掃除班サンドリン
初投稿です。色々許して下さい。
「勇者サンドリン様だ!行ってらっしゃい!」「小柄なのに強いなんてすごいな!」
「討伐頼んだぞ!勇者様がんばってな!」
なぜこの様な状況に置かれているのかわかりません。ただ真面目に掃除をしていただけなのです。
ここはアンテルム王国、東西南を海に囲まれた半島にある王国です。
北には険しい山脈があり、交易は海からのみ行われており、近隣諸国との関係は良好です。
私、サンドリンは北の農村部、貧乏子だくさんの男爵家出身で、家計を少しでも助けるために王国の中央部にある王宮に出稼ぎに来ました。
王宮で働き始めて半年、王都や仕事にも慣れ友人もでき、毎日充実した生活を送っていました。
特に社員食堂が素敵です。なんとお代わり自由なのです。天国でしょうか。パンを少しポケットに詰めておきましょう。
そんなある日
「ちょっとサンドリンちゃん!何かしたのかい?失敗とか!」
「え?」
いつもはどっしりと構えている、掃除班のマリー班長が慌てて私の所へ飛んできました。
「第二王子、アロン様付きの文官様がサンドリンちゃんを探してるんだよ!心当たりはないのかい?」
心当たり⋯⋯そういえば数日前、アロン様が乗馬中に愛馬の息子が拡張していき「これぞ正に騎乗――『だめですよ。真っ昼間から』失礼、でも馬並みなのね~」と友人マーサと突っ込み合ったことでしょうか。それとも王子が散歩中、落ちていた無花果の実を踏んだことに気づき、オロオロしていたのを「あれ絶対犬の落とし物を踏んだと勘違いしてるよね~」「賭博買ったら勝てるかも。運がついてる」などとギャグを言ったのがバレたのでしょうか。
「いえ、その様な事はありませんが、その文官様の元へ行ってみます」
第二王子宮は北東の鬼門?(私は詳しくありません)の位置にあります。入り口に無花果の木が植えられていて、少し暗い感じがします。宮に向かって歩いていると、後ろから声をかけられました。
「あ、君はサンドリンさんだね?一緒に来てくれ」
この方が私を探していた方でしょうか。高そうな身なりですので従いましょう。ポケットから金目な物を落とすかもしれません。落ちた物は早いもの勝ちです。
かれこれ10分は王宮内の長い豪華な回廊を歩いています。貧乏育ちの私にとって、この目に容赦なく入り込むピカピカは情報過多です。そんな私を気にせず、金目な物も落とさず、文官様は歩き続けます。 しばらくすると大きな扉の前に着きました。近衛兵が両脇に立っており、ここに王族の方がいらっしゃる事がわかります。
「失礼いたします。サンドリンを連れてまいりました」
「入れ」
私は文官様の指示に従い、扉の中へ足を踏み入れました。
するとあらビックリ。そこは王の謁見の間で、この国の重鎮が揃っているではありませんか。そして唖然とする私に宰相様が尋ねます。
「君が掃除班のサンドリンだね?」
「はい、そうですが⋯⋯」
この状況が理解出来ません。一体何をしてしまったのでしょうか。実家にはお腹を空かせた家族がいるのに。 所で今、時給は発生しているのでしょうか。休憩とか早退にされると「え、それってちょっと⋯⋯」と思いませんか?
「昨日君は第一宝物庫の掃除を担当していたね?」
「はい。しかし何も盗ってはいません」
宝物庫で盗みはしていません。王宮のトイレットペーパーを数本私物化したくらいです。トイレットペーパーは手を拭いてよし、鼻をかんでよしの万能アイテムです。あとは第二王子宮に実った果物を頂いたくらいでしょうか。でも畑以外の場所で生る果実は早いもの勝ちですし。
「盗ったというか、抜いたよね?」
「ヌいた?」
え、真面目な顔して宰相様は何をおっしゃっているのでしょうか。真っ昼間から下ネタはダメだと友人のマーサも言っていました。
「宝物庫に聖剣刺さってたよね?あれ君、抜いたでしょ?第二王子アロン様がそうおっしゃってる」
?アロン様の聖なる剣はヌいてないですが、確かに昨日宝物庫の掃除はしました。
――昨日――
「サンドリンちゃん、今日は宝物庫の掃除お願いね」
「はい。初めてですが、がんばります」
宝物を安置する場所ですか。少し興奮します。鼻息荒く少しジメっとした室内に入室すると、なぜか中心部に煌びやかな台座と、そこに刺さる剣があったので「ちょっと危ないし、掃除しにくくね?」と思い、剣を抜き、台座の掃除をしました。でも傷つけたり、壊したりはしていません。
「確かに抜きましたが、それが何か?」
「聖剣が抜けたのなら君は勇者だ『え、違いま――』実に100年ぶりの誕生だ。最近魔物の活動が活発になっているのは知ってるね?」
アンテルム王国の森には魔物が生息しています。しかしそれほど強い物ではなく、騎士や冒険者達が時々討伐しており、私の実家では父が鍬で追い払ったり、狩って食べたりしています。
しかし最近その魔物達が狂暴化し、国民を襲ったり家畜を連れ去ったりする被害が多発しています。この様な事は100年前、魔王が誕生した時以来で国民の間で不安が漂っています。
いや、待ってください。私は勇者ではありません。マリー掃除班、班員です。
「これから宝物庫で勇者探しを始める所だったが、まさかこんなに早く見つかるとは思わなかったよ。灯台下暗しかね」
「私は勇者ではありません。あの剣は軽かったですし、簡単に抜けました」
「君が掃除する前、アロン様が聖剣を抜こうとしたが抜けなかったそうだよ。そしたら掃除に来た君が簡単に抜いて移動させたから驚いたらしい。」
アロン様がいらっしゃったことに気づきませんでした。宝物庫もアロン様もジメっとしているので同化していたのでしょう。しかしどうしましょう。このままでは勇者に仕立てられてしまいそうです。
「勇者サンドリンよ。この国の代表として討伐に向かってほしい」
国王様がおっしゃられました。これでは逃げ道がありません。そして宰相様が耳障りの良い言葉で誘惑します。
「勇者は報奨金出ますよ。すっごい出ます。もう魔道自販機の下を覗く生活とはおさらばだよ?あと鬼門の無花果は良くない。あそこは霊道だからね」
「しかし――『王宮の鶏の羽を青く着色して、~幸せの青い鳥の羽~だとか、アロン様の隠し撮り魔道写真とか売りさばいてるよね?』⋯⋯チッ」
さすが凄腕宰相。夜の色町で、自らの足(第三番目の足を使用)を使った情報収集力は巧の領域だと聞き及んでいます。ですが青い羽根は「なんか幸せになれそう」と、子供たちに人気ですし、アロン様に至っては毎度隠し撮りに気づき、目ざとく写真目線。絶対喜んでいます。出荷先の下町二丁目のオネエさん達は高額で取引してくれますし、正に需要と供給。
しかし貧乏男爵家令嬢に拒否権はありません。こうして大好きな社員食堂とお別れして、魔王だか魔物だかの討伐の旅に出発したのです。