sweet or bitter?~甘くて苦い恋の味~
バレンタインは、誰しもワクワクソワソワするものですよね。
今回は、そんなビックイベントで起こった、小さくて大きい風景。
甘いチョコとほろ苦いチョコ、皆さんはどちらがお好みですか?
「ねぇ、今年は誰かに本命あげるの?」
「え~、まさか。義理だよ、義理。」
帰り道、友達と並んで歩く。
街には、Perfumeの"チョコレイトディスコ"や、家入レオの"チョコレート"なんかが競うようにかかっている。
そう、もうお分かりだろう。
明日は2月14日。
女の子の決戦の日、バレンタインデーだ。
色んな所で、色んなチョコが沢山売っているけど、多分明日になったら殆ど無くなっている筈だ。
「やっぱりみんなそうだよね。ねぇ、加奈子は?」
言われてハッとする。
「え? う、うん、私も義理かな。」
「え~、怪しいな~。」
「本当だって~。」
じゃれあいながら歩くのは、親友の恵子と奈緒《なお》。
二人ともごめん。
親友だけど、嘘つかせてね。
だって今年は、今年だけは、失敗するわけにはいかないから。
二人と別れて、家路を急ぐ。
今年はトリュフにしようと思っていた。
時間と手間が掛かるから、早く帰って、明日に間に合わさなければいけない。
「うわ、急がなきゃ。」
家に帰り、即座に着替えて台所に向かう。
材料は購入済み、あとは作るだけだ。
アイツの事を想いながら、真剣にチョコと向き合う。
学校でも仲の良いアイツ。
笑顔が可愛くて、みんなのムードメーカー。
一緒に遊びもに行くし、祭りにだって、みんなと連れだってだけど一緒に行った。
大事な大事な友達だった。
そう思おうとしてた。
なのに…、いつの間にか大好きになってた。
"好き、大好き"
そんなありきたりな言葉だけじゃ言い表せないぐらいの想いを、チョコに込める。
アイツの喜ぶ顔が見たくて。
「早く寝なさい。」
「うん、もうちょっと。」
そう言われたのは、確か9時頃。
終わったのは、夜中の11時を回ってた。
次の日、みんながドキドキ、そわそわしてる。
勿論私も。
喜んでくれるかなとか、受け取ってくれるかなとか、不安と期待が入り交じる。
"どうか受け取ってくれますように!!"
そう祈りながら、長い長い授業をひたすらこなす。
6時間目が終わって放課後、アイツにチョコを渡すためにクラスを見渡す。
"居た!!"
見つけて、駆け寄ろうとするけど、その足が止まった。
クラスのマドンナである櫻井さんから、何か渡されていたから。
"何か" は見えないけど、四角い箱のようなもの。
今日渡す物って言ったら決まってるから、多分チョコだと思う。
アイツの、照れて綻ぶ顔が見えた。
「っ…!!」
私は何故か、チョコを持ったままその場から逃げ出していた。
走りながら、まるで目の前に居るかのようにフラッシュバックする。
可愛くて美人で、男子は勿論、女子からの人気も厚い櫻井さん。
才色兼備とは、恐らく彼女の為にある言葉だろう。
その櫻井さんに先を越された、その事実とあの雰囲気、そして、アイツの顔。
告白する前にフラれるとはきっと、こういうことを言うんだろう。
記憶を消したくて、無我夢中で走った。
何処をどう走ったのか、気付いたら公園のベンチに座っていた。
冷静になって頭を整理する。
照れたアイツの顔を思い出したら、腹が立ってきた。
「あ~、もう!!アイツにチョコなんかあげない!!全部食べてやる!!」
綺麗に包んだ包装紙をビリビリに破いて、箱の蓋を開ける。
そして、入っているチョコの一つを口に放り込んだ。
チョコの甘さと風味が口いっぱいに拡がる。
ちょっぴり苦味があるのは多分、周りに満遍なくまぶされたココアパウダーだと思う。
一つ一つ、チョコを口に運びながら、思うのはアイツの事ばかり。
アイツの優しさ、脆さ、儚さ…。
怒った顔、泣いた顔、笑った顔、そして、眼差し。
最後の二つは多分、今頃櫻井さんに向けられているはずだ。
「あ~、もう腹立つ!!」
腹が立つと言いながら、募るのは、愛しさ、悔しさ、狡さ。
"何で自分はあの子じゃないんだろう。 何であの笑顔は自分に向けられたものじゃないんだろう。 何で? 何で…?"
隣に居られないことがこんなにも歯痒くて、櫻井さんへの羨ましさや、憎しみばかりがどんどん湧いてくる。
"櫻井さんなんて居なくなってしまえば良いのに……"
「え!?」
思ってしまってから、ハッとする。
そ れと同時に、自分がこんなにも嫌な女だった事を自覚した。
「ハハッ。私ってこんな女だったんだ。」
"こんな嫌な女じゃ、健の隣に居られるわけないよね……。"
俯いて、もう二つしか残っていない、バレンタインチョコを見る。
その一つを手に取り、口に入れた。
甘いチョコ。
なのに何故だろう? 最初より苦味が増した気がするのは。
最後の一つを、手に取ってゆっくり眺める。
手に付いたり、ポロポロ落ちるココアパウダー。
体温でゆっくり溶けてくる丸い球体。
これが、アイツへの愛情の最後の一粒……
眺めたあと、口に含んでゆっくり味わう。
私が使ったのはミルクチョコだったはず。
なのに最後の一粒は、いつの間にかビターチョコになっていた。
それは、口の中に苦さだけを残して溶けていった。
まるで、チョコに込めた私の愛情みたいに。
「あーあ、もう、無いや…。」
空になった箱を見つめる。
そこに、一粒水滴が落ちた。
"雨かな?"
そう思って空を見上げると、相変わらずの曇天模様だけど、降ってはいないようだ。
けれど、私の手に、服に、水滴は落ち続ける。
「あ、あれ?」
雨じゃなく、落ちているのは……
「私、泣いてる?」
思わず頬を触って確かめた。
どうやら、気持ちを押し込めても、体は心に正直なようだ。
「ウッ……、ヒック。」
この溢れる涙を、感情を、止める術を私は知らない。
やっぱり私は……
「健の事が、誰よりも好き……。 大好きすぎるよ……」
好きで、大好きで、どうしようもないぐらい愛しい、だから……
"神様、もし、もし私の我儘が許されるなら、この想いを持ったまま、ずっと彼の側に居させてください……"
隣でなんて言わない。
友達でも我慢するから、ずっとずっと、側に居たい。
「それ本当に?」
頭の上から、声が聞こえた。
「えっ!?た、健!?」
「よう。ていうかさ、何で泣いてんの?」
そう言って、少し困ったような笑顔を見せた。
「な、泣いてなんかないよ。」
慌てて手の甲で涙を拭う。
「目赤いし、潤んでる。それに、」
健は私の目元に指を当てて、
「まだ拭いきれてないよ、涙…。」
その指にそっと滴を乗せた。
「…………」
私は何も言わない。
「なぁ、今俺に渡す物、何かある?」
何を欲しがっているのかは分かっている。
「もう欲しい物は持ってるでしょ……?」
ぶっきらぼうにそう返事を返した。
私のは、淡く溶けて、無くなってしまったから。
「まさか全部食っちまったのか!? 一つも残ってないのか!?」
吃驚する彼とは逆に、無言で頷く私。
すると、健は顎に拳を当て、考え込むような仕草をする。
そして、突然私を見て、ニヤリと笑った。
―――チュッ――――
「ごちそーさん。返せって言っても、もう遅いからな。」
「何で……?」
キスなんか……。
櫻井さんにチョコ貰ってたのに……。
「何でキスすんのって顔してるな。」
「そうだよ!! 何でそんな事するの!? 私じゃなくて櫻井さんの所に行っ……!!」
「貰ってないから。」
真顔でそう言う健に、私は言葉を中断されて、たじろいだ。
「渡されたけど受け取らなかった。だから今年の俺はさっきのお前の一個だけ。いや、一回?」
"えっ?じゃあ…。"
そう言われて色んな想いが交錯する。
そしてもう一粒、滴が落ちた。
「ほら、また泣くし。」
目の前には、ずっと焦がれ続けた満面の笑顔。
「おっ、雪か。」
空を見上げた。
厚い雲に覆われた空からは、真っ白い雪が後から後から降ってくる。
それは、チョコに振りかけるシュガーパウダーのよう。
今までに見たどの雪よりも、綺麗で、幻想的で。
「明日、積もるかもな。」
私は、今の景色と目の前にある愛しい笑顔を、恐らく一生忘れないと思う。
~Your forget memorys to Valentine Day?
甘い甘いミルクチョコと、ちょっぴり苦いビターチョコ。
貰うあなたにもあげるあなたにも、ハートの想いで満たされるバレンタインになりますように~
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今作は、大昔に書いたバレンタイン作品を少し手直ししたものになります。
前作より散文で短文、文章も稚拙ですが、コメントや評価していただけると、作者がチョコより甘い愛情と感謝、抱擁をお届けいたします。(要らない?まぁそう仰らずに)
ではでは、また次回作でお会い出来るのを楽しみにしています。