東側2
野宿にも飽き飽きな今日この頃。まだ王国東側の討伐は終わりません。東側の次は西側。はて?北はどうでしょうか、私の実家がありますが魔物被害報告は届いておりません。
「サンドリン様の地元はどんな所なのですか?」
若くて可愛いリチャードが可愛い顔をして尋ねてきます。
「そうですね、田舎ですし、可愛い物が少なくて困ります。でも今日はツイてますね」
そう。今日はみな大好きモフモフカーニバルです。モフモフが嫌いな人類はいません。そんな方は全身の毛を誰かに刈られてしまうかもしれませよ?
それは今朝の事でした。
「全員起床!!直ちに戦闘準備!」「何事だ?!」「魔物の襲撃か?!」
朝食の準備をしていた私はすぐに駆け出しました。これでは一日の内で最も大切な朝食に遅れが出てしまいます。マナーのなっていない魔物にはお灸を据えましょう。
「勇者サンドリンおはようございます。どうやら夜の間に森狼に囲まれたようです」
「あらまぁ」
私は近くの木に登り周りを見渡し、すぐに森狼のボスと思われる個体を見つけて前に進みます。あとは対話です。
「教育的『ギャォン』指導!」
犬ですが猫掴みで首を抑え、鼻を拳で殴ります。上下関係を分からしめる事が目的です。遠慮はいけません。賢いのでそれすら感じ取ります。
五発ほどで戦意を失いました。かわいいワンちゃんの誕生です。癒し系と言うのでしょうか?せっかくなので朝食を一緒に食べましょう。
猫掴みのまま朝食会場へ案内します。これが憧れのワンちゃんとのお散歩でしょうか。優雅な王都のマダムっぽいです。
「ワンちゃんごはんですよ~」「⋯⋯」
あれ、おかしいですね。食べません。好き嫌いはいけませんよね。では教育的――
「待て、サンドリンその食べ物は何が入ってるんだ?森狼の食べれる物なのか?」
「失礼ですね。これは昨夜私のテントに入ってきた変態馬です。気持ち悪いので馬刺しにしたんです」
昨夜疲れて寝ていると「ハアハア」と私の耳元で興奮している変態馬がいたのです。始めはあのアロン様の万年発情馬サムかなと思ったのですが、頭から角が生えているので、違う馬だとわかりました。サムは頭からではなく、下腹部から⋯⋯あ、朝から失礼しました。そして気持ちが悪かったので、頭の角を掴んで外に投げたら木に直撃。そのままお陀仏したので朝食の馬刺しにしました。
「ユニコーンの刺し身か。貴重だな。ユニコーンと言えば⋯⋯乙女?いや、考えてはいけないパンドラの箱⋯⋯あ、あれだ、森狼はお腹が減っていないんじゃないか?」
王子は博識ですね。確かにお腹が一杯なら食べないでしょう。
「アロン様の分もありますからね。朝採れマンドレイク炒めと召し上がれ」
「イツモ アリガトウ」
そして朝食後、私はモフモフを堪能しました。足と足の間に入った尻尾が可愛いです。耳も目も下がりキャンキャン高い声を出していました。甘えているのでしょう。
あ、首輪が必要ですよね。何かあったかしら?バッグの中を探します。するといい物が見つかりました。これは運命ですね。首に通します。
「ちょっと待て、サンドリンそれは何だ?それは首輪じゃないだろ?!」
「わかりません。討伐前に宰相が持って行けと色々な道具をくれたんです」
金属の輪のような物で、チャクラムと名前が彫ってあります。チャクラムさんの輪でしょうか。外国人風の名前ですし、外国製の首輪かもしれません。
「いやいや、刃みたいだぞ!危険だから捨てなさい。見てごらんなさいよ森狼の目を!」
「気に入ったみたいです」
「どんな教育受けてんの?!」
アロン様はまた吠えてますが、愛犬との戯れで旅の疲れが癒されました。