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第二王子アロン

「デニス兄上!兄上は今日もお勉強ですか?一緒にカブトムシ探しませんか?」 


 俺はアンテルム王国の第二王子アロン10歳。父である国王そっくりの真っ赤な髪に碧眼を持つ王子だ。俺にはとても優秀だけど少し体の弱い6歳年上の兄がいる。


「やあアロン。今日も能天気そうで安心したよ。私は忙しいから一緒には探せないけど、カブトムシなら社員食堂のゴミ捨て場に沢山いたよ。少し平らなタイプだったけど、素早くてかっこいいよ」 


「本当?!行ってくる!」


 デニス兄上は博識だ。俺の知らない事を沢山知っている。王宮の侍女たちが「金髪碧眼は正統派イケメン王子よね」「でもツンデレ眼鏡宰相候補も捨てがたいわ」って言ってた。よくわからないけど、金髪碧眼の兄上は王にふさわしいのだろう。

それに宰相は「赤毛は脳筋のお色ですよ。国王と同類ですかな。あ、脳筋とは脳が筋肉の使い方を熟知している騎士向きの方の総称です」と言っていたので、俺は騎士になって兄上の手助けがしたいと思う。


「ゴミ捨て場ってここかなぁ?あ、何かいる!」


黒や茶色い大小様々なカブトムシがいる。図鑑で見てから欲しくて堪らなかった俺は感動した。


「は、速い!無理だ、つかならない!」


カサカサと、とにかく素早い。でも角が無いので全部メスだろうか。メスでこの速さじゃオスは音速かもしれない。


「鍛錬して出直そう。俺は脳筋だからきっといつか捕まえられる」


俺は騎士団の鍛錬に参加することにした。




「アロン久しぶりだね。騎士になる鍛錬は続けているかい?」「はい!兄上!」


 デニス兄上が久しぶりに声をかけてくれた。あれから俺は毎日鍛錬を続けている。


「頑張っているアロンにプレゼントがあるんだ。アロンももう13歳だろ?背も伸びたし、馬の世話も自分で出来るようになったよね?」


騎士団で馬の世話は毎日している。最近は蹴りを食わらなくなったし、髪も毟られていない。


「宰相の所で産まれた馬を譲ってもらったよ。宰相に似てる部分もあるんだけど、アロンなら大丈夫だろう?」

「うれしいです!」


 いつも優しい兄上は白黒のぶち模様のサムを俺にプレゼントしてくれた。自分の馬というだけで特別な愛情が芽生える。そんなある日――


「お腹ブラシかけるぞ~、ん?なんだ?コレ?」


サムの下腹部からさっきまで無かったピンクの何かが生えている。


「病気か?どうしょう⋯⋯今日は騎士団遠征なんだよな」


 いつも馬の世話をしている騎士達は近場の森で魔獣狩りをしていて、馬も人もいない。俺は普段素通りしている図書館へ行って調べることにした。


「蹄目?よくわからないな。写真の多い本にしょう」


 本を何冊か持って閲覧室へ行き、ペラペラと馬の写真を眺めていると、サムに似た白黒のブチ馬の写真を見つけた。


「少しサムより太ってるかな。でも似てる」


その馬はサムと同じで下腹部にピンクの何かがある。


「何々?乳牛には乳頭があり…....?」


はて?サムは牛だっただろうか。そういえばサム以外の馬は黒や茶色ばかりだ。


「もしかするとサムは牛か、又は牛と馬のキメラかもしれない。ピンクのは乳首で、サムは牝牛か牝馬だったんだな」


 サムは病気ではなかった。安心した俺は図書館を後にした。


 その後も乳首をよく出していたけど、牛なら当たり前みたいだし、元気なので気にするのは止めた。




「アロン様はもうすぐ成人になられますので、今の離宮では少々手狭かと。宰相である私が良い離宮をご用意しております」


 俺はもうすぐ15歳になる。15歳はこの国で成人とみなされ家族から自立したり、結婚する事もできる。


「こちらでございます」


 広い王宮の北東の静かな場所に離宮はあった。入り口も宮の北東にあり、その横にシャワーなどの水回りがある不思議な作りだ。


「北東の玄関は静かで落ち着きますし、鍛錬での汚をすぐに洗い流せるように玄関そばに水回りを設置しました。可愛らしく無花果の木も植てございます」


宰相はよく考えてくれている。みんな言っていた「宰相って地道な努力すごいよね」がわかる。


「こちらの南西にはキッチンと食堂がございます。美しい庭を眺めながら食事ができます」


庭には春には梅や桜、初夏に紫陽花。冬にはサザンカや椿が楽しめるらしい。それに実用的なみかんやビワ、ザクロなどの果物、薬になるドクダミまであるというから驚きだ。


 俺はすぐに引っ越しをして離宮で暮らし始めた。




 最近良くない報告ばかり上がる。18歳になった俺は第二王子として父や兄上の仕事の補佐や、騎士団での仕事もするようになっていた。


「また魔物の被害か?多すぎるぞ。何が起きているんだ」


「町では魔王の復活では?と噂されています」


 魔王の復活。それは100年前にこの王国で起こった一大事だったらしい。魔王はこの世界のどこかで定期的に復活しては大惨事を起こし、国や民族を滅ぼし続けているらしい。


「魔王が我が国に狙いを定めたという事か?それともこの国で復活したのか⋯⋯」


 俺はすぐに兄上と父上に報告へ向かった。


「アロンどうした?前触れもなく来るなんて。G⋯⋯カブトムシでも捕まえたか?」


「兄上違います!それにあの虫はコオロギでした。触覚が長かったんです」


 カブトムシを飼っていた友人が「カブトムシはそれほど素早くはないと思うし、触覚は短いよ。それ多分コオロギだよ」と教えてくれました。今はもう良い思い出です。


「そうきたか。で、話は何だ?魔王復活についてか?」


「さすが兄上!」


俺は騎士団に届いた報告書を兄上に渡し、事情を説明した。


「ところでアロン様、勇者の聖剣をご存じですかな?」


常日頃からボーっとしている父上の横にいた宰相が、俺の知らない単語を言う。すると


「宰相よ。そなたの性剣はまだ下町で猛威を振るってるのかな?」


スイッチがいきなり入った父は、キラキラした目で何やら宰相に聞き始めた。


「使えない誰かさんに替わって政権なら振るっております」


 その瞬間、父は寝落ちた。通常運転だ。


「アロン、王宮の宝物庫には先代の勇者が魔王討伐に使ったとされる聖剣が台座に刺さった状態で納めてあるんだ。その聖剣は勇者にしか抜けないらしい。私は武には向かない。でもアロンなら抜けるんじゃないかな?」


 兄上曰く、今の王家は先代の勇者の血を引いているらしい。勇者と王女が結婚して、その娘が先王と結婚したとか。すでに亡くなっている俺達の祖母だ。なので俺なら勇者になれるかもしれない。


「宝物庫へ行って来ます!」


 俺は逸る気持ちを抑えて、宝物庫へ向かう。兄上の様な政治や執務の才能は無い。俺は脳筋だからだ。でも魔王討伐なら国民のために働けるかもしれない。


「これが聖剣か?」


 宝物庫の中央には一mくらいの高さの台座があり、そこに二メートルくらいの長さの大剣が刺さっていた。想像以上にデカい。これを振り回すなど普通の人間では到底無理だ。


俺は緊張しつつ、その台座に上り聖剣に手を伸ばした。


「ん!ん!はぁ、やはり無理か」


俺では脳筋が足りないのかもしれない。騎士団長ならどうだろうか。いや、そもそも本当にあの大剣は台座から抜けるのか?俺は目の前が暗くなった感じがして、宝物庫の壁にもたれ掛かる。すると⋯⋯


「何故かドクダミ臭いですね。湿っぽいというか」


 一人の小さな掃除婦が入室してきた。ふわふわした青い髪の毛が可愛らしい。でもどこかで見たことがある。ん?あ、確か魔道写真で俺を撮影してる子だ。俺に気があるのかな?と思って、つい目が勝手に彼女を追ってしまうのだ。


「あら立派な大理石。さすがにポケットには入らないわね。でも何故剣が刺さってるのかしら。きっとこの剣に合う鞘が無いのね。あまり巨⋯⋯過ぎるのも困ったモノなのね」


彼女は何かゴニョゴニョ言いながら台座にぴょんと飛び乗った。そして剣をスっと抜いて横の棚へ置いた。


「この巨⋯⋯剣すごい宝石埋まってるじゃない。昔近所のトムおじさんが「俺のは真珠が埋まってるんだぜ?嬢ちゃん試すか?ははは!」って言ってたけど、あるあるなのね。うむ⋯⋯宝石取れないわね。はぁ掃除しましょう。カビには七十パーセントのエタノール~」


⋯⋯信じられない。聖剣をいとも軽々扱っている。どれだけの脳筋なんだ?何より信じられないのは彼女が聖剣の柄にある魔石をノミの様な道具で抉り始めた事だ。泥棒だろ?でも魔石は外れなかった。未遂はセーフか?ま、彼女が勇者なら聖剣は彼女の物だしな。じゃあ大丈夫だな。


 その後彼女は何かポケットから出した物を食べながら掃除を終えて、アロンには全く気付かずに退出して行った。


 気を取り直して、俺は急いで兄上達の元へ報告に行った。


「兄上!いたんです!すごい脳筋が!」

「そんな魔獣まだいたの?この親子だけで十分でしょ。私がコツコツ張った結界は効果無し?」


宰相が難しい事を言っている。多分魔王復活やら政務関係だな。


「掃除班の小柄な女の子が聖剣を抜いたんです!青いふわふわした髪の子で――『何だと?まさかアイツか?サンドリンか?』」


温厚な宰相が苦虫を潰したみたいな顔をしている。宰相が名前を知っているなんて、彼女は有名人かもしれない。


「すぐに見つかってよかったね。早速討伐隊を組もう」


侍女曰く、シゴデキ?な兄上によって、三日後には魔王討伐部隊の出発準備は完了した。




「よし。サムも準備万端だな。それでは魔王討伐部隊出発!」


 俺達は王都市民からの大歓声を受けながら王都を抜け、その後、東へ進む予定だ。東から南、南から西へ時計回りにぐるりと周る。俺達の部隊は脳筋で構成されているので、つい魔物を深追いし、つられてどこかへ行ってしまったり、そもそもの出陣理由を忘れたりしないように、とにかく(王国を時計周りに周る)を心に刻めと言われている。


「いってらっしゃい!気を付けてね!」「脳筋王子も行くのか?迷子になるなよ!」

「女の子の勇者様だ。かわいい!」「ママ本物の王子様だ!すごいね!あの馬さん変なのついてるね!」


 凄い歓声だ。隣のサンドリンも驚いて俯いてしまっている。ここ二日で彼女の立場は大きく変わった。状況の変化についていけないのかもしれない。


「サンドリン恥ずかしがる事はないぞ。胸を張って堂々としていればいいんだ。私の様にな!」


彼女はサムをちらりと見てほほ笑んだ。笑顔も真っ赤な瞳も可愛い。花柄のバックを背負っているが邪魔ではないのだろうか。きっと彼女にとって、とても大切な物なのかもしれない。


それにしても小柄な少女ながら馬の扱いが上手な。瞳も赤いし、これは絶対――


「サンドリン、君は相当な脳筋だろう?生まれつきなの――『プシュ』ギャアアア!!!」


俺の「猛暑の空みたいですね(宰相)」と褒められる碧眼が焼けるように痛い!これではもげた柘榴色になってしまう。一体何が起きたんだ?!俺は痛みで落馬しそうになった。


「アロン様危ないですよ。人間落ちる時は一瞬ですから」


と言って、つんつんと俺とサムを突いて位置を戻してくれた。段々目も見えてきた。


 お礼を言おうと隣を見たら、サンドリンは俺を突いた手にプシュプシュと何か吹きかけてた。そのプシュがさっきの『プシュ』だと気づくとゾッとした


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