第二十五話『激動』
――どうやら、カイロスは独断専行で数人冒険者を引き連れ、大洞窟に向かっていたようだ。
傷だらけのゼントが抱えられるのを見て、異常を検知した。
すぐさま、懇意にしている冒険者を招集し、調査へと向かった。
カイロスの飄々とした性格は人望を集め、それを可能にする。
――そして彼は、常識では考えられないような光景を見た。
伝説と謳われるほどの迫力、大洞窟に竜が居るのだ。
本来このような場所に絶対いないはず。
信じられない。
勿論、自然に絶対などありはしないのだが、それでも何度も目を疑った。
だが更に信じられないことが一つ。
竜が血を流し、息絶えているのだ。
鱗が体の内側に抉りこみ、反対側の鱗は、はじけ飛んでいた。
鋭利ではない武器、なのに強大な力による攻撃。
真っ直ぐに進む竜の足跡、しかし周囲の土は荒れていない。
決着が瞬時に、一方的につけられたという事が見て分かる。
竜を殺せる人物にカイロスは心当たりがあった。
それはゼントという名の男。
探索成績はいつも上位で、依頼もきっちりこなして、
皆のあこがれだったパーティーの片割れ。
そして、喜んだ。
彼の腕は鈍っていなかったと、
ここ半年は精神的に不安定だったが、やればできる男なのだと、
傷だらけになっていたことは解せないが、何か理由があるはずだと思った。
しかし協会に戻って、ふたを開けてみたらどうだ?
竜をやったのは、彼ではなく、新人の少女だとセイラは言う。
ゼントも否定せず、自分は気絶していただけだと認めた。
自分が彼に期待しすぎていたのか?と自問するカイロス。
そして、何より気になるのが、ライラという少女。
見た目は異様だが、
雰囲気、喋り方、名前、かつてのゼントの相方を思わせる。
もしかしたら……彼の救世主となりえるのではないか?
そう安直に考えた。
「――おいお前ッ!!それでも上位の冒険者かッ!!?」
さらに詳しく話を進めるとカイロスは激怒した。
聞けば、戦闘が始まってすぐゼントがライラを庇って気絶したらしい。
もし少女が、か弱い存在だったらあの場で間違いなく殺されている。
にも拘らず、後先考えずに突っ込み、自滅したというのだ。
「支部長、落ち着いてください。言ったではありませんか、少女を庇ったのだと。それに彼は久しぶりの依頼の上に、今回は不測の事態でした。原因は不明ですが、みんな無事。何も問題は無いでしょう?」
「……でもよぉ、お前の実力ならならもっとうまくできたはずだろ?」
セイラは宥め諫める。
一方カイロスは納得できない点があるのか、子どものようにうじうじと引きずっている。
その様子を傍らに、ゼントは一点を見つめ考え事をしていた。
……やがて、思いつめた表情を数度見せたかと思えば、やっと口を開く。
「今回の件は俺が全部悪かった。力不足だったようだ。責任を取って冒険者はやめる。報酬もいらない」
「「「えっ?」」」
衝撃の発言に、部屋に居た三名が同時に唖然の声を上げる。
内、慌てふためく二人が口々に発言する。
「いやいやいやいや!!そこまでしなくてもいい!!これから以前のように依頼もこなしてくれ!!」
「そうです!町ではただでさえ冒険者が少ないのに、今の収入では、本部からまた恨み言を言われてしまいます!!」
それぞれ、別々の切り口からゼントを説得する。
片方は、組織的な事情のようだが……
だがゼントは絆されない。
「そろそろ潮時だと思ったんだ。これはただのきっかけに過ぎない」
「そんなこと言ってこれからの生活どうするつもりだよ!?」
彼の今後を案じての発言だったが、突っぱねられる。
「さあ?あんたが気にする必要もないだろうさ。旅にでも出ようかね。
まあいいだろ?へまする俺なんかより、有望な新人が入ったじゃねえか。なっ?」
ライラの顔を見て、相槌を求めるように聞いた。
彼女が協会に所属していれば、彼らの不安材料は取り除かれるだろう。
彼らしくなく、代替案としては理にかなっていた。
しかし、思惑は裏腹に世の中は案外うまくいかないらしい。
「ゼントがやめるんだったら、意味が無いから私もやめる」
再び起こる衝撃的な発言。
声色には感情が困らず、何を考えているのか分からない。
「……まあ、そういう事だ。後は三人で何とかやってくれ。俺は眠いんだ。少し休ませてくれ」
発言を聞いていなかったのか、それとも対話が面倒になり遠ざかりたかったのか。
ライラの発言は聞かなかったことにして、言葉を続ける。
投げやりに放り出し、自身は毛布をかぶって外界との交流を拒絶した。
「おい!今のを聞いてなかったのか!?お前の提案は、意味をなしてないぞ!!」
当たり前だが納得がいかない者が居る。
該当者は声を荒げ、手段を講じた。
「分かった!!俺が悪かった!!すまん!許してくれ!!さっきの話は全部無し!!」
慌てふためいたように、カイロスは言葉を続ける。
「今回の報酬も無論出す!だから頼む!!やめないでくれ!!」
思考が停止したかのように繕う。
ライラの発言を聞いたが為、余計に焦ってゼントを呼び戻そうとする。
だが彼はもう夢の中、
「――私は現状整理のために、事務に戻ります。分かってると思うけど、ここは夜には閉まるから注意してね」
軽くカイロスに伝えると、セイラはそそくさと退出する。
やはり状況が状況故、ここで油を売っている暇はないようだ。
カイロスもしばらく粘っていたが、彼には支部長として成すべきことがある。
そして、ライラに言伝を頼んで退室していった。
そのまま、ゼントの激動の一日が幕を閉じる。




