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花邑杏子は頭脳明晰だけど怖くてちょっとドジで馴れ馴れしいがマジ傾国の美女【第37話】

会社に戻ると、篁課長に呼ばれた。

1週間ほど、世田谷工場にて、研修を受けて欲しいとのことだった。

複雑な気分だった。花邑杏子がいるからだ。

今度の研修は、重大な任務が隠されていた。

新発売の気象衛星「おらが雨乞い3号」の詳しい仕様を英語でまとめてくるのが義範の仕事になった。

常日頃から篁課長は言っている。

「生きた翻訳をしないとだめだ」と。

それに報いるためにも頑張らないといけない。

幸い、赤坂義範君は、英検一級を取得し、某外語大英文科を卒業している、なかなか優秀な奴なのである。

しかしだ。篁課長と君島国子の類いまれなる英語力には、正直、舌を巻いた。彼らの英語は、完璧なネイティブのビジネス英会話なのだ。広報の会議は全て英語で展開される。ついていけないわけではないが、たまに分からない表現がでてくる。それらをメモにとっては、検索エンジンにかけて、頭に叩き込む。君島国子の英語は、ちょっとカリフォルニア訛りの兆候がみてとれる。とか、色々あるが、篁課長がフォローしているのを見ると、慣れかな、と。

「体たらくな仕事してきたら、ぶっ殺すからね!」

君島国子が夙に冷たくなった。理由は花邑杏子に決まってる。

だったら、あなたが行けばいい。

この言葉を、何度飲み込んだか。

別に花邑杏子と君島国子が籍入れようが、関係ないことだ。

だが、この仕事は譲れない。広報に来て、初めてのまともな仕事なのだ。

研修前夜ーー

花邑杏子が泊まりにきていた。

聞けば、痛風鍋を作ってほしいのだそうな。

この時期じゃ、いい材料は手に入らないのではと提言したのだが・・・

「毎度~、クール便です」

届いたのはーー

広島産の牡蠣に、北海道産の鮟鱇の肝と鱈の白子がこれでもかとばかり送られてきた。ちなみに牡蠣は、殼付きである。

「お前なあ!誰がこんなに食うんだよ!」

「大丈夫。若いもんも呼ぶから」

「あと牡蠣!」

「それについては心配していない。近所に昔、広島県で牡蠣の殼剥きでならしたおばあちゃんと知り合いになってなーー」

「どうやったら、そんな人と知り合いになるんだよ!」

「スタバで。彼女ったら、いつもほうじ茶派なのよ」

「そんなことはどうでもいい!」

「てめえが聞いたんだろうが!」

「すみません・・・」

「とにかく、牡蠣の殼剥きは、そのおばあちゃんに任せるので」

「そのおばあちゃんは、いつ来るんだ?」

「今から」

「そういうことは早く言えよ。片付けがーー」

1時間後ーー

「どうも、こんばんわ・・・」

背骨がしゃっきりした小綺麗な老婦人が、迎えにいった花邑杏子と一緒に、玄関前に立っていた。

「今日はよろしく」

早速、台所へと案内する。

「綺麗に使ってるね。牡蠣はどれ程あるのかえ」

「25kgあります」

「随分と張り込んだねえ。まあ値段は聞かないでおくけどもーー」

花邑杏子が不安そうに聞いた。

「あのーー大丈夫そうですか?」

おばあちゃんは笑顔を見せた。

「大丈夫。お任せあれ」

「ではお願いいたします」

花邑杏子は、奥から義範秘蔵の『東雲うみパイプ椅子』を持ち出し、彼女が仕事をしやすいように場所を整えた。

「それでは・・・」

ここからは、二人はおばあちゃんの神技を目撃者となったーー

その鮮やかな牡蠣剥きに、ただただ目を見張るばかりであった。

「いけない。見とれてる場合じゃない。僕も仕込みしなきゃ」

鮟鱇の肝も鱈の白子も、それぞれ10kgずつあるのだ。

義範の部屋にある、一番大きい雪平鍋にお湯を沸かし、鱈の白子を切り分け、塩茹でする。それを冷やすための氷は、近所のコンビニで大量調達。鮟鱇の肝は、ひたすら血抜きして、軽く塩をし、蒸すのだが、そのための大きい蒸し器と肝を入れる金属製のバットは、花邑杏子が用意していた。

義範は黙ってられなかった。

「お前んちでやった方が良かったんじゃないのか?」



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