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黒幻白夢 ~異形とヤンデレと~  作者: AL Keltom
合理への狂信者
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第二百四十二話『一存』

 



 ――翌朝、ゼントはかろうじて目覚めの良い朝を体験する。


 全身は寝汗で濡れて、手足は今も震えを離してはくれない。思えば悪夢を見たのはいつ以来だろうか。

 そもそも夢を見ること自体少なく、見てもずっといい夢しか見なかった気がする。

 昨日の昼間の帰り路にしろ、きっと疲れていたからだろうと思う。


 それにしても五感がはっきりしていて、やけに現実みたいな夢だった。

 夢であったことを心から安堵しつつ、しかし気分の悪さは拭えない。



 それでも比較的目覚めが良かったのは起きた時、ユーラとジュリが傍に居てくれたから。

 ゼント自身が抱きかかえるような形でユーラが両腕の中に丸く納まり、隣には目覚めるや否や下がった目尻で、眠くも微笑ましそうに見つめるジュリ。


 これは何の罰だろうか。と初めは思ったものの、よくよく考えれば彼女たちは今の自分が唯一心を通わせられる存在だと気づく。

 だから少しでも悪く思ってしまったことを猛省して、そして改めてここが自分の唯一の居場所であると再認識した。



 これは事前に話し合ったのだが、ジュリが寝ずの番をしてくれていたらしい。朝、ゼントが起きると同時に彼女は床に就く。

 代わりに昼間はゼントが見張り代わりだ。とはいっても亜人ほどの察知能力は無いし、なんなら寝ているジュリの方が先に気づいてしまいそうだが。

 せめてすぐに逃げ出せるように用意は整えておく。


 夜間の状況を聞くと特に異変は無かったらしい。やはりここにいれば大丈夫なのだろうか。

 あるいは夢の中で“襲わない”と言われたことを思い出す。しかしあれは夢、見方を変えれば自分が理想とするだけの単なる幻想。

 事実、ユーラは町中にもかかわらず襲われたのだ。だからまだ警戒は緩められない。

  欠伸をしながら眠りに就くジュリを見送り、ゼントはこれからの方針をもう一度確認する。





 そんなこんなで二日は家に籠りきりだった。町に出ることもせず、何もせず家で久しぶりに怠惰な生活を過ごす。

 その間、一日中暇ではあったが昼も夜もユーラにずっと張り付かれている。鬱陶しいとは思わないがどこに行くにも付いて回るので少し困ることもあった。

 代わりにジュリはどこか遠慮するように近づいてこなくなる。一体どんな心境の変化だろうか。


 ともかく何とか二日までは居られたのだが、ここで深刻な事態が起こっていた。買い込んであった食料が底をついたのだ。

 今まで継ぎ足そうとして結局買い忘れていることも多い。むしろ今までよく持った方。ただ一つ、尽きる時機が悪すぎた。


 ゼントだけならここから一週間でも家に引きこもり続けるだろう。空腹より安心が欲しかったから。

 しかしユーラやジュリにも同じ苦痛を強いるわけにはいかず。あれこれと考えた末、意を決して街に繰り出すことにした。



「――極力すぐに戻る。少しでも遅かったら何かあったと思ってジュリと一緒に逃げてしまってもいい」


 いくら心構えをしようと化け物に本気を出されたら無益だが、用心しない理由にはならない。

 あるいは亜人のジュリであればユーラを連れて逃げ切ることもできるかもしれないと思って。もはや万が一が起きないよう祈るしかない。


 いつもとは違って人目が多い大通りを通って。今はお金も大切にしたいためあまり贅沢はせず、ただ量を買い込む。

 何事もなく、と言えばいいのだろうか。代り映えしない用事を済ませた。



 だがこれは不穏が転化しただけと捉えるべきなのか。聞くべきでなかったかもしれない情報が舞い込む。

 それは協会前を通りかかったとき、ふと入口付近に居たカイロスが目に留まるところから。彼の姿を見るのは数日ぶりだった。


 向こうもこちらに気が付いたみたいで。会うのが久しぶりだからか、自然と体が近寄っていく。

 だがカイロスの顔は少し真剣というか、かなり青ざめていた。何か良からぬ内容を含んでいることはすぐに分かる。

 いつものおおらかな彼からは決して見られない。それだけの何かが起こっているということだ。




「――おい、ゼント。お前は何ともないよな…!? 大丈夫だよな!?」


「えっ、藪から棒に、どうしたんだ突然……」


 話しかけてきたと思ったら出会って早々、挨拶も無しに質問攻めだ。

 訳が分からず、何かと思って聞いてみるとカイロスは我に返ったように目を丸くするや――


「あ、いや……今はちょっと言えない内容だった……」


 何かが分かると思ったのに、しかしカイロスは寸前で口を止めてしまった。これでは焦らされているようなもの。

 さすがのゼントもこれには顔を顰めざるを得ない。当然、不満は向こうにも伝わったようで彼は釈明する。



「悪い、でも落ち着いたら必ず教える。しかしこれだけは言わせてくれ。用心しろ、特に夜はな。」


「え、ああ、それは勿論。特に最近は色々あって気を付けてはいるけれども」


 何やら気になる発言が続くが、深く詮索できそうな様子でも無い。しかもカイロスはもう協会の建物の奥に行ってしまい聞くこともできなかった。

 ともあれゼントも帰りを待つ者がいる身なれば、先を急がねばならない。カイロスの態度も気にはなるが……しかし迷いの雲を払っては、少し急ぎ足でまた歩き始めた。


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