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黒幻白夢 ~異形とヤンデレと~  作者: AL Keltom
合理への狂信者
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第二百三十七話『不肖』

 



 ――ゼントはその日、セイラの言葉に甘えさせてもらい協会に一泊することにした。


 ユーラと一緒に、同じ一つの寝台に。深夜の部屋に灯るろうそくを静かにぼんやりと眺めながら。

 最近は寝る場所の距離が幾分離れていたようにも思えるが、何分気にすることは無い。

 今は身を寄せ合って、少なくとも今は安らかに眠りに落ちている。


 セイラはというとすぐ隣にあった予備の寝台をわざわざ隣に移動させて、そしてゼントの傍で眠っている。

 協会備品の私的流用、普段の彼女であれば絶対そんなことはしないのだが、やはり様子がおかしいと見て取れる。

 よく見たら彼女はいつもの制服も身に着けていない。仕事に明け暮れて疲れてしまったのだろうか。




 そして翌朝――ゼントは気持ちが定まらないのと警戒心から眠れていなかった。

 明け方にはようやく少し眠りに付けて、またしばらくして目覚めると……


 ――なんとセイラが同じ寝床に潜り込んでいたのだ。

 布団の下に入って同衾状態、寝場所が隣り合っていたとはいえこれは……



 目覚めてすぐに気が付く彼は心臓が止まるくらいに仰天して、どうしてよいか分からず声も出せず固まった。

 一方彼女はゼントの起床に気が付いて顔をゆっくり上げる。艶めかしく艶やかで蕩けた顔を。

 本当に眠そうでもあり、確信めいたものでもあり。白く柔らかそうな肌を見るに雪のような清純を覚える限り。


 普通の男なら驚いても悦ぶところ、しかしゼントは一人で嫌なことを思い出す。

 どうしてだかライラの姿が頭を過るのだ。楽しかった日々、同時に辛酸を浴びる思いを。

 故に飛び起きて急いで立ち上がる。ユーラの安眠の妨げすら顧みず。



「うわっ、お兄ちゃんどうしたの!?」


「あれぇ? どうして離れちゃうの?」


「セイラ、なんでこっちに……?」


 それぞれがそれぞれに疑問を投げかける展開。

 三つ巴でも会話は線としてしか機能せず。



「ごめん。私ってば寝相が悪くてね」


「…………」


 彼女は普段から嘘や冗談を使う人間ではない。にやにやとこちらを窺いながら笑っていてもその考えは変容せず。

 だから黙っていながらもその言葉を信じてしまった。おかしいという感情は抱きつつも彼女の今までの行動を過分に顧みて。

 しかしこの違和感は自分が疲れているからなのか、あるいは他に理由があるのか、どうにも掴めず暫し考え込む。



「それで、今日も泊まっていく?」


「いや、流石にそれは……」


 動かない頭で何とか思索に耽っていると、不意打ちのようにセイラの提案が飛んでくる。

 だがいくら非常事態とは言えこれ以上厄介になるのは気が引ける。もともと町は見捨てようとしていたくらいだから余計に。

 ゼントは一瞬反応が遅れながらも遠慮の意思を返す。すると彼女は留まった思考を切り開く言葉を吐いた。



「まあ、出会った後に丸一日襲われないんならもう町中でも安心できるんじゃないかしら」


「あ、そうか……」


 彼は何かを思い出したように相槌を打つ。セイラの言う通り、化け物は最後まで現れなかった。

 奴は極めて高い運動能力を持つ。であれば町まで付いてきてとっくのとうに襲うことだってできたはず。

 それはつまり何かしらの理由があってできなかったのだ。


 もしかしたら今なら奴の追跡を完全に振り切って遠くへ逃げ切れるかもしれない。

 なぜこんな単純にことに気が付かなかったのか。自分で自分の脳みそが情けなくなる。


 それに医務室の中はむしろ夜の草原よりも静寂で、逆になぜか不気味さすら感じ取ってしまうほど。

 それよりは家に帰ってジュリやユーラと少しでも過ごしたい。すぐ家屋を棄てることにはなるのだが。

 更に言えば怪我をした冒険者とこの部屋で鉢合わせになるのも御免だ。最近も変に目立っているせいで居心地が悪くなる。



「俺たちはもう行く。これ以上は居づらいからな」


「そう、でも最近は物騒みたいだから気を付けてね」


 セイラにそう言い残されてゼントは協会を後にする。

 ユーラの手を引き、やや急ぎ足で。


 昼間なら人目があるので比較的堂々と歩ける。通りの隅ではなくど真ん中を細々と。

 ゼントは目立つのが苦手で大っぴらに人前に出ることは避ける傾向にあるのだが、まさかこんな日が来ようとは。

 とここまで考えていたもののわざわざそんなことはせず薄暗い外れた道を歩く。一人ならまだしも今はユーラが傍に居るから。



 彼女は相変わらず視界を塞いで外界の情報を遮断している。それほど外の世界が嫌なのか。

 であれば逃げる旅は苛酷になるかもしれない。環境を変えることは必然的に心労も伴うものだ。

 細い路地をいくつも横切っていく……その内の一つを通りかかったところで――



 “――ねえゼント、なんで私を置いて行ったの?”


 突然――今何か……路地の奥にゆっくりと見えた気がする。鮮血のような赤い二つの双眸。

 幻覚か? いや幻覚に決まっている。そんなことがあってたまるか。

 現に振り向いてみると何もない。しかし耳には嫌な心地が縫い付けられたように残っている。


 なぜ今更になって未練がましく湧いてくるのか。とうとう分からなくなった。

 今猶己に在する衝動の枷が解き放たれる前に。


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