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第四十九話『独話』

 



 ――事の経緯を述べよう。




 ユーラには微かに息が残っていた。

 例え死んでいることが分かっていても、あの場には残さなかっただろうが…



 入り口に居た冒険者が中に居たカイロスを呼び、俺とユーラは保護された。

 鎖の手枷は剣で叩き斬ってもらい、ようやく自由の身に戻る。

 ユーラは医務室に運び込まれるも、目立った外傷はなく、化け物に何をされたのかは分からなかった。

 強いて言えば、右腕全体が軽く痣になっている程度で、命に別状はない。


 今日一晩は協会の医務室に置いてくれることになった。

 出来ることは精々服を着替えさせることくらい。

 意識の回復を待つ他なかった。



 カイロスもユーラの失踪の件は頭に入っている。

 やはり、彼女が言っていた恋人どうこうは真実ではなかった。

 懸念していた時間の経過も、一日しか経っていない。


 何があったのか、明細に報告する。

 ユーラを見つけた事、赤い巨大な腕に遭遇したこと、


 だけど彼女が俺にしたことは、何一つとして言えなかった。

 未来もない俺のせいで、ユーラの印象が悪くなることなどあってはならない。

 偶然見つけて、招かれた部屋で話を聞いていたら事件に遭遇したと伝えた。



 夜も更けようという時間帯、

 魔獣と思えない化け物が町中に出たという事で、非常事態として対応してくれた。

 協会に残っていた冒険者で緊急討伐隊を編成して、俺も証人という事で一向に同行する。

 こういう柔軟な対応がカイロスの強みでもあった。


 だけども…………




 冒険者らが突入し、部屋を見渡すも…………

 腕の化け物どころか、赤黒い天井すら無かった。

 あるのは、ベッドと椅子だけの明るい色で静謐な空間、


 無論、部屋を隈なく調査した。

 天井はもちろん壁や床の隅まで、


 俺も何度も弁明したが証拠が一切なく、結局討伐隊は解散する。

 しまいには、俺がユーラに何かしたのではないかと、あらぬ疑いを掛けられる始末。


 戻ってからカイロスに根掘り葉掘りと聞かれ、事を荒立てぬようにと注意される。

 化け物の正体は分からず、嘘つきとしての俺の悪評がまた広まった。

 最後の希望は、被害者である彼女に証人となってもらう他に無い。



 フォモスとハイスにも忘れずに報告した。

 彼らは恭しく感謝の言葉を述べ、翌日見舞いにも向かう。


 以前からずっと様子がおかしかったことも、彼らだけには詳細を教えた。

 錯乱状態で不可解な言動をしていた事、何者かに精神を操られているかもしれない事。


 こちらを怪しんではいたものの、最後には納得して、慎重に対応を検討する約束してくれた。

 探し求めていた人物が見つかったのに、懸念事項が多すぎて心が晴れ渡ることはない。



 そもそも何故こんなことになった?見たことも無いあの怪物は夢だったのだろうか?

 いや絶対違う。現にユーラが被害に遭っているじゃないか。

 俺の頭がおかしくなったわけじゃない。

 何だったのか。何故あそこに居たのか。真相は闇に消えた。


 でも怪物云々以前に、防ぐ手立ては無かったのだろうか。

 考えても仕方がない事なのは分かり切っているのに、悔やまずにはいられない。



 翌朝、再び化け物が居た建物へと戻る。着替えさせられる前の服も取りに来たかった。

 あの夜の事件が忘れられず、不意に後ろを振り返ってしまうことがあった。

 分かっていても確認せずにはいられない。



 もう一度部屋を恐る恐る覗くも、やはり明るく綺麗な部屋が広がっているだけ。

 汚れた床を掃除している最中も、やはり天井から目を離さずにはいられない。

 その後、探し物は隣の部屋ですぐに見つかった。


 いつも着ていた黒い服、あの人との思い出の品、

 一人では直せなかった擦れ傷が綺麗かつ完全に修復され、新品同様の輝きを放っている。

 誰でもない、ユーラが直してくれたのだろう。目が覚めたら少なくとも、この事には感謝しよう。




 その後、聞くところによると、ユーラは本格的な町の診療所に移送されたそうだ。

 ハイスたちが医者を呼んで診てもらったが、やはり目覚めない原因が分からず。

 医務室にずっと置いておくわけにもいかないので、入院という形で検査が行われるらしい。


 らしいというのも、俺は完全に蚊帳の外となったからだ。

 翌朝には住民の痛い視線を耐えながら様子を見に行ったが、門前払いされた。

 冒険者たちの会話を盗み聞きした結果、そうであろうという推測へとたどり着いた。


 フォモスが裏で手を回したようだ。だが気持ちは十分わかる。

 真偽は定かではないが、町での不穏な噂の立つ輩にこれ以上関わってほしくないのだろう。

 彼は、ユーラの仲間として当然の事をしたまでだ。こちらも責め立てる気は毛頭ない。


 ユーラの事は言うまでもなく心配している。不可解の言動の正体も気になるところだ。

 が、彼女を思えばこそ、今は距離を置くべきだろう。

 伝えるべきことは伝えてある。残りはあの二人に任せても大丈夫なはずだ。



 そう思って、俺はユーラの件からは身を引き、また自分の住処で悠然と過ごすことにした。

 そして、四日という時間が経過した。




 ――と、ここまでで現在に至る。

 暫しの安寧、精神的にも肉体的にも疲労困憊だった俺は、ゆっくりと体を休める。



 もちろんただ自適に過ごしていたわけじゃない。

 あの怪物について自分なりに調べていた。


 だが、あれから町の内外でも目撃情報は無い。

 仲の良かった男冒険者に情報収集の協力を呼びかけるも、有力な手掛かりを得られず。

 俺はかつてのように、意識せず積極的な行動をしていたのだろう。


 この四日間は誰も家に訪ねてくることも無く、

 生活のリズムを乱されずに生活できたことだけは幸運と言えただろう。




 進歩もないまま時間だけが過ぎ去っていたある日、

 また予想だにできなかった驚異的な出来事が唐突に起こった。

 それは協会の支部長が、夜明け直後にわざわざ家まで駆けこんで来たことから始まった。


 息もたえたえに彼は言った。



「――ゼント!すぐ来い!ユーラが……!!」


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