感謝「ありがとう」
目覚ましが鳴り響き眠りから冷めた僕は欠伸をしながら、リビングに向かう。そこには母親が忙しそうに弁当の準備をしていた。
「おはよう早く支度しなさいよ」
そんな声に僕は少し苛立ちながら「分かってるよ」と返事を返す。
洗面所で顔を洗いリビングに戻ると、いつの間にか用意されていた茶碗に炊きたてのご飯が入っていた。そしてその横には野菜炒めとインスタントの味噌汁が置いてある。
僕は椅子に座ると、さっきの仕返しとばかりに声を上げ不満を漏らす。
「うわ、インスタントの味噌汁?たまにはちゃんと作ってよ」
そんな僕の不満に母親は「残さず食べるのよ」と言っておかずを弁当に入れていた。
僕はインスタントの味噌汁を少し残し、身支度を済ませ玄関に向かう。扉に手をかけた時いつの間にか後ろにいた母親に「行ってらっしゃい」と声を掛けられたが、僕は何も答えず家を後にした。
冬の寒さに身体が震えるながらもしっかりと足を動かし学校に向かっていく。少し歩いて行くと体が暖まるがそれでもまだ寒い。たまに冷たくなった手に息を吹きかける。そんな事をしているうちに通う学校が見えてきた。
学校に入ると暖房が着いていたのでつい眠くなってしまう。眠気に抗いながら階段を上り自分の教室に入り席に着くと、こちらに気づいたのか、友達の雅也が話しかけてきた。
「拓也今日も相変わらず不貞腐れてるな」
「別にそんな事ないよ、ただ母親が朝からうるさくてウザかっただけ」
「相変わらずだなお前は」
呆れたような顔つきの雅也に僕は少し苛立ちながら、聞き返す。
「何が?」
「俺は母子家庭だからよく分かるんだけどさ親の有り難さか分かってるか?お前はいつも弁当作って貰ってるだろそれだけでも相当手間が掛かるんだぞ」
雅也の言葉に僕は言い返すことが出来なかった。僕は当たり前だと思っていた。それがどんなに大変な事か考えたこともなかった。そして自分の行動を振り返ると、自分は親に文句しか言ってなかった。
「たまには感謝した方がいいぞ」
雅也の言葉に僕は静かに頷いた。
お昼休み弁当の蓋を開けるとそこには自分が好きな食べ物が沢山詰まっていた。そしてどれも手作りだった。
朝早く起きなければこれだけのおかずを準備する事は出来ない。この弁当だけでどのくらい時間が掛かるのか僕には想像出来なかった。
弁当を食べながら家に帰ったら「いつもありがとう」と伝えようと心に決めた。
家に帰ると僕に気付いた母親は「お帰り」と優しい声で出迎えてくれた。僕は「ただいま」と返し恥ずかしさに負けないように母親に感謝の言葉を告げようとする。
「お母さん、いつも、あ…た、たまには弁当のおかず冷凍食品でいいから!」
ありがとうと言おうとしたけど僕は恥ずかしくてはぐらしてしまった。そんな言葉に母親は少しキョトンとして、察してくれたのか顔を綻ばせて「今日の夕御飯はインスタントの味噌汁を出すね」と答えた。
夕飯のインスタント味噌汁はいつも以上に美味しかった。
当たり前だと考えずに「ありがとう」を伝える、それだけでお互い心が暖かくなります。




