表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒幻白夢 ~異形とヤンデレと~  作者: AL Keltom
過去との出会い
37/309

第三十一話『欲求』

 



 ――応接室にて、ゼントの発言により騒然となった中、誰しもが目を丸くしていた。



「――お前……前の生活に戻るって?……え?」


 カイロスも例に漏れず、訳が分からないと、たどたどしく聞く。



「ああ、今日はもう家に戻る。問題ない。実習教育の報酬は、後日ちゃんと受け取りに来る」


 一方的とも思える行動宣言から、部屋からさっさと出て行こうとする。

 歩きながら後ろを振り返り、付け足すようにライラに向かって言った。



「あとお前は、もう俺の家に泊まるな。支度金と竜を討伐した特別報酬が出るはずだから、金にも宿にもしばらくは困らないはずだ」


「いや、そうじゃなくて……お前はパーティーを作ってない。どうせならこの子と組んじまうとかどうだ?お前は嫌がるかもしれんが、それでも実力は申し分ないだろ?」


 カイロスは焦る。これでは自身の思惑と一致しない。

 言葉もたじたじになり、文脈が整っていなかった。

 だが、ゼントは自嘲するだけで、構ってはくれない。



「昨日も言ったろ。今の俺じゃあこいつの足でまといだ。他の連中が、今の俺よりも実力のあるパーティーが拾ってくれるだろう」



 言葉に感化され、場に居る全員が何も言えなくなった。


 彼も何か焦っているようだ。

 一刻も早く、部屋を離れたがっている。



「俺はもう以前のようには戻れない。あいつが傍に居ないと……こんなんじゃ、何も意味がないんだ。何も。……それじゃあな。元気でやれよ」


 最後にそう言い放つと、扉の取っ手に手を掛け、足早に部屋から出て行ってしまう。



「待って!」


 後ろから声が聞こえた。声はカイロスでも、セイラのものでもない。

 だが、もう対話の必要は無いとばかりに無視される。


 彼女は後を追って、部屋を飛び出した。

 扉を越えて呼び止めても彼は待ってはくれない。


 部屋を出て、大広間に向かう。

 出ると、辺りには先程も見た冒険者が蔓延っていた。



 人ごみの中、彼を。彼だけを血眼になって探す。

 すると奥の出口に、見えた。

 周囲から隠れるように身を縮こまらせて、そそくさと去る黒服が、


 わき目も振らず、再び歩き出す。

 大広間の中央を突っ切って、最短ルートで追跡する。



 ライラの頭の中には何故?という考えしかなかった。

 どうして?今まで全て順調だったのに、

 何故突然変わってしまったの?



 だが一人になった新人の彼女を、集団は放っておかなかった。

 ただでさえ噂の渦中にいるのだ。意識ある人間から積極的に声を掛けられるくらいは造作もない。


 初めは見知らぬ二人だった。

 好奇心に感けて、近づいてきたのだろう。

 冒険者同士は皆が思っているよりも他人行儀ではない。

 初対面ではあったが親し気に話しかけられる。


 彼女にとって二人の存在は邪魔、話しかけられる声も雑音でしかない。

 相手にでもしているうちに、彼を見失ってしまうではないか。


 だが不幸は重なり、近づいた二人を皮切りに一人、また一人と彼女に駆け寄って来た。

 やがて彼女の周りに人だかりができて、行く手を阻まれる。

 群集から矢継ぎ早に言葉を掛けられ、だが何も意味を理解できない。



 ――待って!待ってよ!


 心の中が叫んでも、自分の体の中で完結するのみ。意味を成すことは無い。

 早くしないと……!時間が彼女を焦らせる。


 想ったとしても言葉で言っても解決はしない。

 行動こそが、唯一の解決手段だと判断した。



 例えば――



 ――ここに居る、私の邪魔をしてくる連中を皆殺しにするとか…………


 瞬で、彼へと至る道が開けるだろう。



 いやだめに決まっている。

 何のために自分はここまで頑張ったんだと思っているんだ。



 そして、全ての術が封じられた彼女は、人だかりのど真ん中で、

 彼が視界から消えゆくのを、立ち尽くして見ることしかできなかった。



 やがて、話しかけても一切反応を示さない様子に、人々はどよめき始める。

 その揺らぎを彼女は見逃さない。

 人ごみの隙間を見つけて、高速移動で抜け出した。



 ようやく出口にたどり着いたライラは、彼の後を追う。

 目の前から新人の少女が一瞬で消えたと、後ろでの騒ぎを無視して……



 ◇◆◇◆




 ――同時刻、ユーラは怪しげな店に居た。


 自己の目的の為だけに動いていた彼女は、協会で巻き起こった騒動が耳に入っていない。



 その店の店主を容赦のない形相で問いただしていた。


 店は町のはずれの、しかも地下に場を構えていた。

 非合法というわけではないが、どこから出土したかもわからない品を、高額で取引されている。


 武器や、薬、

 中には掘り出し物もあるが、信用に足るか見極めが必要だった。



 そこにいる好々爺。彼から怪しさを取り除いたら何も残らないだろう。

 白く薄くなった頭髪、髭は無く大きな耳と鼻を持っていた。


 その店主に向かって、店に入るなりユーラはがなり立てた。



「ちょっと!どういうこと!?ここで買った薬が効かなかったんだけど!!対応する香水も買ったのに!!」


 ゼント以外の前で、ユーラの瞳は異常な様をなしていない。

 澄んだ色ではあったが、あふれ出る怒りに満ちていた。


 怪しげな男は薄ら笑いを浮かべ、いちゃもんをつけに来た客に朗らかに対応する。



「っひっひっひ。覚えとるよ。お嬢ちゃんが買った商品。でも何であんなに値段が高かったのんだろうね?」


「そんなの知るわけないでしょ!?どうせ、適当にでっち上げた効果とかなんでしょ!?いいからさっさとお金返してよ!!」


 店主の不真面目な対応に、ユーラは全身を逆立てさらに激情する。

 だが、店主は落ち着いた様子で説明を続ける。



「なぜなら、信用できる相手から仕入れたからさね。確かな筋さ。薬の効果も本物だし折り紙付きさ。偽物でも、粗悪品でもなく。……確実に断言できる。効果が現れなかったのは、他に原因があるはずさね。人間相手なら確実に効果が顕著に出る。亜人にでも飲ませたかね?」


「そんなわけ……!確かに彼から聞いた!入れて渡した食事を。食べたって!」



「実際に食べるところをその眼でみたのかい?」


「見てないけど……何?」



「っひっひっひ。哀れで愚かな娘よのぉ。わからんかね?その彼とやらが本当の事を述べなかったんじゃよ。その食事を食べずに捨てたか、まだ手を付けてないのか……」


「そんなはずない、今までだって……!彼がそんなこと……するわけない!理由もない!」



「さあ?どうぞ想像はご自由に。ただわしが言えることは、代金は返せんという事だけさね」


「そんな……そんなわけが……」



 飄飄とした老人の態度を他所に、ユーラの顔色はますます悪くなっていった。

 手で顔を押さえ、隙間から見える瞳が、またあの毒々しい色へと変貌していく。




 ――地下にある入り口から、勢いよく飛び出す影が一つあった。


 本来の目的を忘れ、するべきことを成すために、

 新たな策謀を考えながら駆けゆく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ