独白 『ユーラ』
――ゆーらのなまえは、ゆーらっていうの。
ゆーらのねがいは、お兄ちゃんと一緒にいること、ただそれだけ。
でも、そのためだったら、全てを捧げられる自信がある。
ほかの人間には絶対に代えられない。ゆーらだけのお兄ちゃんだから。
自分でも分からない。なんでこんなことになってしまったの?
ある日から突然、毎日が崩れた。一番初めに感じられたのは、みえるすべてが真っ赤にそまっていたことくらい。
そのつぎに頭のなかと、心臓と、おなかを貫かれたような、
痛みはあるけど、でも気持ちが悪いくらいに安らかな感触があった。
そのとき、微かだが何か聞こえた気がする。凶悪で悍ましいものだったけど、多分女の子の声。
“助けなきゃ、助けなきゃ”って憑り付かれたように何度もつぶやいている。
どういうことかはわからないけど、ずいぶんと焦っているようだった。
そして長い悪夢から目が覚めて、周りを見渡すと化け物だらけ。
殺されるかもしれない。殺されるだけならまだましかもしれない。
いたぶられた挙句に、汚されるかも。恐怖で正しく息ができなくなった。
お兄ちゃんが近くにいる。ずっと一緒にいたんだからいるはず。助けにきてくれるんだと。
勘違いだった。来てはくれたけど、待っている時間が辛かった。
でもこれはユーラがわるいの、勝手で一方的なおもいこみをしてたから。
お兄ちゃんにはお兄ちゃんの事情があるんだから、全部ユーラにつくしてくれるわけじゃない。
でも、化け物を追い払って、ずっと一緒に居てくれるって居てくれた時は本当に嬉しくて、安心できた。
なのに、おきたら今度はいなかった。
また化け物がたくさんうようよしていて、ちいさい部屋に閉じ込められた。
“私たちと一緒に暮らしましょうね”
“ここには誰も来ないから、安心して”
明るい声で宥めるように話しかけてくる。
お兄ちゃんが傍に居ないのに、安心できるわけがない。
その時だけは、化け物たちに怒りの感情を覚えた。
お兄ちゃんを探しに行こうと、何度も逃げ出そうとしたんだけど、何度やっても見つかって連れ戻された。
逃げられないよう左手に鎖が繋がれて、ここが墓場になってしまうのかもしれないと、体が震えた。
暗くて、寒くて、静かすぎる。
まるで、日の光が届かなくて、出口もない森に閉じ込められたような。
音が聞こえない水の中に沈められたように、五感の全てから痛みを感じた。
絶望に苛まれて頭がどうにかなっちゃいそう。
抜け出そうとしても変わることのない景色がつづいてくるだけ。
例え希望が手の中にあったとしても、すぐに零れ落ちる。
手を伸ばして集めようとおもっても、掴み切れず遠くへいってしまう。
その度に心がどんどん黒ずんで、剥がれ落ちて、少しずつ壊れていく。
もうだめだとおもって、感情を手放そうとおもっていた時。
お兄ちゃんはまた、そこからゆーらを掬い上げてくれた。
新しく二人で暮らす家まで用意してくれて
お兄ちゃんはたぶんだけど、つよい人間じゃないとおもう。
一緒に居てなんとなく感じたことなんだけど、奥底に秘められた潜在的な力も全くない。
でも、だからこそ、弱い自分が足手まといになっちゃだめだと感じた。
でもそうおもったとたんに、とても嫌いなものが出来た。それはゆーらという少女のこと。
もっと自分に力があったなら、技術や能力があれば、頭の回転が速かったならば、
いやだ。いやだ。自分がいや。とても憎らしい。弱い自分を受け入れられない。受けいれたくない。
だからお兄ちゃんはゆーらを見捨てようとしたのかな?
そんなわけないと分かっていても、不安にむりやりかんがえさせられる。
そんな時は、心身を守るためにあの言葉を想いだしている。ゆーらを愛しているっていってくれた記憶を。
なんであの時、自分からあんな言葉がでてきたのかはわからないけど、
それでも受け入れてくれた。言葉だけでもうれしくて、心が満たされる。
だから、ユーラはお兄ちゃんに恩がある。報いなくちゃいけない。
同情で護られるようでは、どこかで道ずれにしちゃうかもしれない。すこしでも役に立たないと……
おそとにでかけなくちゃいけないっていうのも、もちろん、わかっているつもりなの。
二人の生活のことを考えてくれているからこそ。なのにただわがままだっただけ、向こうは迷惑でしかないはずなのに。
でも、さっきは一人でいるじかんがあまりにもながすぎて、
声がきこえたときには嬉しすぎて、とっさにだきついただけなの。
甘えるのはこれで最後にしようとおもった。
今までだときっと、わがまますぎる。もっとゆーらがつかえればいいのに、
いくらやさしいお兄ちゃんでも、そのうちみすてられるかもしれない。
でも、あさのやくそくだけは……
もちろん、お兄ちゃんの事は大好きだけど、結ばれたいとまではおもわない。
棄てられて一人ぼっちにされるよりは、ずっといい。
別にほかのどんな人間と、どんな関係を持ったってきっと構わない。例え女性で、男女の関係であろうと、
その時にゆーらを傍においてくれるなら、心の底から報われたきがする。
本心じゃないけど、高望みはしない。




