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第四十話『喪失』

 



 ――帰路に差し掛かったゼントは晴れ渡るように気分が良い。



 当面の生活資金はとりあえず手に入った。

 企みも首尾よく運び、噂好きな冒険者たちには瞬く間に話が広まるだろう。

 今日の残りの時間は、市場で食べ歩きをしながら食料を買いこもう。


 そう思っていたのに………



 目の前の二人の少年からは、避けられそうにない面倒事が舞い込むことが察せられた。



「あの、アニキ………ユーラが…!ユーラの事を…何か知りませんか!?」


 焦りながら話しかけてきた少年の名は「ハイス」

 茶色い短髪、ぱっちりとした目、いつもは軽妙で元気の塊のような性格だ。

 だが普段の様子からは想像もできないほどに、冷静さを欠いていた。



「落ち着け、状況が呑み込めない。一体何があったんだ?」


 何かしらの問題が発生したという事だろう。

 話が見えないため、一旦落ち着かせようとした。



 すると、代わりに傍に居たもう一人が説明を加える。


「三日ほど前からからずっと彼女の姿が見えないんです。最近はもうずっと別行動をしていたんですが、こんなにも会わないことなんて、今まで一度もなくて………さらには言伝も書置きも無く、流石に心配になって探していたところです」


 ハイスの後方から大儀そうに説明する彼の名は「フォモス」、

 気だるげな垂れ目、やや長く伸ばした金髪を後ろに流しクールな佇まいを保ってはいるが、やはり浮かない顔で焦燥に駆られている。



 フォモスとハイス、実はこの二人、ユーラと三人組でパーティーを組んでいる。

 三人はたまたま同じ日に協会へ入ったという事で、あり合わせで出来たチームだが中々にうまくいっていたようだ。


 ちなみにゼントが悪夢を見た日の夜、名も知らぬ少女を路地裏で口説いていたのはこの二人。

 美少年で顔がいい二人は、はっきり言って女性からの人気が高い。

 自己の欲望には忠実で、その器量を転用してか、悪用してか、よく女を引っ掛けて遊んでいた。



 ゼントには先輩にあたるという事で敬語を使ってはいるが、ユーラだけは距離感を弁えず呼び捨てにしている。

 三人とも実力は比較的高い方で、悲しい事に実際はゼントよりもある。




「――心当たりがある場所は全部探したんです!でも痕跡が何も残ってない!少しでも何か知ってれば教えてください!!」


 ハイスは真面目な性格を前面に出し、必死に訴えかけてきた。

 普段はお調子者ではあるが、仲間に対しては人一倍生真面目だと見える。



「……居なくなる前に、何か異変を感じなかったか?様子がおかしかったとか……」


 慎重になって聞いてみた。なぜなら思い至る点が無きにしもあらず。だが確証は全くない。それに、自分より近しい場所にいつも居る彼らの方が、何か分かるのではと思ったからだ。



「特にはなかった!あったら気が付くはず!」


「…いやあった。彼女の部屋から聞こえたんだ。ずっと独り言のようにあなたの名前を呼んでいた。だから何かを知っていると思って、我々はあなたも探していたんです」


 声を張って真剣に答えるハイス、だがフォモスは意見が違うようだ。



「えっ!?そんな話聞いてない!」


 一人だけ驚くハイス、二人の間で情報を共有する暇もないほど、切羽詰まっているようだ。

 確か三人は、男女で別れて宿で寝泊まりしていたはず。聞こえてきたというのも、間違いないのだろう。



「……とにかく、先輩は何も知らないようだ。これは我々の問題なので、あなたが無理に介入する必要もありません。ですが、気に留めておいてもらえると嬉しいです」


「何言ってるんだよ!命に関わることだったらどうするんだ!!頭を下げてでも協力してもらうべきだ!!」


「ハイス、少しは落ち着け。まだそうと決まったわけじゃない。俺たちの早合点だったら、周囲に無駄に迷惑をかけるだけだ」



 それは決してフォモスが、ユーラの身を案じていない故の発言ではない。

 彼女の実力や判断能力を信頼しての発言だった。


 彼らは彼女の事になると、なぜか顕著に意見が食い違った。

 二人は一言でいえば熱血と沈着、性格的に本来は犬猿の仲。

 上手くいっているのは共通の趣味があるからかもしれない。



 今回は、事情が事情だ。フォモスの意見は受け入れるべきではない。

 ゼントは申し出た。



「いや、俺も協力しよう。ハイスの言う通り事件や事故に巻き込まれているのだったら、放ってはおけないだろう」



 それはここ数か月で初めて、自ら能動的な意志を持つ行動の宣言であった。

 今までの彼の行動は全て受動的なもの。誰かしらに命令されたり妨害を受けたりして、仕方がなく重い腰を上げていたに過ぎない。



 彼が自ら捜索を申し出た理由は単純だった。


 なぜなら自分が失踪に関係している気がしてならなかった。

 面倒なのは確か。しかし施しを受けて、何度も助けてもらったていたことは事実。

 実習教育で指導した後輩ということもあり、行動を起こさない理由にはならない。



 思えば彼女の発する異様な光景を、他の者は目にしなかったのであろうか。

 ユーラが失踪する前兆が無かったと言えば噓になる。

 だが、今回の事態までは予測できるはずがない。


 何事もなく、戻ってきてくれるのならそれが一番だ。

 もしかしたら何の変哲もない普通の用事があって、そのことを伝え忘れただけかもしれない。


 だからと言って楽観視するのはいただけない。

 常に最悪を想定して動くべき。

 これは長年を冒険者としてやってきた知恵だ。




 ……もし、ユーラが死んでいたとしても、冷静に受け止めなければならない。



 ――それが、最悪を想定するという事なのだから………


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