南1
「はぁ50個ですか。100個は欲しかったですね。誰ですか?こんなに壊したのは」
ここは王国の南、グエノレという港から数キロ北の墓地にいます。この辺りは昔から海で難破した船やご遺体が流れ着くので、ここら辺一体が墓地となっています。
グエノレを治めているグエノレ伯爵は王国騎士団に討伐願いを毎日送っていたそうで、アロン様は「激熱統治者」だと言っています。そのため我々一行は被害が激ヤバらしいこの墓地に、日が傾向いてから向かいました。
「夜の墓地は怖いですね」
「勇者サンドリンにも恐れるモノがあったのですか?」
イケオジなフィデルがまたつまらない軽口を言っていますね。これは毎度可哀そうな私にお金を献上すべき案件です。フィデルは後ろポケットにお金を入れる迂闊なタイプの人間です。こういうタイプの人間は一度失敗しないと学びません。ですので優しい私が指導して差し上げましょう。
「オッフ!私の尻がスっとましたぞ!ゴーストではありませんか!?」
スっとしたと言いますか、掏られています。あぁお金が生暖かいです。あ、この感じは私が子供の頃、小銭を握り締めてお使いに行き、レジでイケメンお兄さんに小銭を手渡した時「やだ小銭が生暖かくてお兄さんに気持ち悪いと思われちゃったかも。恥ずかしい⋯⋯」を思い出しました。
「おいおいフィデル、ゴーストが何でお前の尻触るんだよ。そんな変態痴漢ゴーストいてたまるか――『パシ』イテっ!」
あ、つい私が痴女扱いされたような気がして、フィデルのポケットに入っていたレシートをアロン様に差し上げてしまいました。
「アロン様!一時方向にスケルトンが約二十体確認されました!」
「スケルトンか。予定通り聖水を剣に振りかけて対応しよう。しかしこの雰囲気、気持ち悪いな」
夜の墓地にスケルトン。夏の風物詩的な感じでしょうか。私は今、青春しているのかもしれません。胸が高鳴ります。では早速、先ほど掏ったお金を数えま⋯⋯
嘘!?おおよそチョコレートボール二箱分の金額だなんて。貴族のくせに。多分手癖の悪い輩にすでに掏られていたのでしょう。全く掏りだなどと卑怯な。私の胸は沈みました。
あ、いけません、今は戦闘中でしたね。おやー?
「はぁ、こっちは大方片付いたか?サンドリンは何してる?」
「清掃業務中ですのでお気になさらず、討伐続けてください」
私は王宮の掃除班、新班員がまず手にする基本中の基本、ほうきと塵取りを使用しています。これに関してはマリー班長も「サンドリンちゃんの通った後は不毛の地になりそうだよ」と高評価されています。
先ほどからスケルトンが退治されるたび、落とし物が落ちるのでほうきと塵取りで集めています。凄い。港町だけに大漁ならぬ大量です。しかし壊れている物も多いですね。一体誰がこんな無駄を。
「やっと終わったな。全く次から次へと湧いて来るし、見た目がエグくて骨が折れたな」
「骨だけにですか?」
「あ、いや俺はそんなつまらない親父ジョークみたいなこ――『ゴッ』ギャアア」
あら?ほうきの柄がアロン様の弁慶の泣き所に、まるで熱愛中の恋人同士のように惹かれ合いました。しかし大漁だったので良しとしましょう。
「勇者サンドリンは魔石を集めているのですかな?でもスケルトンから落ちた魔石は安物ですがね。それと討伐で回収した素材は騎士団のも――『ドスッ』ググ⋯⋯」
あら?私のバッグから魔石が飛び出てしまいました。随分と生きのいい魔石ですね。港町ですし、とれたてですし。丁度チョコレートボール男に当たりました。チョコレートボールだけにおもちゃが当る?あれ昔から欲しいでのですけれど、なかなか裸に羽の生えた子が現れないのです。二枚まではあるのですが、はて?どこに仕舞ったかしら⋯⋯
スケルトンの討ち残しが無い事を確認して、グエノレ伯爵邸へ参ります。
激熱伯爵は市民思いの優しく、ほんのり甘い人参ぽい人でした。愛犬の森狼のごはんに先ほど拾った骨をあげて、美味しい食事と久しぶりの柔らかい布団でぐっすりと眠りました。
嘘です。こんなに柔らかい布団は生まれて初めてでした。欲しくなりますよね。