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南2

 我々は翌朝、グエノレ伯爵邸を出発しました。移動がてら伯爵領の魔獣を軽く狩り、この国最南端の崖にやって参りました。風光明媚な場所で、きっと王都民の呼ぶリア充?のプロポーズスポットとかでしょう。『サンドリン危ないぞ』ロマンスを感じます。『コラ!』


「ここは有名な自殺スポットなんだから気を付け――『コン』何だこれ?」


こんな美しい所が自殺スポット?そんな訳ありません。謎のベルとかフェンスにはまった南京錠とかありそうな雰囲気ですけれど。

アロン様は崖に揃えて置いてあった靴と荷物に躓きました。誰かの忘れ物でしょうか。もらってもいいですよね?


「アロン様!我々の後ろに大きな昆虫のような魔物がいます!蟻でしょうか?!」

「何?蟻だと?魔物なのか?見た事無いぞ!」

「外国にいるらしいジャイアントアントじゃないか?!なぜこの国に?」


後ろを振り返ると一mはある大きな昆虫がいます。これはまさか⋯⋯


「懐かしいですね。幼少期これでよく遊びました。ふふふ。王都民は知らないでしょう?私がお見せしますね」


~賭けてちゃおう!ガチ蟻レスリング~

 まずご用意いただくのは二匹の蟻です。一匹はそのままで、もう一匹にはキッチンで大活躍間違い無し!万能掃除アイテム酢酸を振りかけましょう。そして二匹の首を左右に一匹づつ持ち、二匹の目同士をぶつけます。こうなると視力も臭覚も利きません。これで準備万端です。


「アロン様はどっちに賭けますか?酢酸蟻の方が大きめですよ」

「⋯⋯じゃあそっちで」


「では用意、始め!まずはノーマル蟻が仕掛けます。艶のあるお口で先制攻撃。酢酸蟻もお口で応えます。おやおや酢酸が寝技に持ち込まれました!これはッ開始早々熱い展開です!!足と足も絡まり次々に激しい攻めぎ合いの押収だ!これはたまりませんね~アロン殿、どう思われますか?『え?あ、初めてなので怖いです。主に俺のとなり――』おおっと!ここでノーマルが酢酸の頭と胸の間を攻める!!攻めるノーマル!耐える酢酸!『サンドリンもうだめだっ!アソコ取れちゃう!!あああああ!』 勝利、ノーマル蟻!!!」


「アロン様の負けですよ。お支払いは現金でお願いしますね。さて二回戦といきますか。せっかくですし、今度は騎士隊の皆様も賭けますか?」


「「「「⋯⋯ちょと手持ちがないので⋯⋯」」」」


あぁ確かにお金持っていなさそうですね。みなチョコレートボールレベルですか。


 さて蟻がいるという事は近くに巣があるはずです。女王蟻を駆除しなければなりません。


「勇者サンドリン、どうやらあの辺りからジャイアントアントが出入りしているみたいです」




――地下ジャイアントアント帝国―― ~蟻言語翻訳済みでお送りします~


 俺はジャイアントアントの兵隊長だ。我が女王は、はるか遠方から船に乗り、新帝国建国のためこの地に辿り着いたそうだ。我々はこの地で新帝国の建設を日々続ける。


「ん?」


いつも生真面目に働く兵隊達が見当たらない。はて、どこへ行ったのだろうか?


「兵隊長!第三出口に人間が沢山来てます!すぐに対応を!」


人間だと?たまに一人でふらふら来る者もいるいはいる。しかし沢山とは・・・・・・嫌な胸騒ぎを覚え、俺はすぐに対応する。


「外から妙な気配も感じる。一応女王の避難準備、そしてすべての出口を閉鎖してくれ。俺は現場に向かう」


適切な指示を出し、急いて現場へと向かう。動悸が止まらない。


「兵隊長!待ってました。俺達じゃもう、どうしたらいいかわからなくて・・・・・・うぅ・・・・・・」


 こいつら労働アントの話を要約すると、いい匂いの発する人間の袋が崖にあったらしい。しかし労働アントだけで回収するのは少し怖かったので、先に兵隊アントに現場付近の安全確認を頼んだそうだ。


「多分袋は人間の罠だったんです。確認に行ったエミルさんとディディエさんが捕まってしまって」


なんて事だ。あいつらは強い。我が兵隊達の中でも力自慢の二匹なのに。


「一匹の小型の人間がエミルさん達の首を掴んで頭と頭をガン!ってぶつけたんです。しかもディディエさんに何か臭いものを振りかけてました」

「は?」


小型の人間は子供だ。子供は俺達の餌になるくらい弱いはずだ。それを俺達の首を掴む?ありえない。多分臭い物は毒だろう。人間は弱い分、物に頼ると聞く。


「そしたら何でかエミルさんとディディエさんが戦い始めたんです。もう見てられないくらいボロボロになっちゃって、ディディエさんの首もエミルさんの足もとれちゃって、酷くて怖くて⋯⋯うわーん!!」


わからない。一体何が起こった?どうすればいいんだ?とにかく第三出口も封鎖しなくては。しかしその瞬間――


「ギャー!!何か液体が!ゴポゴポ――」「力が抜けるぅ――」「臭い!助けて――ゴポッ」

「ぜ、全員退避!走れ!」


 これは人間の襲撃だ。エミルたちは罠にはまり、見せしめとして殺されたんだ。仲が良かった二匹に殺し合いをさせるなんて鬼畜の所業、クッソ鬼畜共め!


 それを皮切りに、この建設途中の帝国を滅ぼしに来たんだ。そうなると女王が危ない。女王だけでも逃がさねば!俺は全速で走る。


「おや兵隊長?急いでどうしたのじゃ?何やら揉め事でも地上で起きているのかえ?」

「失礼します女王様!今すぐお逃げ下さい!人間の襲撃です!」

「ほう、たかが人間何ぞ何も出来まい。落ち着きなさ――『ガガガガー!!!』ヒェッ」

「は?」


 夢なのかこれは?今まで地下にいたのに太陽に照らされている。急激な暗明の差に目が追い付かない。どうしてこうなった?!


「「「「ギイェ――ギギャ――!!」」」」


 多分周りで仲間が屠られいる。それなのに目も見えぬし、辺りは酷い匂いで、仲間の匂いも感じられない。これでは助けられない。こんな一大事に何も出来ないなんて⋯⋯皆、こんなダメな兵隊長でごめん。それでも頼むから女王だけでも助かってくれ!!


 俺は伝説の魔王に願わずにはいられなかった。 ――完――




「アロン様は右と左どっちがいいですか?」

「えっ、左のはさっきのアレ⋯⋯だよな?右にしょうかな?でもな⋯⋯」


 では右にしましょうか。こちらもマリー掃除班のレギュラー、クエン酸です。

主に水回りで大活躍。酢酸を掃除界のプリンスとするならば、クエン酸はプリンセス。今回はプリンセスにご活躍願いましょう。


~困りますわ!家に大蟻の巣が~

 さて、そんな時はこのクエン酸!5gのクエン酸を200mlの水に薄め――ずに使っちゃいましょう。今回はデカ蟻ですからね、ケチらずワイルドに。10kgのクエン酸を粉のまま巣に投入し、水を流し込みましょう。


「うーん穴も大きいですし、土に浸み込んでしまいますね。酢酸も投入してしまいましょう」

「なあ、その液体、さっき蟻レスリングで使ったよね?俺の賭けた蟻にかけたよね?」


でも巣穴は暗くて中が見えないので、きちんと蟻に効いているのかわかりません。

通常であれば酢酸もクエン酸も蟻に効果的ですが⋯⋯


「少し掘り返してみましょう。女王蟻を討伐しない事にはまた増えますし」


 土を耕すには(くわ)ですかね。言わずも知れた田舎民にとっての三種の神具(鍬、(すき)、鎌)の一つです。田舎民一人につき一本は当たり前で、それぞれのこだわりを形にするオーダーメイドもあります。

 粋な農民にとってそれらは、好きな子へのアピールに使って良し、品評し合って良し、同好と語り合って良しとなっております。


「鍬は久しぶりですね。半年ぶりですか」

「サンドリン?君にはそれが鍬に見えるのか?君の田舎では普通なのか?」


前から思ってたけど地元おかしくね? なにやらアロン様がブツブツ言っていますが、久しぶりに鍬を振り上げ、エイ!!エイ!!


――ガガガッガガアガガガガガガ――!!


「すごい!地下帝国ですね!」


 つい地元の地盤を想定して力を入れ過ぎましたかね?中は空洞部分が多かったようで、地下帝国が次々と崩壊してしまいました。地下帝国と言えば金銀財宝・・・・・・ああああああああ!


「アロン様!あれは女王じゃありませんか?!皆すぐに討伐を開始!」

「一匹も逃がすなよ!すべて討伐しろ!」



「あら?」


目の前に気になる蟻がいます。捕まえてよく観察してみましょう。首を掴んで・・・・・・


「ギギギーー」


ほうほう、この蟻いいですね。


「討ち残しはなさそうだな、討伐完了!って、サンドリン、その捕まえてるジャイアントアントに何する気だよ」

「これは戦利品です。持ち帰ります」

「⋯⋯森狼も連れてきちゃったし、これもなの?森狼だけでも元いた場所に戻してきなさいよ」

「嫌です。ちゃんと面倒みれますし」

「そうか?昨夜、森狼の餌にスケルトンの骨あげただろ?あんな物食べられるわけないぞ?あの後俺が肉を伯爵に頼んで食べさせてやったんだからな」


知りませんでした。犬は骨を食べて生きているのだと思っていました。

ではこの蟻は何を食べるのでしょうか?


「アロン様。ジャイアントアントの成虫は討伐終わりましたが、この卵と幼虫はどうします?」

「私に何個か下さい」

「⋯⋯もう好きにしてくれ」


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