表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒幻白夢 ~異形とヤンデレと~  作者: AL Keltom
過去との出会い
33/309

第二十八話『間合』

 



 ――街路を駆ける黒、一風変わった二人組に、町ゆく人は視線を動かす。



「――はぁ、はぁ、はぁ……」


 協会近く住居の壁にもたれ掛け、呼吸を整える。



「ふぅー……」


 来た道を、恐る恐ると振り返る。

 ユーラが付いて来てないことが確認できると、安心しきったように最後に大きく深い息を吐く。


 手を引いて連れて来たライラはゼントとは違い、汗をかいたり呼吸が乱れたりはしない。

 だが彼には背を向けて、不気味なほどに口を堅く閉ざしている。

 眼には虚空を眺めているように見えて、もっと深いものが映っているのかもしれない。




 ――そこからは何も言わず、とぼとぼと力なく歩き、協会に立ち入ろうとする。

 ライラも無言に後ろから付いきた。


 入り口に近づいたら、待機していた男性職員にすぐさま奥の応接室へ案内される。



「……やけに人が多いな………」


 ゼントが思わず口に出してしまうほど、内部にある大広間には冒険者がひしめき合っていた。

 いつも静かな場所のはずなのに、今日は喧騒でひっくり返っている。


 厳つい装備の歴戦の猛者や、駆け出しの新人、はたまた他の町の冒険者や一般市民までもがいる。

 中央を二人で通り抜けるとき、群集からはあからさまな目を感じた。

 どうやらお主にライラに視線が集中しているようだ。



 それはごく自然。当たり前で、仕方がない。

 原因不明の竜の出現、同時に単騎で討伐できる者が現れたのだ。

 須らく話題の中心になるべき存在だった。


 彼女の姿に驚く者、怪訝な目で見る者、値踏みでもするかのように、にやつく者。

 中には心配そうに見る人影が三名ほどいるが、数に押され小さな灯だ。


 仲間同士でひそひそと話をしている者もいる。



「……あの子が……?でも小さすぎない……?」

「…まさかっ……あいつが手助けでもしたんだろ……?」



 対して、ライラは気にすることも無く堂々と練り歩く。

 好奇の視線に晒されて、騒めきの言葉が無秩序に彼女に降り注ぐ。


 自分の事でもないのにゼントは腹が立った。


 なぜ彼が憤りの感情になったは不明。

 だが、知っている者が見れば、猥雑で嫌悪感を抱かずにはいられない。


 彼は問答無用で、こちらを見てくる連中を睨め付けた。

 不機嫌な顔を露わにして、最大限威圧する。

 すると効果てきめんのようで、睨まれた者は何も無くいつも通りのように振舞い始める。


 これはゼントの顔があまりに恐ろしかった、と言うわけではなく、

 目線を逸らすほどに、彼が町で注目を集めていた証左だった。

 彼自身への分不相応な評価が、初めて役に立った瞬間かもしれない。



 不完全な静けさが協会を包みこんだ。

 奥の扉に入るまでは続いたが、彼の姿が見えなくなってからは抑制が外れ、再びさざめきはじめる。




 奥の応接室に入ると、職員からは椅子に座ってしばらく待機するよう言われ、当人は退出していった。

 部屋には豪勢でふかふかの肘掛け椅子が、長机を挟んでいくつか用意されている。

 本来この部屋は、本部から視察にやって来る協会幹部を接待するための部屋だった。



 ライラは言われた通り椅子に深く腰掛ける。

 座り心地が気に入ったのか、どことなく満足げな表情を浮かべている。

 ゼントは隣に軽く座り、時間を潰すことにした。


 二人だけでの静謐な時間が流れる。





「――朝に聞こうと思ってたんだが、昨日俺はどうやって家に戻ったんだ?」


 座ってから数十秒が経ち、静寂に耐え切れなくなったゼントは横を向いて聞いた。


 それは、昨日の夜について。

 もしかしたら、寝ぼけながら普通に歩いて帰ったのかもしれないと思っていた。

 だが真実は予想外のものだった。



「……私が運んだの」


「……は…?」


 一瞬、思考が停止した。



「だから、ゼントをここまで私が運んだの。時間だから、どうにかしてって言われて」


「……そうか……

 もしかしなくても、大洞窟から運んだのも?」



「そう」



 肯定を聞きゼントは大きなため息を吐く。最近はよくため息が出ている。

 その行動は信じられないが、ライラの言葉はであれば信じるしかなかった。



 思えば確かにできそうではある。

 彼女は、ゼントが苦労していた剣をあっさりと抜いて見せた。

 単純に考えるのであれば、彼女の怪力によるものであり、

 その力でゼントを持ち上げてか、引きずってか、運ぶことは可能にみえる。




 考え込んでいると、逆に今度はライラから質問が飛んできた。

 昨日のゼントの発言についてだった。



「そういえば、旅に出るって言ってたけど、どこに向かうの?」


「あれは冗談だ」


 ゼントは即答する。



「冗談?」


「…?ああ、要は嘘をついたんだよ」



「何のために嘘つくの?」



 その質問にやや考え込む。

 実際昨日のあれは実際、半分は勢いで、もう半分はカイロスに怒鳴られて拗ねてしまっていたからだった。

 また勢いで、てきとうに理由をつけて口走る。



「前に冒険者資格を、はく奪するとか言われたから意趣返しだ。俺が辞めて困るのはどちらかと言えばあちら側だし、それにあいつの慌てる様子、滑稽だっただろ?」



「つまり、嘘をついて面白がってたの?」


「そうだが?」



 ライラは口元に手を当て、ふーんと考え込む素振りを見せ、考え込んでいる。

 次には、また突拍子もない事を言う。



 未だ応接室に、新たな人は訪れない。

 会話はまだまだ続きそうであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ