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黒幻白夢 ~異形とヤンデレと~  作者: AL Keltom
合理への狂信者
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第二百五十話『撞着』

 



「――そういえばゼント、私が教えた情報を誰かに伝えたり話したりした?」


 ゼントは心がどこかへ行ってしまったように悩み、意識が遠のくほど深く考え込んでいた。

 その思考に割り込むように横から入る(ひずみ)、だから単純な質問にも頭が回らず曖昧な返事をしてしまう。



「――い、いや……誰にも言ってないと思う……」


「そう……ならいいわ、安易に広めると混乱が広がりかねないからできる限り内密に」


 どうやらセイラは納得したようだが、ゼントの言葉は少し訂正せねばならない。実際はカイロスに対し口走り、彼女の名前を一瞬出したことを。

 我を取り戻して気づくも、しかし思えば詳細に話したわけでもない。であれば完全に嘘とも言えないのでわざわざ訂正するほどでもないか、と欺瞞を放置する。



「はあ、俺はこれからどうすればいいんだ……」


「私が助言をするなら、しばらくは町に残って様子見ってところかしら。また襲撃事件は起こるでしょうけど、この町を出ていくことと比べたらゼントの家は安全よ。落ち着くまでは引き籠っていれば?」


 そう言われてゼントの思慮はまた深いところへ。まだ事件の全貌を掴めてない時点でこんなことを言うのは傲慢かもしれないが、もしかしたらこうは考えられないだろうか。

 “自分がいるからこの町の住人が襲われている”と。自分がいなくなれば被害も移動するのではないかと。

 ただそれは己の自己満足かもしれない。確証を得るためにさりげなくセイラから情報を引き出す。



「でも、今日はフォモスが巻き込まれたんだ。この先も知り合いが巻き込まれないと言い切れない。相手の目的は何なんだろう……」


「……食欲を満たすためか、ただ快楽か。少なくとも目的もなく、こんな非道なことはしないわよね。相手が理性を捨てた化け物でもない限りね」


 ゼントはまたしても揺さぶられる。特に当てがあるわけでもないが心がざわめく。

 奴なら快楽で人殺しも十分あり得る。恨むならさっさと自分を殺してくれればまだいいものを。

 また考え込んで表情が硬くなっていたのだろうか、セイラは若干慌てたように言葉を綴る。



「でも安心して、これからは町の南東で頻発するみたい。見立てによると一先ずは五日後。こう言うとあれかもしれないけど、あの辺りはその、貧民街だからゼントの知り合いは居ないんじゃない?」


「まあそれはそうなんだけども……」


 ゼントも優しいが一応人間であり、赤の他人が死ぬことに関心が無いとは言わないが比較的薄い。

 しかしそれは命が軽い世界であるからこそ。以前も言ったが自分の身は自分で守るのが常識だ。

 彼も例外なくこの世に生を受け、今日まで生きてきた者なのだろう。好んで面倒ごとに首を突っ込み弱者を救済するなど、聖人めいた行いをする余裕はない。



「まだ何か心配事はある?」


「いや、何も……」


 本当はいくらでもあるが言えない。全てを明かしてしまえば即ちライラのことを告白することになる。

 実際は隠しておく必要もないのだが、ゼントの中には何となく……できない理由があった。



「じゃあこれで話はおしまい。事件の捜査に関しては任せてほしい。それよりも家で待っている子たちのためにも早く帰った方がいいんじゃない?」


「あっ……」


 セイラは手を叩きそう言うと、立ち上がってゼントを尻目に扉へと歩き始める。

 そしてこっそり掛けていた鍵を外す。今回は上手く相手が流されてくれたから良かったものの、もし追い詰められたらどうするつもりだったのか。


 そしてあろうことか己が好奇心のために家のことをすっかり忘れていたゼント。

 口を開けて座ったまま唖然としていたがため、セイラの行動も目に入らない。



 結局、大した手掛かりもなく無駄足となった。問いただそうとしたつもりが会話の手綱を握られてもいて、始終踊らされっぱなし。

 むしろセイラに思い出させてくれたことを感謝すらし、部屋を飛び出すとフォモスたちには軽く挨拶して家へ突っ走る。


 だがしかし、家へ戻ったら戻ったでまた一悶着があった。玄関の扉を開けると……

 家具の配置が変わるほど、そして床に物が散らばって荒れている室内が目に入る。

 見える範囲で二人の姿はどこにもない。ゼントの思考が乱れて固まっている時、その悲鳴は聞こえてきた。



「――やめて!! 放して!!」


 今のは間違いなくユーラの声、奥の部屋から甲高く聞こえてくる。

 一瞬でゼントの顔は青くなり、脊髄反射で駆け出した。

 そして悲鳴の主をその眼に入れた時、ゼントは全身が脱力し崩れ落ちる。


 見るとユーラは取っ組み合っていた。なら今すぐ止めるべきなのだが。

 なんとその相手がジュリだったのだ。であれば心配も弾けて安心から力が抜けるのも当然。

 家を離れていた間に喧嘩でもしたのか、それにしては互いの動きが一方的だ。


 ジュリはユーラの体にしがみつくだけで、ユーラはジュリの頭をポカポカとぶっている。

 しかしジュリは体から離れることはなく、執着を貪るかのように抱き着き……とにかく不思議な光景だった。



「えっと、二人とも……?」


「あっ、お兄ちゃん!!」


 そして更に不可解なのは声を掛けた瞬間、二人ともこちらに気づいて瞬時に取っ組み合いが解除されたこと。

 ただの喧嘩ならそうはなるまいて。何があったのか、一応は一家の長として話を聞かねばならなかった。


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