シャドバ・ジャニーズは橋本環奈になりたい。と、領域展開しながら思った。
缶コーヒーを蹴り上げると、思ったより強く蹴ってしまったのか、空を飛んでいる飛行機の翼に命中してしまった。
大穴の開いた翼では飛行機は飛ぶことが満足にできず、どこかへと墜落していく。
参ったなぁ。こんなことをしているんじゃあない。僕はこれから、病院に行って、風邪薬をもらわないといけないのだ。
家では、年老いた母が風邪で寝込んでいる、というわけではなく、ただ、私が風邪をひいているだけだ。
病院へとつく。京都でも有名な桐生会という立派な病院だ。立派なのは建物だけで、勤務しているスタッフや医師の腕はあまり良くない事で地元では有名である。と、いうよりも、せっかくならば日本赤十字病院もあるし、医療センターもあるのだから、わざわざ評判の悪い病院に行く必要はないのだ。
しかし、家に近いこのカス病院を選ぶのは仕方ない。
「ちょっと、そこのお人」
白衣の医者がやってきていた。名札には東と書かれている。
「見るからに風邪じゃないか。診てあげよう」
「いいえ結構です」
「いいや、見るからには、診る。どれ、弁慶の泣き所からカイワレ大根が生えている。これは安部公房病だね」
見れば、医者の言う通り、膝からカイワレ大根が生えてきていた。
ありえない。
そんなはずない。
「やはり、専門の医師が診察しよう」
「いえ、私は風邪薬が欲しいのです」
「そう、意地を張るのならば、仕方ない」
医師は、財布を取り出すと一枚の紙きれを見せてきた。
「術式展開、医療同意」
突如、私の身体はオペ室へと移され、手術台へと拘束された。手術台の周りには、手術着を身に纏った看護師がずらりと並んでいる。普通の看護師と違うのは、顔が緑の布切れで隠されており、素顔を伺い知ることが出来ないという点だ。
なにが起きたのか理解できない。
「ふむ。では、オペを始める。手術して、頚椎を切断する。それしか助ける術はない!」
「な、なにいいい?!」
頚椎を切断。
たったそれだけの短い語句であれども、そのやばさはすぐに認識できた。
まずい。まずすぎる。攻撃されている。この東という医師は私に害をなそうとしている。
おそらく、さっきの紙切れが何かしらの能力の発動条件。その条件を私は踏んだ。
ならば、どうするか、決まっている。
「おい。先生。手術だけどよ」
「うううん、オペするよおお、すっごくする。断ったらわかるよねぇ」
興奮気味の東が白衣姿で近寄ってくる。手にはドリルと鋸がある。
「違う。オペは、受ける。しかし、今、じゃあない」
「なに?」
「今、がいつ、か、わかってるのか?」
「えぇ?」
「今は、日曜日、だぜ? 働きすぎは良くない。わるいな、発動条件だ」
「領域展開、未完日曜」
突如、オペ室がいつものお茶の間に変わる。一家の大黒柱、母親、娘と、その婿。子供たち三人という組み合わせの中、東医師が混じって並んで座っていた。突然の出来事に東が戸惑っている。
「おい、サザエ。お客さんかい?」
「えぇ、東医師っておっしゃるの」
「へぇ、お医者さん。それはすごいねぇ」
次から次に質問や言葉が飛んでくるのを、混乱した東医師は対応することが出来ない。
子供たちが東医師を取り囲む。
「僕が風邪をひいたら治してよ」
「お兄ちゃんズルい、あたしも治して」
「ぼくも治してほしいですー」
「林檎くえええええええ!!」
林檎を握った私の拳が、東医師の顔面に叩き込まれた。林檎が赤くなれば医者が青くなる。林檎の免疫能力の高さは素晴らしい。虫歯菌にも効果がある。それで顔を殴られたら、どうしようもないだろう。医者には林檎が特別にダメージを与えることが出来る。もしくは
東医師が、顔を腕で覆った。防御だ。
私は、耳元で叫ぶ。
「素人質問で恐縮ですが」
「はっ」
「ボディががら空きですわよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
左の拳に柿を握りしめて、東医師のブローを抉る。
あまりの苦痛に東医師がガードを緩めた。所に、アッパー気味に拳を叩きこむ。すると、あおむけに倒れた。
「林檎! 林檎! 林檎!! ジョブズ右う右う右う右う」
路上最強ポジション、喧嘩最強ポジションのマウントを私はとった。
右の拳が東医師に叩き込まれ続ける。医者だろうが、何だろうが、所詮は人間だ。偉いことはない。偉いとしてもそれは社会的な場において偉いという事であり、戦場では誰しも価値はない。戦の場において全ての命は等しく無価値だ。それは、さながら、銀行口座の一円のように。
東医師が私の拘束から抜け出す。
が、
「今日もいい天気いいいいいいいいい」
女性がいきなり走ってやってきた。見れば、後ろに家族が引き連れて走ってきている。
逃げ出そう、としたのも遅かった。走ってきた一家に巻き込まれてしまう。抜け出そうにも抜け出せず、そのままに、一つの家へと巻き込まれるように押し込まれてしまった。外観から見ても、家が歪み変形するほどの激しい入居に、もみくちゃにされた東医師は、体中を複雑骨折していた。
見れば、いつしか、桐生会病院にいた。
ロビーでは東医師が倒れている。その関節はあらぬ方向へと曲がってしまっていた。
「きゃ、きゃあああああ」
外来に来ていた女性が悲鳴を上げた。受付は面倒くさそうに電話をかけ、それを受けた看護師が面倒くさそうにやってくる。
私は東医師の財布が落ちていたのを見つけ、拾い上げる。
中から取り出した紙きれは、医師免許だった。
「医師免許を見せる。これが条件だったのか。なるほどね」
もう、動かなくなった東医師を尻目に、私は病院を足早に出て行く。
「ま、これで、もう動けないだろうな。AEDってやつだ」
やはり、よくわからない評判の悪い病院よりも、国営のきちんとした大きい病院に行く方がいい。
熱を持った頭で私はそう考えた。