?今下町で人気なのよ。幸せの青い羽根って言うの。宰相様なら知ってるかしら?王宮でお掃除をしてるサンドリンちゃんて子」
王宮には大勢の人が働いている。さすがの私でも掃除班まではわからない。
「その子が売ってるのよ。100アンテルムよ。子供がお小遣いで買える金額だし、幸せになれたらいいな、なんて期待半分でね」
まあ危険性は無さそうだ。そして私はこの事を気にするのは止めた。
「こっちも良くない?」「私的にはこっち!」「新作すごいね~」
最近下町で何やら紙切れを見せ合って、若い乙女がキャーキャー言っている。
「こんにちはお嬢さん方、そのかみ――『わ、私たち商売女じゃありませんから!!嫌――!』あ、ちょっと」
淑女が脇目も振らずにダッシュして行った。怪しい。あの紙は何だ?
「いや~ん可愛い~」「食べちゃいたいわぁ」「服の下にはどんなエロスが待ち受けてるのかしらぁ?」
⋯⋯またしてもあの紙切れだ。気にはなるが⋯⋯
「つかぬ事を訪ねるが、その紙はなんだろうか?」
「あらぁエロチキ宰相じゃない~どうしたの?女は飽きたのかしらぁ?」「子ギョームはどんなかしら?ゲット!『や、やめろ、掴むな!!!』あらぁ?」
こいつらは色町二丁目界隈の者だ。私とは相容れない。
「そうじゃないんだ、その紙、その紙は何だ?女性はみんな持ってるではないか?」
「ああこれ?大陸から来た魔道写真よ。絵姿より鮮明で奇麗なの。アロンちゃんの写真すっごいのよ~見て見て~」
魔道写真?アロンちゃん?私はそれを見せてもらった。驚くほど繊細なアロン様の絵姿だ。しかし一体どのようにして王宮にいるアロン様をモデルにしたのだろうか。
「サンドリンちゃんがね~アロンちゃんの撮影をしてるのよ。すっごくいい表情でしょ?わかってるわ~あの子」
サンドリン?またしてもその名⋯⋯
「よっこいしょ、じゃあ宰相様、そろそろあたし達とエロオアシスに行きますよ~」
「な、何だこの体の紐は!いつの間に縛った?!解けない!!担ぐな!ギャーーー!!!た、助けてくれ!」
あの紐はイカン。宰相権限で販売停止にしてやる。
その後も「サンドリンちゃんが~」「それサンドリンちゃんの~」と、サンドリンサンドリン聞く羽目になった。クソ!私だって下町界隈で名を知られるようになるのに10年はかかったんだ。それをたかが半年で!
「失礼します!兄上すっごいやばいです!!」
脳筋王子アロン様が王、第一王子、宰相の三者会議の場に突っ込んで来た。
「アロンどうした?前触れもなく来るなんて。G⋯⋯カブトムシでも捕まえたか?」
「兄上違います!それにあの虫はコオロギでした。触覚が長かったんです」
第一王子はお体が弱い。だがとても優秀で腹黒いのだ。それに相反してアロン様は鋼の体で頭は鳥だ。そのため昔から体の弱い第一王子を王にではなく、アロン様こそ王にふさわしい言う、昔に脳筋感染した老人が定期的に湧いて来る。私は王宮を脳筋から守るため、遠方から知りえた風水を活用し、鬼門にアロン様を閉じ込めた。
「そうきたか。で、話は何だ?魔王復活についてか?」
「さすが兄上!」
近頃魔物の被害報告が相次いでいる。下町でも魔王復活が噂になり、馴染みの店で~夜の魔王到来!あなたのエクスカリバーで退治せよ~イベントがあったばかりだ。
「ところでアロン様、勇者の聖剣をご存じですかな?」
「宰相よ。そなたの性剣はまだ下町で猛威を振るってるのかな?」
この局面で何言ってんの?もうこの王いらなくね?
「使えない誰かさんに替わって政権なら振るっております」
王は寝落ちた。通常運転だ。
「アロン、王宮の宝物庫には先代の勇者が魔王討伐に使ったとされる聖剣が台座に刺さった状態で納めてあるんだ。その聖剣は勇者にしか抜けないらしい。私は武には向かない。でもアロンなら抜けるんじゃないかな?」
「宝物庫へ行って来ます!」
「行ってしまいましたね」
「最近下町であいつ人気らしいじゃん?宰相も知ってるでしょ?まぁいいヤツなんだけど、これ以上の人気はいらないよね。魔王討伐にでも行って揉まれてくればいい」
脳筋感染した老害のせいで、今だ立太子出来ていない第一王子。この討伐中に世代交代を終えたいものだ。
この後、まさか勇者があの目障りなサンドリンで、三日後に王都から追い出せるとは思わなかった。私は感激のあまり手持ちの商品や、脳筋庫(脳筋感染時代の産物を納めた倉庫)の物を処理――いや、プレゼントした。
魔王討伐など数年はかかるだろう。これで当分王都は安泰だ。