第六十九話『再会』
――振り返ると彼女がいた。
最近どこで何をやっていたかも分からないかの者が、
日の光で、緑の黒髪に光沢を出した。
風に不自然に靡かせてライラはすぐ後ろの扉前に立って居る。
その顔は少々不気味だったと言わざるを得ない。
瞳はただ真っ直ぐ一点を見つめるだけで、感情らしい感情が感じ取れない。
なのに、顔の下半分を見ると口を噤んで口角が上がっており、笑顔だという事が分かる。
以前と全く同じであれば、怖じ恐れの方が強かっただろう。
そう、以前と同じであればだ。
雪原のように美しくも、病人のような白い肌ではなくなっている。
まだ白には違いないが、それでも血が通ったような、人間らしい肌色だった。
そして、瞳にも輝きが灯っている。それでも無機質なことに変わりは無いのだが、
全ては前にゼントが彼女に言ったことだ。
以前よりも亜人ではないのかと疑われてしまうことも無い。格段に人間らしい姿だ。
だがしばらく会っていないというのに、それ以外は何も変わってない。黒く大きなコートも雰囲気も何もかも。
「――あ、ああ、久しぶり」
ユーラへの説得の最中、流石に唐突過ぎた。
後ろから突然現れ、話しかけられて背筋が凍る感触がある。
思ってもみなかった存在に、頓狂気味な声を出した。
「今までどこにもいなかったのに、どうして急に……?」
取り繕ったように続けるが、驚きの表情は隠せていない。
「それはゼントが困っているからだよ」
彼女は破顔する事無く言い放った。
部屋の奥に居るユーラには目もくれない。
相変わらず、表情からも声色からも感情が読み取れなかった。
ちょうど困っていたのは確かな事で、どうしようも無かったのも事実だ。
だがゼントは彼女の言う理由に、いまいち納得できなかった。
しかも約二週間も姿を見せなかったのに、今になって時機が良すぎる。
折角、晴れて冒険者になったというのに、ほっぽり出してどこで何をしていたのか。
竜を倒せる実力があるのなら、生活に困ることは無いだろうに。
目の前の事に返答するもそうだが、それ以上に様々な疑問が湧き出て来た。
だが、ゼントが声を上げる前に、彼の後ろから袖を引っ張られる感触がする。
「ねえ?いまはゆーらとおはなしをしてるんでしょ?なんであとからきたおんなのひととはなすの?」
後ろを振り返るとユーラが訝しげな目で見てきていた。
瞳から出かかっていた涙は無くなっている。
ゼントはまた、状況に挟まれた状態になってしまっていた。
「ユーラ、悪いが少しだけ待っていてくれ、これが終わったら考えるから」
「うう、ゆーらがさきなのに……」
そう不遇を漏らしながらも、順番を譲ってくれる。
とてもありがたい事に聞き分けが良く、手間がかからない。
眉をひそめるユーラに、気休めに精いっぱいの笑顔を振りかける。
「……それで、色々聞きたいことはあるが、手を貸すとは?」
「そのままの意味だよ。何か私にしてほしい事があるんじゃないの?」
振り返りなおすと、表情を怪訝に戻してライラに問う。
だが彼女は代り映えしない回答だけを返す。
「そうか、じゃあせっかくだからすこし頼もうか。もちろん経費と報酬は出す」
「うん。なんでもするよ」
訝しげだがそう言うと、彼女は喜んだような声で、顔には更に笑みが刻まれる。
今手助けが必要な物、それは
「今から言うものを買ってきてくれるとありがたい」
すると、途端に彼女の顔が分かりやすく不満に歪んだ。
ゼントは続けて問う。
「どうした?依頼が簡単すぎたか?」
「他には?他には何かあるでしょ?」
ライラは訴えかけるように問いただしてくる。
ゼントはしばらく考え込んだが、何も出てこない。
今、一番優先させるべきはユーラの事だ。
ならば食料の買い込みを任せるのが自然で、当然の流れだと思った
それは彼が深く考えてなかっただけかもしれない。
他に、本当に必要な助けがあったのかもしれない。
「申し訳ないが今やってほしい事はそれくらいだ」
「へぇ、そうなんだ」
「……何か言いたいことでもあるのか?」
「……無いよ。何も……」
それはもう、互いに探り探りだ。
意味深とも思える発言に、ゼント不審感を覚えるも、その正体は掴めない。
「それで、何を買ってきたらいい?」
「主に食料と……保存食じゃないやつだぞ。それから生活に必要な家具や器具の事前注文と、それから……」
「待って、やることが多くて覚えられない。もうゼントが行ってくれば?」
「俺はここに居なくちゃならないんだ。だからお前に頼んでいる」
「なんで?」
「ユーラの傍に居てやりたいからだ」
そう言うとライラはユーラの方をちらと見た。
視線を送ったのは、ほんの少しだけだったが、見られた彼女はゼントの後ろに隠れてしまう。
ライラの顔が一瞬、ひどく不愛想になっている気がした。
「ふーん。でもやっぱり覚えることが多い。せめてメモとかしてくれない?」
「えーっと、紙も書く物もここには無いんだ……」
「大丈夫、私が持ってるから」
苦笑いしながらゼントを他所に、彼女はどこからともなく、小さい紙きれと羽ペンを取り出した。
さらにはインク瓶までも懐から取り出す。何故そんなもの持ち歩いているのか。
そして、ゼントは困ってしまった。




