【短編】あの桜の樹の下には
いくつか掌編の怪談が出来たので、先にそちらを投稿していきます。
夏は終わりましたが、少しだけお付き合いください。
「桜の樹の下には死体が埋まっている!」
そんなことを書いたのは、梶井基次郎だったか。
その物語の中では、見事に咲いている桜の美しさを不思議に思い、考えに考えた結果、死体が埋まっているからだという見事な推察に辿り着いた。
彼(作者ではなく物語の主人公のことだ)は、桜がその死体たちから吸い取る様を空想した。そして、その上で宴会を繰り広げる村人たちと同じ権利で花見の酒が飲めると言ったのだ。
つまり、それまで彼は花見の酒を飲む権利は持ってなかったということになる。
ところで、僕の通っている高校にも桜の樹がある。
満開になれば、地元のニュースで取り上げられるくらいに有名な桜の樹だ。
正門の近くに植えられているから、地元の人やたまに観光のついでに寄ってくる人もいる。
それほど綺麗な桜の樹があるのだ。
ならば、死体が埋まっていないとおかしいだろう。
もちろん、あれは物語だ。空想だと彼も断言している。
だが、この桜の樹もそうである必要はないだろう。
だから今、こうやってシャベルを持って、夜中にここに来ているのだ。
僕は小柄だから、そんなに大きく掘る必要はないだろうが、誰か来る前に終わらせなければ。
よし。もう少し掘れば、十分入るだろう。
掘り進めると木の根ではない何かにシャベルが当たった。
「なんだ、もう先客が居たのか」