宰相1
我々は最南端にあった地下帝国を滅亡させ、これから西側の討伐を開始します。
「へぇ~それは便利だな」
私は先ほど捕まえた蟻に荷物を括りつけます。険しい森の中には軍馬を連れて行けないので、各自沢山の荷物を背負っての移動となります。これがなかな辛いのです。
「でもジャイアントアントは大人しく言う事聞くのか?」
「きちんと説得しましたし、散歩紐で結びましたから」
重曹を口に詰め込みますよ?と教えたら大人しくなりました。あれほどの地下帝国を建設出来るのですから、意外と頭は良いのでしょう。
「この赤い紐は宰相様のお気に入りらしいのです。結びやすいけど、解けにくいとか」
宰相様はお元気でしょうか?
――王宮――
「宰相様。南のグエノレ伯爵から魔道通信が届きました。昨晩魔王討伐部隊がグエノレ領に到着。皆、健康状態も良好。そして今朝、西に向けて出発したそうです」
「早てか速!!脳筋電光石火!」
脳筋部隊が出発してまだ一月だ。腕自慢の鳥頭を集めて速攻送り出したのだが、どんな移動速度だよ!あぁだから脳筋は⋯⋯
――昔――
「よ!ギョームこれ何かすごくね??」
「うぇ――王子、これガガンボではありませんか」
今日の国王は第二王子だった。私、宰相ギョームは侯爵家の次男坊で、年の近い第二王子とは幼馴染みの関係だ。
第一王子は前国王に似て真面目で優秀な方で、成人を迎えてから王太子として立太子する予定だった。しかしその人徳と見目の良さから、海を越えた大国より婿入りを打診された。大国には進んだ魔道技術があり、王子本人も「大国の技術は必ずこの国のためになる。私がその橋渡しになる」と言い婿入りした。
「ガガガンボ?見てみろよ、これ二匹繋がってるぜ!スカイフィッシュってやつだよ!!」
「違いますよ王子、これは繁殖活動中です。ちょっと二匹を引っ張らないで下さい!色々モゲちゃいますって。あぁ痛い痛い⋯⋯」
そして二人以外お子がいないため、第二王子が国王になる事が決まった。だが困った事に、この王子はめちゃくちゃ前王妃似の脳筋だった。前王妃は約100年前に現れた勇者と側室から産まれたの王女の娘で、前国王とご成婚された。真っ赤な赤い髪の、脳に筋肉がぎっちり詰まった方で、いつの間にか王宮は脳筋感染し、普通であれば「今夜に飲みに行かない?」が「今夜狩りに行かない?」になり、「結婚しようって、このチャクラム捧げられたの!」や「私のベンチプレス超デコってて可愛いわぁ」や「給仕のおばちゃん、特盛プロテインセット三つ!」が日常になったそうだ。今でも噴水の彫刻はムキムキの小便小僧だ。
「こんばんは宰相様、また新商品入りましたよ!」「宰相様!新人のリリーちゃんが入店しましたよ!」
その後、第二王子がこの国の王となり、私が宰相を務め、脳筋で繁殖活動にしか興味のない王に代わり、日々大量の執務をこなす。
「新商品か?一ダースほど買おう」
私は忙しい。無能な王に代わり夜の王都に売られている怪しい製品の安全性確認も自ら足を運び、こなす。
「いつもありがとうございます!新商品、縛られちゃか縄ない♡です。こちらの紐はいい仕事しますよ。縛りやすくて解けない!」
「そうか、商品名が正しい物であるか確認しなくてはな。さて、お隣の君の店には新人が入ったのかな?うむ。ではそのリリーたんを呼んでくれ」
「いつもありがとうございます。宰相様のご入店です~!リリーさんお願いします!」
私は忙しい。夜の色街には他国の間者や革命家などの危険分子が潜伏している。
私は自らの足を使い、今宵も卑しい新人の詰問をするのだ。心を鬼にして、この国の平和のために。
「君がリリーたん?可愛いねぇ~新人さんなの?このお仕事は初めてかなぁ?じゃあ宰相のおじさんが色々教えてあげるからね~怖くないよ」
全く何時になったら暇になるのか。