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黒幻白夢 ~異形とヤンデレと~  作者: AL Keltom
合理への狂信者
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第二百七十四話『暴発』

 



 ――後ろがうるさい。


 今だけは無垢で正しい情報が得られず、ある意味では幸せなゼント。

 どうせ馬鹿が何かしているだけだろうと後方の騒々しさには目もくれず、ユーラとジュリの待つ我が家へ。それが何よりも先決だったのだ。

 とはいえ後ろの騒ぎの“質”が変わったことくらいは気づいていた。しかし脳内で必要のないと判断された情報は全て遮断されている。


 故に明らかに大きな音がしたところで、いずれにせよ彼はすぐには気づけなかったのだ。

 そんな男も、背中に数粒の小さな飛礫が当たれば振り返るのもやむを得ず。

 しかし男が振り返ったその時には何もかも手遅れで、世界の何もかもが色濃く変わってしまっていた。



 何があったのかゼントは当然理解もできない。

 先程まで柵にたかっていた人々の一角が跡形もなく崩されていて、地面はこちらに一直線になるように多少抉れていて。

 そして刑場の周りに数名が倒れていて、先ほど見たような赤が地面に滴る。


 嫌な予感がした時にはもう遅い。正面に堂々と立ち誇る人影が一体いた。

 顔はとてもセイラに似ている、似すぎているほどだ。だが、体の一部が異様に変化し、以前の彼女の体格とは似ても似つかない。

 何かがゼントの中で砕け散った。彼を覆っていた無知という、膜のような厚い何かが。



 その瞬間、まるで現実を正しく認識できたように、辺りの夥しいまでの悲鳴がようやく耳の中にも入ってくる。

 逃げ惑う者、腰を抜かしてその場で転げる者。事態はそれほどまで深刻に進行していたのだ。


 セイラに似た何かは、周りの状況などなかったかのようにゆっくりと彼のもとに迫ってくる。

 足取りは決して速くはないが、顔に不敵な笑みを携えてゆっくりと確実に。


 たった今、切断された彼女の頭部を見た。であれば彼女は死んでいるべきはずだ。

 首と胴体が分かれたのに生きている。つい最近も同じ光景をどこかで見た。



「ゼント……」


 意味としては理解できても人間の声色からは外れた音を上げれば、ゼントの拙い頭でも分かっただろう。今目の前にいるのは人間ではない、と。

 目の前の者がセイラ、いやセイラの皮を被った怪物であると認識するのはそこまで時間が掛らなかった。


 そして同時に人間ではないが言葉を話せて、しかも他人に成り代わることができる奴を思い出す。

 今まで行方が知れずどこの陰に潜んでいたのか。そしてようやく今になって満を持しての登場のつもりか。



 ――ライラ……



「――お前はまさか……」


 口から零しながら頭に浮かぶのはたった一人。後悔の足跡が今になって姿を現した。

 しかし、記憶とは似ても似つかない蕩けた笑みを浮かべ続ける。


 とうとう彼女はゼントの目の前にやってきた。広場にいた人間は自警団を含め蜘蛛の子を散らすように逃げており、助けを求めることもできない。

 近くでまじまじと見るとより人間からかけ離れた身体だとよく理解できる。

 不自然に白く人間離れした肌、不自然に肥大化して人なんて簡単に捻り潰されそうな四肢。


 恐怖からか、安堵からか。ゼントの足は鉛のように重くなって動かなくなった。

 その場で後ろに尻もちをついて、そしてとうとう逃げる手立てを失った。

 あの時の恨みをここで晴らしてくるのか、であれば早く楽にしてほしいものだ。


 しかし、彼が真に気になっている所はそこではなかった。もし今目の前にいるセイラの姿の者が奴であるなら、本物のセイラはどこへ?

 殺傷をも厭わない奴の事だ。現に今後ろの人間たちは血を流している。最悪の場合を考えなければならないが……



「よ、よくもセイラに擬態して俺を騙したな! 本物の彼女はどこにいる!!?」


「うん? ねえ、ゼント――?」


 ゼントはなるべく確固たる態度で怒りを込めて問いただした。

 対して彼女は、一瞬戸惑いの表情と声を上げ、次の瞬間には――



「ひどいわ、目の前にいる私を差し置いて他の女の名前を出すなんて。私を他の誰かと勘違いしているの?」


「え? ……いや、騙されるものか! 成り代わったところでお前はセイラじゃない。人を殺した罪も他者に押し付けることなんかできやしないんだ!」


 ――勘違い? 

 予想とはだいぶ違った反応にゼントは一瞬の戸惑いを隠せない。

 しかしゼントは流されることも認めることもしない。

 するとセイラの見た目の化け物はおどけた様子で首を傾げる。



「うーん……騙してはないんだけどなぁ。どうやったら信じてくれるのかな?」


 このままシラを切りつづけるつもりか。なぜそんな分かりやすい嘘をつき続けるのか。いや、ここまで来たら嘘をつき続けるしかないのか。

 目の前には数日前に見た様子がおかしいセイラのまま。だとしたらかなり前から入れ替わっていたことになる。

 両者はしばらく考え込んだ後――化け物の方が、わざとらしい態度で聞いてきた。



「あ、そうだ思い出したぁ! 何とか樹って魔獣を倒した帰り道、でっかい石が飛んでこなかったかしら?」


「それは……確かにそうだけれども……何の関係が……?!」


 記憶を思い起こせばそんなことがあった。あの後に色々ありすぎて、今の今まですっかり忘れていたが……

 不思議に思っているとセイラの形をした化け物は、いよいよ訳の分からない言葉を吐いてくる。



「――あれをやった犯人はねー、セイラ。つまり私なの!」



 そのセリフが耳に入るや否や、ゼントの頭の中はまた真っ白になる。

 恐る恐る見上げると、彼女は意気揚々とした表情で堂々と正面に立っていた。


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