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第五十一話『末路』

 



「――ユーラを……教会に預けようと思うんだ……!」


 ハイスは言い淀みながらも、辛い言葉をはっきりと言い切った。



「何を言っているのか分かっているのか?それは……」


 ゼントと二人、見合って話し合いをしている。

 診療所の一室、片やベッドに腰掛け、片や立ったままの状態。



 彼の言う、“預ける”というのはつまり、修道女として教会に幽閉するということだ。

 実際この世界では、心神喪失者を教会へ預けることはよくある。悪い言い方をすれば、体のいい預り所だ。

 そして預けられたほとんどの人間は、修道者となり周囲から忘れられ生涯をそこで過ごす。


 宗教自体が悪という印象はないが、そんなところへユーラを移すなんて正気じゃない。

 だが彼の真剣な表情を見たら、適当を言っているわけでは無いと確信できる。

 横に立って居たフォモスが補足するように説明を加えた。



「以前話を聞いたとき、万が一の時の為に考えていた案です。丸一晩対話を続けてわかりました。何度根気よく説明したところで、受け入れてくれない。今の彼女は、もう我々の手には負えません。ユーラは教会の孤児出身ですし、あちらも受け入れてくれるでしょう。これが彼女にとっても最善だと判断しました」


「いや、でもまだ記憶が戻る可能性はあるって……」



「例え時間を掛けて元に戻っても、正常だとは限りません。先輩が体験したという会話が通じないままの可能性だってあるんですよ?……安心してください。もし、完全復活を遂げたのなら、また以前のようにパーティーを組みます」



 確かに理解はできる。フォモスの理論武装は完璧だった。

 だが理解できるだけだ。実際に行うのとでは話が違う。


 何とかやめさせたいとゼントは思っていた。

 その方法を彼は知っているのに言い出せずにいる。



「それは……ちょっと仲間として薄情すぎないか?」


 出し惜しみをして、代わりに情に訴えるも弱すぎる反論だった。

 ゼントの尻込みする態度に、フォモスはやや不機嫌になり、語気を強めて言った。



「じゃあ、あなたがユーラを引き取ってくれますか?先程お医者様がおっしゃった通り、彼女の精神は幼児退行している。しかも接した感じかなり幼く、思考も幼子そのものです……先輩が彼女を守りきると誓えますか?」


「…っ………!」


 何か言葉を紡ごうとするが、喉まで出かかったところで途絶えてしまう。

 ハイスは目を瞑り、首を横に振りながら答える。



「……即答できない時点で、この押し問答に意味はありません。最初に言った通り、これは我々のパーティーの問題です。熟考した末の結論だという事にご理解ください。彼女も成人しているんです。何があったか詳しくは知りませんが、自身の不注意が招いた結果という事は十二分に分かっているでしょう」



 ……言論により完敗したゼント、だが横から医者が救いの手を差し伸べる。



「私は部外者ですが医者の立場から言わせていただきます。その案には賛成しかねます。先程のユーラさんの状態を見たでしょう?やはりゼントさんが傍に居てあげた方が、彼女にとっての最善だと思います」


 専門家の意見というのはゼントのとは違い強力だった。

 だがフォモスは、首を横に振り続ける。



「それが理にかなっていたとしても、先輩が現れた時の変わり身は異常過ぎます。他者へ著しく執着したままでは、どちらにせよ将来困るでしょう?であれば修道女として毎日神に祈りを捧げ、心の拠り所とした方が、心身ともに健康と言えませんか?」


 フォモスは口喧嘩において実に優秀だった。言い争いで彼の右に出るものはまずいない。

 飛ぶ鳥を落とす勢いで、助け舟を出したはずの医者すらも黙らせてしまう。

 ハイスに至っては俯いて、ただ茫然と眺めているだけだ。



 彼らを非人道的だと考える人は少なからずいるだろう。

 ずっと苦楽を共にしてきた仲間だというのに、あんまりな仕打ちではないかと。


 違う。そうではない。大切な仲間だからこそ、このような処置をするのだ。

 冒険者というのはそもそも、利害の一致があってパーティーを組んでいる者が多い。

 二名以上で依頼を受けなくてはならないという協会の規則、それだけのために。


 故に足手まといではチームを解消される。益があるかどうかだけが、冒険者本来の絆だ。

 表沙汰には出てこないが、戦場の真っただ中では切り捨てられることすらある。



 それを考慮すると、彼女の今後を考えているフォモスらの対応が柔らかく見える。

 教会に預けられたところで、今生の別れというわけでもない。

 何もしないよりは、はるかにましだ。


 それでも、彼らが人でなしだと言うのなら、

 真の最善ともいえる手段を持ち合わせているのに、口に出せなかったゼントも同罪だ。




 ひんやりとした部屋の中で、数十秒の不快な空気が場を覆った。

 自身の血の流れが止まったような恐怖がゼントを襲う。

 さすがの彼でもこの結末は予想外だった。


 視線を横に振り下ろすと、どこまでも幸せそうに眠るユーラ、

 対称的に、他の四名は重苦しい雰囲気を身に纏っている。



「最後に少しユーラと話させてくれないか?聞いておきたいことがあるんだ。俺なら対話もできるかもしれない」


 静寂の中、ゼントは歯ぎしりをしながらそう切り出した。

 彼女の様子がどんなものかまだつかめ切っていない。

 確かめねばならないこともたくさんある。


「どうしてもと言うのなら……でも、協会の件等、余計なことは教えないでください。暴れられても困るので……」


「分かった……」



 そのまま彼らはユーラが目覚めるのを待つことになる。

 彼女の想像と矛盾が起きるような質問はできないが、それでも……


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